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波多江姉妹の真実

 病室の床の冷たさと、頬に触れる刃の冷たさ。


 同じ冷たさでも宿るべき感情が違う。


「稲神、お前さえ居なければ、瑠依は今も生きていた。また死ぬ事もなく」

「また? それって、どういう――」

「黙れッ!」


 振り上げられた刃――窓から差す月明かりを纏う。冷たく銀光を闇夜に浮き上がらせた。沙羅はこのまま『罪』には『罰』をと瞳を伏せた。瑠依には本当に申し訳なかった。自分の死によって少しでも報われてくれれば、芽衣がこの身を斬り捨て易いように、華奢な身体を張った。過去を思い返せるように瞼を閉じた。


「さぁ、やるならやりなさいよ」

「えぇ、殺してやるッ! 今すぐに、殺してやる!」


 だが振り上げた刃が振り下ろされず、天上に切っ先が向むいたまま震えている。芽衣のうっすらと見える表情――憎悪と悲しみが乱れ混ざり、されどその間隙にて押し留める感情――否定があった。


「どうしてッ! 瑠依を殺した、コイツをどうして殺せないの!」

「それはのう、芽衣。本当は分かっておるからであろう。稲神沙羅は悪くは無いし、殺してはおらぬと」


 扉が吹き飛んだ病室の入口に立ち、ゆったりと言い聞かせるように語り掛ける女性の声。沙羅と芽衣は声の主に顔を向ける。蛍光灯に照らされた『無明先見党』党首――鳴宮渚だった。


「芽衣、瑠依は大丈夫。あの程度では死にきれない。お前たちはそういう存在だと知っているであろうに」

「――ですがッ! 確かに私と芽衣は死にません。人じゃないですもの。でも、死ななくても、痛みや恐怖は紛れもなく人と同じものです!」

「死なない?」


 沙羅が怪訝な顔をすると、芽衣はやり場のない怒りの形相を沙羅に向けた。自分がどうするべきか分からない困惑の色を滲ませて。芽衣は大太刀を鞘に納め――沙羅の横っ面に叩きつけた。


「どうして、妹を守ってくれなかったのよ! あんたは、強いのでしょ!? 裏社会で魔術なんていう奇跡を使って恐れられていたんでしょ。だったら、どうして機械兵士ごときに苦戦してるのよ! どうして、お得意の魔術で瑠依を助けてくれなかったの! 答えて、答えなさいよ、稲神沙羅」


 頬の痛みを抑えて身を起こす――芽衣は今とても混乱している。沙羅は余計な刺激を与えないように、彼女の問いに真摯に答えた。


「魔術は誰もが思い描く奇跡なんかじゃない。魔術は魔法じゃない、だから死者蘇生なんて出来ないの。魔術師は熟練兵士じゃないのよ。言ってしまえば学者。私は貴女が思っているほど強くはないわ。そう、瑠依よりも、ね。それと、一つ聞かせて。貴女達が死なないってどういう事?」


 芽衣と渚の言っていた『死なない』。そういう『存在』という引っ掛かる単語。その沙羅の疑問に答えたのは、激情に狂っていた――今は落ち着きをみせている芽衣だった。その表情は疲弊しており、沙羅と同じようにその場で尻を床に付けた。


「悪かったわね、稲神。取り乱してた。本当は分かってた、あんたが殺したんじゃないってことくらい。でも、瑠依の死体に覆い被さってた光景を見て、コイツが妹を解体したんだって思いこんで、でもありえないってのも分かってた。だって、私達に魔術とかそういった力が通用しないから」

「魔術が通用しないってどういうことよ。確かに瑠依と初めて殺り合った時も、あの子、私の魔術が効いていなかったけど」

「私達はね、式神なの。渚様のね。私達は生き続ける、渚様が生きている限り。死んでも直ぐに生き返れるの。歳を取る事も無いし、死ぬ事も無い。まさに不老不死よね」

「式神。人じゃないって事?」

「そういう事。死んでも数時間すれば生き返る。稲神は、瑠依のことをそれでも友人だって言える? 今まで通り、何一つ後ろ暗い事考えずに接する事が出来る?」

「出来るわよ。私にとって瑠依は、初めてできた友達なんだから」


 沙羅は安堵した気持ちと、友に対する誓いを立てて頷いた。瑠依が生き返ったら笑顔で迎えてやろう。そうしたらまたショッピングのやり直しをして、眺めのいい展望レストランで美味しい料理を心ゆくまで食べる。


「そう、ならいいわ。稲神沙羅、さっきの一撃は、私からの激励だと思っときなさいな」

「痛かったわよ」

「これでも手心は加えたつもりよ。私が本気で殴打したらその首、捻じれ切れているもの」

「怖いわね。まったく」


 沙羅はベッドの手摺りに掴まって立ち上がる。床で意識を失っているルーガンを芽衣に手伝ってもらって、ベッドに横たえさせた。


「芽衣の暴行については、私から何とか説得しておくわ」

「世話をかけるの。では、今度はルーガンに言伝を残しておくとしよう。後日、詫びに参る。そう伝えておいて欲しい」

「分かったわ。あの、瑠依が起きたら、また一緒に遊びに出かけてもいいですか?」

「それはこちらからお願いする事であって、首を縦にも横に振るのも、そなたの自由ではないか?」


 渚は芽衣を従えて病室を出て行った。


 沙羅が寝ていたベッドにはルーガンが寝ているので、仕方なくソファーに丸まってもうひと眠りした。瑠依とまた会える日を楽しみにして。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は12月1日の0時を予定しております!

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