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名前の由来

 いつか自分も両親のような魔術師になると意気込んでいた。


 そのために毎日、父に魔術の講義をしてもらっていた。母も一緒になって講義を受けていたが、直ぐに音を上げてしまう。


 ルアはやれやれといった風で肩を竦めた。


「透理、キミはもう少し、忍耐というものを身に着けた方がいい。永理は毎日こうして私に教えを乞うぞ?」

「あはは、無理! だって、ルアの言ってること難しいんだもん。仕方ないよね」

「まったく、仕方のない子だ」

「またそうやって、ボクを子ども扱いする! 永理、お父さん酷いよね!」

「え、えぇと」

「永理を困らせるな」


 どちらの味方に付けばいいのかと困惑する永理に、ルアは助け舟を出した。透理はブーブーと言いながらも、ルアと永理に屈託のない眩しい笑顔を向けた。まるで『太陽』だと思った――誰もが透理の周囲に集まる理由の第一がこの人好きのする笑顔。表裏のない正直な性格も他人からしたら居心地がいいのかもしれない。


 透理が太陽ならば、父は読み夜をそっと照らす『月』だった。


 母のように自己主張はしないが、誰もが眠る時間を人知れず見守るその姿が、父の『在り方』と重なった。


 ここで一つ疑問が生まれた――太陽のような母と、月のような父を親に持つ自分は、何なに喩える事が出来るのだろうか。


「む、永理、どうした?」

「お父さんとお母さんは、月と太陽みたいに皆を照らしてくれるけど、僕は皆を照らせるのかな?」

「あはは、おかしなことを言うね永理は。大丈夫、ちゃんとボクとルアを照らしてくれているよ。希望の光って言うのかな。永理が生まれてきた時点でもうボク達を照らしてくれているんだよ。もし永理が大きくなったら、月と太陽みたいに照らしてあげればいいんだよ」

「ボクにお父さんやお母さんみたいに、誰かを照らしてあげられる自信がないよ」


 落ち込む永理にルアが頭を撫でた。


「お前は私達にとって自慢の子だ。月にも太陽にもなれないのなら、『星』になればいい。一つ一つの輝きは小さいかもしれないが、その小さな輝きを空一面に散りばめてあげればいい。大きなことをする必要はない。困っている人が居れば手を差し伸べ、迷っている人には手を引いてあげる。そんな些細な輝きでも十分だと思うぞ」


 ルアの言葉に永理は透理と共に目を丸くして聞いていた。


「ルア、カッコいい! 流石はボクの旦那様だね。それとも、お師匠様?」

「どっちも、か?」

「そういう事だよ、永理。ボクはルアや永理のように頭は良くないから。自分に出来る事をやっていけばいいんだよ」


 ルアに抱き着く透理は幸せそうに、永理にも手を差し伸べた。


「家族で抱きしめ合おうよ! 今の幸せを目一杯に共有しあおう」


 永理は恥ずかしかったが、ルアの膝の上に乗った。母と父がその小さな身体を優しく抱きしめた――とても温かな家族の温もり。永遠に続けばいいと願ってしまう。


「僕、とても幸せだよ。お父さん、お母さん。この幸せがずっと続けばいいね」

「そう、だな。続けばいいな」

「永理はね。どうして永理って名前か知ってる?」


 唐突に自分の名前の由来を聞かれて首を横に振るう。


「ボクの名前は透理でしょ。これはお父さんとお母さんが、常識では縛れない自由な子供に育って欲しいって願いを込めて付けてくれたんだ。ほら、名は体を表すっていうでしょ?」

「キミは、少々常識に欠ける所もあったな」

「そ、そんなことないし! ボクは立派なお母さんやってるし! そんなことより、どう想像つく?」

「永遠に生きれる?」

「確かに永遠に生きられるって聞くだけでは、凄く幸せそうだよね。でも違うよ。確かに長生きしてほしいって意味合いでも付けたけど、一番は幸せが永遠に続きますようにって意味で付けたんだ。ボクが考えてつけたんだよ!」

「キミが名前を、私に考えさせてくれなかっただけだろう」

「えへへ、だって男の子だったらボクが名前の候補を出すって約束だしね」


 永理は初めて自分の名前の由来を知った。


 永久に幸せが続きますように――とても素敵な名前だった。自分の名前を一々気にした事も無かったが、これからは自分の名前に誇りを持つ。そう決心した。名は体を表す――自分でもそう在るように努力をして、母と父にいつまでも誇らしい自慢の息子であろうと。それが幸せであると。


「ボクにしかできないことで、世界中の皆を幸せにするよ! 絶対、悪い奴に負けないんだ!」

「世界中とは大きく出たな。だが、そうだな。目標を大きく持つ事は悪い事じゃない」

「でも、お父さんお母さん。不老不死って幸せじゃないの? だって死なないんでしょ。死なないなら人助けもいっぱいできるよね?」


 透理とルアは何かを考えるように間を開けた。


「不老不死の憧れというのは、表面上の輝きにしか――」

「ルア、難しいよ」


 透理はルアの言葉を静かに遮った。


「えっとね。病気になっても死ねないのって、すごく辛いと思うんだよね」

「お薬飲めば治るよ」

「うん、治るよね。でも、人はね。限られた時間が在るから、どう楽しく生きていこうか考えられると思うんだよね。不老不死だと最後にはやることも無くなっちゃうと思うし」

「そんなものなのかな?」

「そんなものだよ。大きくなればその意味が分かるようになるよ。ねっ、ルア」

「あ、ああ。そうだな」


 不老不死の何が良くないのか、幼い永理には理解できなかった。それでも母がそういうのならばそうなのだろうとしか認識せず、今の幸せに身を預けた。

こんばんは、上月です(*'▽')



久しぶりに透理とルアを書いていて、ああ、この二人はちゃんと幸せの時間を生きているんだなと実感しました。残された時間を大切な人と過ごす透理は、本当に悔いなど抱いていないんだろうなぁと思いながら書いていました。



次回の投稿はちょっと間が空いて、8日の0時を予定しております!


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