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繁栄には美酒と口付けを――総帥:ルーガン・ジャックワード

 東京都新宿区の中央――都庁さえも見下ろす高層ビル。


 その最上階の一室で左右を黒服姿に挟まれている沙羅は、漆仕上げの木製机に両肘を突いて手を組む男と向かい合っていた――男は癖のある金髪とおっとりとした青眼。目鼻立ちは西洋人特有の凹凸がはっきりとした、三十路前後の甘い顔立ちの男性。


 男性は右手を軽く掲げる――沙羅の左右に控えていた黒服たちは、目の前の男性に深く頭を下げ、大理石造りの広部屋から退室した。彼らの統率の取れた動きは軍事教育を受けた兵士を彷彿させる。


 彼らが退室したのを確認し、目の前の男に対して姿勢を崩す。


「沙羅君も災難だったね。まさか白昼堂々とテロが起こるなんて、誰も予想は出来なかっただろうね。さて、あの場所で何が起きていたのか、詳しく報告してくれるかな」

「別に私が話さなくても、子飼いの『情報屋』達から事の経緯を聞いているんでしょ?」

「ああ、確かにね。情報屋と国家警察から事情は聞いている。もしかすると沙羅君より今回のテロについて詳しい事情を知っているかもしれない。だけどね、僕は実際の当事者であるキミの口から聞きたいんだ。あの場所で何が起こっていたのかを、ね」


 柔和な優男は事の真偽を見極めるように、そのおっとりとした瞳の奥に隠された『鋭利』な色を獰猛に反射させた。


「総帥の命令なら話すわよ。でも、私や『無明先見党』の瑠依も含めて、本当によく分からないというのが正直なところ。突然、吹き抜け広場の最上階から次々とテロリストが降ってきて――」

「そう、そこなんだよ僕が知りたいのは。情報屋や警察が言うにはテロリストが降ってきた、という情報は得ていたんだけど、死因も含めて落下原因は不明。だから、彼らが地面に叩きつけられた情報が欲しい」

「流石はルーガンね。目の付け所が違う」

「一般人と同じ目線では一企業の社長は務まらないよ。ましてや、この国の『財』と『技』を貪りつくすなんて、ね」


 『繁栄には美酒と口づけを』総帥兼社長――ルーガン・ジャックワードは不敵に微笑む。


 戦争に敗北した日本に対し、食料や物資を大量に流して財を成した――貿易会社の若社長。


 彼がこの国に物資援助をしなければ、日本国は飢餓で滅び去っていてもおかしくはなかった。そんなルーガンに感謝した日本国最高政府機関は、国家軍事資金の半分を彼に譲渡した。だが、彼の援助には当然のように綿密に練られた『裏』があった。この国の貪れるものを貪りつくす。その為の援助で国の『信頼』を得るという第一段階に成功した。その後、新宿の一等地に『繁栄には美酒と口づけを』という表向きは貿易会社を――日本国政府に建築費や維持費を支払わせて設立させた。


 裏向きは『戦争屋』――必要に応じて傭兵を貸し出し、金を貪欲に懐に舞い込ませていた。その傭兵の中には当然、『沙羅』も含まれている。魔術師という『時代錯誤』な生業をする沙羅を、ルーガンは大層に気に入っていた。お陰で新宿の高級マンションをタダで使わせてもらっている。


「そんなことより、一つ聞くわよ。どうして『無明先見党』と手を組んだのかしら? 貴方はこの国の財を貪りつくして、国家転覆を目論んでいるのよね?」

「実に良い質問だね。僕の持つ財を狙い、貿易しごとの邪魔をする『紅龍七コウロンチー』が、このごろうちの兵や従業員にちょっかいを出していてね。流石に我慢の限界だったから、この国の警備に兵を出す代わりに、もし此方が襲撃された場合は手を貸して欲しいと願い出たんだ」

「『犯罪汚染の殺戮狂』共の相手とは、ルーガンも大変ね」

「あはは、他人事だねぇ」


 『紅龍七コウロンチー』――敗戦後に中国から群れで押し寄せ、渋谷区全域を根城にしてしまった過激反社会勢力であり、『無明先見党』『繁栄には美酒と口づけを』『初夜に耽る子猫の吐息』と並ぶ四大組織の一角。現在の日本の治安悪化の九割が彼等の仕業――『恐喝』『殺人』『放火』『凌辱』『拉致』『売春』『薬物』と好き勝手にやっている『反日主義』集団。日本国政府を初め、他三組織が最も警戒する禁断の技術を用いる『武力組織』。


「まぁ、私に突っかかってくるなら解体バラしてあげるだけ。どうする? 私を差し向けてもいいけど」

「まだ、キミが動く段階じゃないかな。これを期に全面戦争なんてされたら、僕の野望が一気に瓦解しかねない。当面の間は『無明先見党』と牽制しておくよ。流石に先の大戦で、どの国のどの組織よりも人を惨殺した、アレ《・・》を持ち出されても厄介だからね」

「まっ、そうね。流石にアレが相手だと私も手を焼くだろうし」


 人道を大きく逸脱した禁断の技術――『人体と機械』の融合体。脳の活動制限を機械化によって強制解除し、血管や血液の代わりに『電子回線』や『重油』を体内に行き渡らせる、人間であることを辞退した兵士。彼らの戦闘能力は『超感覚』『運動神経』『防御力』『腕力』そして、その身体に仕込まれた数十以上の『兵器』。彼等は個ではなく群で行動し、電子脳髄は周囲の味方と『情報共有』――風速や蟻一匹の動きを正確に電子化した膨大な情報量を、常に送受信しながら行動する。戦地では人の尊厳を根こそぎ奪う殺し方で、十分足らずで戦場に数千以上の屍を築き上げた殺戮者は――『鋼鉄の殺戮師団』と呼ばれ恐れられた。


 日本国の敗因の大まかな原因――『鋼鉄の殺戮師団』の働きによるものだと、老いた歴史家は声高らかに語っている。当然その悲惨な映像を軍部は握っているだろう。特に興味も湧かないが、沙羅は以前に一度だけソレ等と対峙したことがあった。『紅龍七』の支配領地――渋谷区に買い物に行った帰りに。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は5日の0時を予定しております!

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