少女同士の恋話
駅前のロータリーには、日本人外国人問わず物乞いに励んでいる。
地面はヒビだらけで、植え込みにはゴミの山が散乱していた。池袋の治安もそうよろしくはないと落胆していたが、浮浪者の溜まり場を抜けた先のサンシャイン通り――映画館やゲームセンター等の娯楽施設や喫茶店や薬局が並ぶ区域。周囲を見渡してもゴミの一つも落ちてはいない。地面も駅前ロータリーのようにヒビ割れていない。
「どうして、この区域だけ綺麗なのよ?」
「西口側のロマンス通りもとっても綺麗なんだよ。あっち側はね、とっても美味しいご飯が食べられる区域で、人が集まる場所だけを徹底して綺麗にしてるみたいなの」
「へぇ、詳しいんだね」
「よく、来るから。沙羅ちゃんはあまり来なさそうだよね」
「まぁ、来ないわね。買い物はたいてい新宿で済んでたし、今は今で忙しくて、こっちまで来れないし」
池袋初心者である沙羅は全ての店選びを瑠依に任せた。二人で組織間の話を取り除いた年相応の女の子らしい会話をぽつぽつとし始めたが、ある話題――女性という性別に生まれたからこそ外せない会話へ繋がり、返答に窮した沙羅は口を閉ざしてしまった。
「いや、私にはそういうの向いてない。っていうか、どういったものかも分かってないのよね」
「沙羅ちゃん、ダメだよ! 女の子なら恋をしなきゃ。気になる人とかいないんですか?」
その話の内容とは恋話だ。
自分と接点のある男性と言えばルーガンと魔王の二人くらいだ。二人を顔で判断すれば文句の付け所が無いほど整っている。だが肝心の中身が壊滅的だった。
ルーガンは仕事人間過ぎて、部下が見合いの話を提供しても、興味が無さそうに仕事に打ち込む姿を徹底していた。彼は経営者なので跡継ぎの事を心配しているのだろう。自分たちが所属する会社に何かあってはいけない。そういった理由とは別に、仕事時間を割いてでもゆったりとした時間を過ごしてもらいたい。彼を崇拝して付き従う黒服達は、ルーガンに家族という言い訳を与えて、充実した休暇を取ってほしかったのだ。その上司想いの部下の思惑は何一つ報われることは無かった。
魔王もルーガン同様に真面目人間だ。自分の行い一つで戦争を引き起こさせ、人類の延命を繋いだ。彼はそれを継続し、やがて人々に人間性を取り戻させ、豊かな未来を築きたいと、日々を探究と模索に我を捧げている。本名さえ知らぬ不思議な人物だが、冗談も通じない堅物具合も相まって、ルーガンより恋には向いていない。
「まともな男性、いないから。ははは」
溜息しか出てこない。
顔も経済力も持ち合わせているにもかかわらず、家庭という土壌には向いていない二人。そんなことを考えていて、ふと疑問に思った事があった。
「魔王って普段、なにして稼いでたんだろ」
「魔王?」
「あ――いや、違う。間違えただけ! 今のは忘れて」
「う、うん。沙羅ちゃんがそう言うなら」
魔王という単語はこの時代にも大きな意味合いを持つ。
戦後から語られる災厄を引き起こした魔王という存在。彼の意志さえ知らぬ戦争に巻き込まれた人々が、今も憎しみを抱かれる対象だ。日本国を敗戦に導かせた原因である魔王を、護国を任とする瑠依達――『無明先見党』にとって、もっとも忌むべき人物のはずだった。
「瑠依こそ、いないの? 気になる人」
「私は、そうですね。ちょっと恥ずかしいけど、笑いませんか?」
「どうして笑うのよ。別に笑わないし、ってうより、たぶん瑠依の想い人を言われても誰か分からないと思うわ」
「えっとね、その。この間の会議に、ね」
「じれったいわよ。で、誰?」
会議にいた男性を思い返す――『繁栄には美酒に口づけを』からはルーガンと黒服一名。『初夜に耽る子猫の吐息』からはミカエルと名乗る天使のように愛らしい少年。『探求者の家』からは魔王。
これは簡単に絞れた。
ルーガンは日本を乗っ取ろうとする組織の統率者なので第一に除外。黒服もグラサンをしていて顔がよくわからないから除外。魔王も無表情で全身真っ黒い服装だから除外。残るは敵国ではあるが、誰にでも親しく平等に接する紳士っぷりを発揮するミカエルだと予想を付けた。
「分かったわ。ミカ――」
「沙羅ちゃんの護衛の鈴木さんです!」
「やっぱ――って、はぁ!? ど、どうして鈴木なのよ! 確かに顔はいいけど、根暗よ、アイツ! 昔の言葉を使えば陰キャじゃない!」
信じられない瑠依の答えに吹き出した。
「鈴木さんの真っ直ぐな、えっと、私には上手く説明できないんだけど、その、真っ直ぐに自分のやるべき目標を見据えてて、自分がやるべきことを必死に手繰り寄せようとしてる雰囲気が素敵で、あと、大切な各組織間の伝達係を立候補して請け負う姿勢も格好いいなって。小顔で凛々しい目つきも、その痺れちゃって」
「えっ、いや、待って。よく考えてから選びなさいよ! 魔――鈴木は、確かに有能だけど家庭をもったら後悔するわよ、きっと!」
理解できなかった――確かに彼を良く知らない人から見れば、顔は申し分なく、重要な仕事を自ら進んで引き受ける姿もカッコいいだろう。だが、どうして魔王なのか。彼女の人を見る目は的確だった――魔王が背負っている役割を見抜いた洞察眼。それはあの場にいた誰の目にも見抜くことのできなかった彼の真実。
どうして、自分はこんなの身焦っているのか。
最大の理解が出来ない理由はそこにあった。
こんばんは、上月です(*'▽')
申し訳ありません、投稿日を一日間違えていて、一日遅れの投稿です。
次回の投稿は13日の0時を予定しております!




