近代情報戦に対抗する原始的情報戦
数日前にも見たような光景。
日差しで眩しいガラス張りの広い会議室――全員が顔を突き合わせられる円卓の会議机に着く年若い男女達。その背後に控える護衛の付き人が一人ずつ――『繁栄には美酒と口付けを』には黒服の男。『初夜に耽る子猫の吐息』にはミカエル。『無明先見党』には瑠依。『探求者の家』には魔王。
先日集まったばかりでまたの急な呼び出しに、各々は何事かという顔付をしていた。唯一『無明先見党』の渚と瑠依は状況を把握しているので、沙羅が何かを話し出すまで開口するつもりはないと黙している。
「二日前に私達――探求者の家は、『紅龍七』の襲撃を受けたわ。彼らの時代に見合わない卓越した情報戦に踊らされて、私は拠点への襲撃を許した」
「情報戦ですって?」
当然その単語に食いついたのは、この国の極秘機密まで握る『初夜に耽る子猫の吐息』の女王――マグダレーナ。
「そう、情報戦。でも、人間ネットワークでの代物ではなく、電子情報戦略。彼らは私の携帯端末の電子回路を乗っ取り、子猫達や瑠依と全く同質の声帯を作り上げ、『紅龍七』が『無明先見党』を落としたという情報を掴まされた。それに何の疑いもなく、此処にいる彼と瑠依から伝えられたお茶の水に向かえば、戦闘の痕跡もなく平和そのものだったわ。流石に全身から血の気が引いたわよ」
「キミと彼が拠点を離れているその隙を突かれたわけだね?」
「そうよ。私は愚かにも、瑠依を本物と信じて、上野公園に来るよう告げてしまったの。防衛と医療の準備に取り掛かってくれている同僚が待つ家にね」
だが『紅龍七』の狙いは『探求者の家』の崩落ではなく、沙羅を焚きつけて、戦争ゲームという張の快楽を満たすための襲撃。負傷者が出ていないこと、数億の資金には手を付けられていないことから導き出される確信。その場にいる全員が各々で考えることがあるらしく、誰も何も発言しようとはしない。
「これは、私達の連絡手段に疑いを持たざるを得ないわ。私達の拠点は離れ過ぎている。特にルーガン、貴方と『紅龍七』の拠点が一番近いのよ。私という札を失って、残っているのは数だけの軍人崩れや戦争屋。どうするの?」
「ふむ、ルーガン。これは私の提案だがのぅ。芽衣を其方に貸そうかと思っている。私の精鋭は、個々人が武神の域にまで熟練しておる。私は瑠依と残った精鋭で十分な戦力だ」
「渚殿、その申し出はとても嬉しく心強い。だが、慢心は身を滅ぼしますよ。僕は僕で考えがあります」
渚のせっかくの申し出を丁重に断ると、再び誰も言葉を発しようとしない。ルーガンの考えとは一体何なのか。圧倒的な技術力と軍事力、そして情報量を有する『紅龍七』にどんな策で対抗するというのか。
「沙羅、私の精鋭は可愛い天使たちだけなのよ。少々、戦争には向かないわ。彼らは守る事に長けた守護天使。他の勢力と違って正面から殴り合う力は有していないの」
マグダレーナの言いたいことは察する事が出来た――『初夜に耽る子猫の吐息』と『探求者の家』は距離的にとても近い。何かあった場合は直ぐに駆けつけられる。
「何かあれば駆けつける。でも、連絡手段はどうするの? いま話し合うべきは、その手段の模索だと思うけど? 情報戦にお株を持っていた子猫ちゃん達の連絡はもう信用できない。さぁ、どうするのかしら?」
「そうねぇ、じゃあ原始的な報せ方をしましょう」
マグダレーナの言葉に全員の意識が向く。
連絡手段はなにも科学技術の恩恵だけで成り立つものではない。電気という熱量が無い時代、近隣同士でのやり取りには先人達の思考の粋で成されていた。マグダレーナはそれを思い出しなさいと全員に言い聞かせた。
「花火、なんてどうかしら? 色によって、その状況を伝え合うの。これならば、情報戦なんて関係なく、互いに必要な情報だけを伝え合う事が出来ると思うのだけれど。彼らが近代的に戦うのならば、私達はその土俵には上がらずに、原始的に戦う。ふふ、戦争は裏を掻いて虚をつくのよ」
「それは、いい案だと思う。俺は賛成だ」
護衛という立場を理解し黙していた魔王が口を開いた。
「いい案だと僕も思うよ。でも、上野や東京から打ち上げた花火が、此処――新宿に届くかな?」
「ならば、そこは俺に任せて欲しい。空は俺の専売特許の一つだ。必ず新宿にも届かせるし、新宿の信号を上野と東京にも届かせる」
魔王の言葉にその価値を測るように視線を交える。
「なるほどね。流石は沙羅が信頼を置くだけはある。魔術師とは空さえも支配するのかな?」
「いや、空に利を得ているのは、使い魔あってだ」
「使い魔? 確か、沙羅に読ませてもらったレポートにそんな事が掛れていたね。ということは、キミが魔術師についての情報を記してくれた魔術師かな?」
「ああ、そうだ」
「あのレポートはとても素晴らしかったよ。読んでいて、昔の時代に意識だけが飛んだ錯覚さえ覚えるほどに、リアルで事細かく書かれていた。まるで、その時代を生きていたかのような書き方だった。もし良ければ名前を教えてくれないかな?」
「鈴木牧夫だ」
「偽名だよね? まぁ、いいや。では鈴木君、信号の中継点はキミに任せようと僕は思う。女王様と姫様次第だけどね」
ルーガンの視線を受けた女王――マグダレーナ。姫様――渚。両者とも小さく首を縦に振った。
今後一切の電子通話を含む、電子技術から得られる情報の全てを禁止とした。
こんばんは、上月です(*'▽')
電子回路を通した情報は『紅龍七』の支配下に置かれ、沙羅たちは花火という原始的な情報流通で立ち向かう。はたして、古き時代の策が功を成すのか?
次回の投稿ですが、仕事がちょっと忙しいので29日の0時を予定しております。
もしかすると投稿日を変更するかもしれません。




