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魔王の決意

 空気が凍える真っ黒な空と白くを誉れとする月。


 星は化学汚染の膜によってその輝きに蓋をしている。


 荒廃した地上に栄える科学技術の結晶――世界全土で見ても異質に『欲深く』発展した敗戦国――日本国首都。


 外国人に全てを奪われた『人生的敗北者』が集う上野。その地区を拠点とする第五組織で『探求者の(シェルシェール・ラ・)メゾン』から空を眺める青年。


「月は、いいものだ。いつも、常に不変で俺達を見てくれている。だが、星は――」


 明りもつけない部屋で独り言を呟いた魔王は過去を想い、時代と時代の繋がり――周囲の人達との――家族と過ごした日々を『懐かしく』『寂し気に』『可笑しそうに』思い出していた。


「母さん、俺は、人類の栄華を終わらせない。母さんの死が、俺に死ぬ事への恐怖を植え付け、母さんの努力を否定する魔術師になってしまった。そんな親不孝な息子だが、父さんとどうか、見守っていて欲しい」


 人は死んだら星へと還る。


 幼い自分に母が『知恵袋』としていた父が教えてくれた一つの可能性。人の死後は宗教の数だけ在り方がある。天国や地獄といった世界論。新たな命として生まれる転生論。完全なる無となる消失論。星となり天に昇る神秘論。


 天国や地獄という永遠に触れ合えない場所や、他人として生まれ変わる命。先のない終わりよりも、目に見える形として自分を見守ってほしい。それは誰よりもきっと、父がそう願っていたのだと今の魔王は思っていた。もちろん魔王もそうあってほしいと心底から願っている。


「あの薄汚れた天上の膜は邪魔だ。ここ数十年、星空を覆い隠す忌々しい境界」


 月のように大きく気高い明りは地上に届くが、一つ一つが小さい明りである星々は完全に姿を眩ました。


「沙羅、キミの解体魔術で、あの幕を解体バラしてほしいものだ」


 独り言はそこで止まる。


 自分がやるべきこと。自分たちがやり遂げる目標――十分に感傷と思い出に浸った魔王は即座に思考を切り替えた。


「人間の尊厳を奪われた機械兵士の永久停止。不釣り合いな禁断技術の永久消滅。魔術と人類の永久繁栄。この三つを最優先に俺は動く」


 コートのポケットから正四角体の箱を取り出し、その感触を実感するように力強く握る。魂を封じ込める聖櫃――自分の死を遠ざける為に他者の魂を喰らってきたパンドラの箱。一日に最大で二回しか使用できない強大な魔術を発現させる媒体。


 魔王はしばらく眺めてから再びポケットに戻した。


「俺の誕生日に、母さんがくれた最後のプレゼント」


 本当は魂を封じ込める為のものではなかった。


 母――『津ケ原透理』は物覚えの良くない女性だった。直ぐに大事な事を忘れてしまい、そのたびに父からは呆れられ、周囲を囲んでいた悪魔達も母をからかっていた。そんな母は一度教えられた記憶を忘れない為に、記憶を大事に記録させる媒体がこの正四角形体。父に似た自分にはそのような代物は必要なかったが、母にとってこの箱は日常に無くてはならないものだった。身近なものだからこそ息子に持っていて欲しい。ベッドに横たわる母が満面の笑みを浮かべて手渡してくれた。


 血色の良かった顔色は日に日に青白くなっていくなかでも、他人と過ごす一秒一秒の瞬間を楽しんでいた母の姿は、衰弱していく母の弱さを感じさせなかった。周囲もそのことを口にすることもなく、最後の最後まで友人たちに囲まれてこの世を去った。


 魔術師の敵であるはずの執行会のシスターや、飢えた狼と呼ばれる銀髪の女性。母が学生の時の担任や稲神聖羅といった大勢の人に看取られた母はとても幸せそうな安らかな表情をしていた。


 それでも魔王は死を恐れる――死という別れが怖いから。みんなが永遠の命を宿せば悲しみは訪れない。


幼少の頃に強く抱いた渇望は、周囲の人間関係を打ち切ってでも、その結果に辿り着ける道を模索して追い求めた。その結果が他人の命を糧とする自分だけの不老不死。


「俺はこの先も死ぬことは無い。沙羅が亡くなった場合は俺が、次代の魔術師を導き、よりよい人間の時代にしてみせる」


 魔王の瞳に感情が泳いだ――赤く燃える執着のような熱意が。どのような手段を用いてでもその目標に到達させ永久展開させると。


「立ち塞がる者は、容赦なくその命を、俺の糧として有効活用させてもらう」


 月明かりに照らされる魔王はゆっくりと瞳を閉じた。

こんばんは、上月です(*'▽')



初めて予約投稿というものをやってみたので、ちゃんと投稿できているか心配です。


次回の投稿は6日の0時を予定しております!

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