後悔を償うには
友を失くした『喪失感』は癒えぬまま目を覚ました。
「目が覚めたようだね。具合はどうかな」
薄っすらと瞼が開く――ぼんやりとする意識と視界――聞きなれた声と見慣れた顔が、沙羅を覗き込んで優しく語り掛けた。
「あ、あぁ、ルーガン?」
「だいぶ疲れているみたいだね。まぁ、無理も無いか。あの『鋼鉄の殺戮師団』とやりあった後だし」
「殺戮師団――ッ!」
沙羅は勢いよく上体を起こす――襲い来る眩暈と吐き気。深呼吸を数回して気持ちを落ち着かせる。ベッドに寝かせようとするルーガンの手を弱々しく払って、視線をルーガンと合わせた。
「瑠依は、瑠依はどうなったの?」
「ああ、『無明先見党』の剣士の事だね。彼女は残念だけど亡くなったよ。それはキミが良く知っているんじゃないのかな。彼女の死体に覆い被さって意識を失っていたんだから」
「そう。そうよ、ね。あの状態で助からないわよね。ごめん、ありがとう、教えてくれて」
全身から力が抜け落ちてベッドに横になる。
「死体は渚殿が回収して行ったよ。その際にキミに伝えて欲しいと、彼女から伝言を預かっている」
「うん、聞かせて」
どんな罵倒や非難も素直に受け入れるつもりだった。もしかすると自分の感情が折れてしまうかもしれないが、大切な友人を失わせてしまった己自身への『罰』。沙羅はもう一度上体を起こし、ゆっくりとした動作でベッドの縁に腰かけた――背筋を伸ばし、渚から預かった言葉を受け入れる姿勢。
「無理しなくてもいいんだよ。この病室には僕とキミしかいない。別に楽な態勢でいいと思うけど」
「駄目よ。私は『探求者の家』統括者として、『無明先見党』党首の言葉を胸に刻まないといけないから」
「そこまでの覚悟があるなら、僕はもう何も言わない。渚殿から承った言葉は――瑠依と仲良くしてくれてありがとう」
「――へ?」
「そんな呆けた顔しないでよ。僕は一語一句正しい伝言をキミに伝えただけだから。それとも何かな。恨み辛みの罵倒を聞かされると思ったのかい? そんな伝言だったら、僕はキミに伝えていないよ」
「だ、だって! 私は瑠依を助けられなかったのよ。私の魔術は誰かと一緒に戦う事に不向きで、互いに遠慮をなくす為に二手に分かれたけど、それでも、私がもっと強かったら、きっと瑠依は、瑠依は」
死ななかったかもしれない。所詮はかもしれないだ。強くても助けられなかった可能性もある。ただ、助けられる可能性が高かったかもしれないというだけ。沙羅は自分の弱さゆえに、友人を助けられなかったという自己不信に陥っていた。
「沙羅、キミは戦場で味方全員の命を救わなきゃ、勝ったと思えないのかな。彼女が死んだのは紛れもなく彼女の『未熟』さによるものだと、僕は思っている。渚殿もそう思ったからこそ、沙羅君に礼を述べたんじゃないかな」
「でも、でも、私は――」
「オラ、ここにいんだろ! 稲神沙羅ッ!」
扉の外から聞いたことのある女性の怒声――数人の男たちと何やら口論しているようだが、引戸が数人の黒服達を伴って部屋内部に弾き飛んできた。
「稲神、テメェ、そこに正座しろ。その役にも立たない心臓を抉り出してやるからよォ!」
「波多江芽衣」
「気安く私の名を呼ぶな。お前の、お前のせいで瑠依はッ! 返せ、返しなさいよ! 私の妹を。どうして、また」
口調が不安定になるほどに気性が荒ぶっている。
芽衣は目測二メートル程の白木柄の大太刀を抜き身で沙羅に向けた。ルーガンが割って入ろうとするが、もう片方の手に握られた鞘による側頭部への一撃で沈む。一組織の総帥に危害を加えたとなれば、同盟関係に亀裂が生じるかもしれない。それを承知で今の行為に及んだのか、頭に血が昇っていてそこまで考えが至らなかったのか。そのどちらにしても『繁栄に美酒と口づけを』と『無明先見党』の関係に何かしらの影響は差す。
「芽衣、私を殺したいならそれでも構わないわ。でも、何も関係が無いルーガンに危害を加えたのは、ちょっと不味いわよ」
「そんな事、私からしたらどうでもいいことなの。私は、貴女を――瑠依を殺した首謀者を、いまこの場で討てればそれで満足なのよ。えぇ、もちろん苦痛を味わって死んでもらうけど。両組織の関係とかはどうとでもなれよ。さぁ、早く! 正座しなさい。本来は相手に余計な苦しみを与えない為に一撃必殺の刺突技を磨いてきたけど、今回は痛みを最大限に味合わせる処刑よ」
「あんたの突きって速いらしいわね。瑠依が言ってたわ」
命乞いをする気も、助けを乞う時間稼ぎをするわけではない。
沙羅は、まだ精神と肉体が遊離しそうな状態だ。それでも芽衣の言うとおりにベッドから抜け出して、冷たい床に乱れない正座を見せた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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