待ち合わせは池フクロウ
午前中はおばあちゃん家の手伝いをしていた。
午後からは特にやる事も無く、暇な時間をぼんやりと過ごしていた。本来であれば多忙に身を置かなければならず、身を休める時間なんてないはずなのだ。いざ暇な時間を過ごすとなると娯楽のない室内では無駄に時間だけが過ぎていく。
「暇だ。暇すぎてしにそう」
自分から仕事を取り上げたら趣味も無い暇人になることが判明した。別に嬉しくも無い発見だが、夜までこのままグダグダとしているつもりもない。せっかく部下が自分を想って休暇を取るように勧めてくれたのだから。彼らの為にも楽しく有意義な時間を使いたかった。
「あっ、瑠依。今って暇? うん、そう。私もちょうど暇なんだけど、これからどっか遊びに行かない?」
話し相手が欲しく、黒い通信端末を手にして瑠依に連絡を取っていた。
瑠依もちょうど暇だったらしく、これから『池袋』というどの組織の支配下にない場所で買い物をすることとなった。
「さてと、特に手荷物も無いしこのまま行こうかしら」
ポーチに財布と通信端末をしまう。左手首には赤紐で通した鈴の感触。これで何かあった場合でも直ぐに対応できる。できれば何事も無く楽しい時間を過ごしたい。ダッフルコートを着込んで自宅を出る。
西日暮里駅から池袋駅に向かう。
乗り換えもなく遅延も無ければ十分くらいの時間で着く。押し込まれる車内に、気分がだんだんと悪くなる――揺れる車内と、人種や貧富の差によって香る独特な香水や体臭。吐き気と眩暈がする。人の肉壁に圧し潰されながら、一駅一駅を無心で通過していく。
「――うわっ!」
池袋駅に到着し、電車の扉が開いた瞬間に吐き出される人の群れ――いくら裏社会で名を馳せる沙羅といえど、人の流れに抗う事は出来ない。沙羅自身もこの駅で降りるつもりだったので別に構わなかったが、あまりにも勢いよく押し出されるので驚いてしまった。
普段来ない池袋の駅構内も広く、待ち合わせの『池フクロウ』前という像がある場所を探すのに時間を食っていた。行き交う人に場所を聞いても外国人が多く、上手く日本語が通じていないので話にならず、日本人も日々を生きるのに必死で道案内などする余裕が無い。そんな冷たい人間の在り方に沙羅は溜息を吐く。
「魔王、あんたも大変ね。ここから在りし日の人間性を取り戻して、人類の繁栄を成そうとするんだからね」
廃れてしまった人間性。貧困が個人を利己主義化させてしまった。他人は共に笑い人生を豊かにする存在ではなく、自分の生活をおびやかす敵であり、自分が栄える為の踏み台――それが現代に生きる人間。
そんな彼等にさえ魔王は救いの手を差し伸べようとしている。自分の行いで人間性を失わせてしまった。だがそれは、人類の延命処置のため仕方なくの行為だ。沙羅はその当時の状況を知らないが、魔王が第三次世界大戦を引き起こさせなければ、今頃この地球には生物は生存していなかったという。
人々はそんな魔王の決意と行動を知らない。
自分たちを敗北主義の人間に陥れた戦争を妬み、明日も生きているか分からない人生に絶望し、眩しい者を引きずり下ろす。今の沙羅はそれが、とても悲しく虚しい事だと心を痛める事が出来た。それは、あのアパートに住む沙羅の『家族』と触れ合いから変化した沙羅の精神。
自分の寿命は人並みだ。魔王みたいに途方もない時間を生きる事はできない。だからこそ、自分の為に色々と尽くしてくれる魔王に、最大限の答えを持って支えていきたい。
「沙羅ちゃん、こっちです!」
人込みが一瞬開けた先――可愛らしいフクロウの像の前で、瑠依が嬉しそうに手を振っている。
「あの子は、損得なしで人に尽くすわね」
知り合って間もない時――ショッピングモールに二人で買い物に行った時に起こったテロ。自分が生き残る為に戦おうとした自分とは正反対に、人質の命を優先して考えていた瑠依。あの時の沙羅は理解できなかった。瑠依の他人を考えて自分の命を危険に晒す行為が。でも今は違う。確かにまだ全員を救おうなんて大それたことは考えられない。身近にいる者達だけを守るのが自分の精一杯だ。
「ああ、ごめんね。呼び出したりしちゃって。その、ありがとう」
「ううん、嬉しいですから。お友達――ズゥ友と遊びに行けるのが」
「だから、ズッ友ね。まぁいいわ。さっ、瑠依の洋服選びからよ! その後は、パフェでも食べましょ」
そう、今の時間を今の関係性を大切に生きたい。
沙羅は瑠依の手を引いて階段を上り地上に出た。
こんばんは、上月です(*'▽')
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