少女たちの敗北
使い慣れない得物を振るうのも至難の業だ。
機関銃の掃射を身の裁きと足運びで躱しながら、駅構内を奔走していた。通路ではなく開けた場所で戦う必要があった。増設工事の繰り返しで迷宮構造をしている池袋駅の地図を脳裏で思い出しながら、階段を下っていく。
「沙羅ちゃんは強いですから、もう全て倒している頃ですよね」
こんな危機的状況でも自分より、初めて出来た同い年くらいのズゥ友の事が気になってしまう。命のやり取りをしているときに注意を逸らしていることがバレたら、芽衣や渚にキツイ折檻をさせられてしまうと、小さく苦笑した。
階段を下り切った所で上段からの一斉掃射――瑠依は足首を軸に大鎌を振るって、その弾丸を打ち弾き、横っ飛びに壁に身を潜ませ、周囲を見渡して決断する。
「ここなら、大丈夫」
幅広い通路には壁面に自販機やコンビニが設置してあるだけで、改札や柱といった邪魔なモノは一切ない。瑠依はここを自分の戦場に選んだ。上段から鉄を打ち付けて降りてくる音――瑠依は壁からそっと身を剥がし、通路中央で『鋼鉄の殺戮師団』を待ち構える。
刃を極限まで薄くすることで切れ味に特化しつつも、何かしらの特殊加工によって刃の強度を底上げしている。打ち合いを戦の在り方とする得物が切っても切り離せない難題――『切れ味』と『強度』。どちらかを求めればもう片方がデメリットとして問題となる。だが、この大鎌はその両方を特化させている。どんな刀匠でさえ成すことのできなかった御業を『紅龍七』はその領域の技術を会得している。
「私の刀もこれくらい強度と切れ味があったらなぁ」
超重量武器である大鎌を軽く旋回させながら半身を後方に引き、腰の位置に水平に構えた。
階段を壁や天井を這って姿を現した『鋼鉄の殺戮師団』は、ゴキブリのように見えた。膝下から人間の足の代わりに生える巨大なマチ針のような装備。容易にコンクリートさえ風穴をあける鋭さと脚力。瑠依を扇状に囲み機銃を一斉に向ける。後退するか前進するかの二択を迫られるが、瑠依は優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。もう、そんな事をしないで済むように助けますから」
「マンマっ! アハ、アハッ。マンマァ」
「マンマ、頂きますするぅ?」
「いただきます! いただきまぁす!」
食欲と殺戮に飢えた機械兵士に、瑠依の発する言葉を理解することは出来ない。外部からの情報を完全に遮断し、自己内部での完成した情報だけを頼りに仲間内で共有し合う。そんな彼等は救済の意味も分からない。必要な情報は効率よく相手を殲滅する事だけ。扇状に囲むことで仲間同士の誤射を失くし、かつ相手の逃げ道を塞ぐ。
殺意を激しく自己主張する銃口が断続的に発光した。
嬲り殺しの掃射――先程のように断続的な掃射ではなく。徹底的に相手を穿ち踊らせる為の幼稚な快楽。
大鎌を横薙ぎに一閃して数十発は弾いた。瑠依は地面を滑るように弾丸の嵐に突き進む。全身をギリギリで掠り飛んでいく弾丸に恐怖が無いはずもない。だが、瑠依には決して当たらない。まるで弾丸が恐怖して道を譲っているかのように。
機械兵士もその不可解な現象に大きく後退した。引く者と詰める者――いくら機械兵士の常軌を逸脱した速度を以てしても、救済に奔走する少女から逃れる事敵わずにその首を跳ねられた。一機、二機と油を吹き出しながら地面に伏せていく。機銃の迎撃から大鎌の斬撃に手段を変えた兵士たちだが、かれらの電子脳には齟齬が生じていた――照準に収まっているはずの標的に対し、一発の弾丸も当てる事が出来ない異常現象。
「刃での打ち合いは、私の得意分野ですが――遊ぶ気は毛頭ありません」
反射神経や運動神経を極限にまで開花させた機械兵士でさえ、今の瑠依の動きを視認することが出来なかった。
何が起こったのか――彼等の落下する頭部――電気信号が途切れるその瞬間まで、その原因究明にあらゆるデータを照合していた。
「あと三機ですが、一機は何処に――グゥッ!!」
右肩に迸った激痛――真っ赤な血が宙を舞い、地面に撒き散らかされる。
乱雑に挽かれる半月状の刃は瑠依の肉を断っていく。顔右半分は生暖かな自分の血で染まる。鎖骨も障害にならぬほどに、そのまま第五肋骨まで刃が埋まった。
「あ、あぁ。沙羅ちゃん、私――」
口から多量の血液が零れる。ゆっくりと目の前までやってきた機械兵士――表情は恍惚に歪んで嗤っていた。食欲と無垢な好奇心を満たす為に、追加二本の大鎌が腹部と喉を貫き刺した。
「マンマ。死んじゃう! どうしよう、どうしよう。アァ、マンマッ! マンマ!」
「マンマはご飯だぁ! わぁい、わぁい」
「マンマの血、ビュルビュルしてる! 綺麗、キレイ」
瑠依は震える口で。
「沙羅、ちゃん。ごめ――」
全身の力が抜け落ち、痙攣する四肢もダラリと力なく垂れた。
瑠依の見開かれた瞳には虚色が浮かんでいた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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