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時を経ても変わらぬ『絆』という奇跡

 見るも無残な我が家。


 何百何千では利かない弾痕が、芸術アートのように壁面を抉り削っていた。窓ガラスも床に散らばり、内装も酷く荒らされている。


「奴らの目的は何だったのかしら」


 沙羅の寝室として使っている小部屋も荒らされていたが、大金の詰まった金庫にだけは触れられていない。この現状を考えれば考えるだけ不可解だった。


「どうして、死者が誰一人として出なかった? それに、この金庫内の額だって馬鹿にはできないはず」


 『鋼鉄の殺戮師団』は第三次世界大戦で数多くの戦場を駆けまわり、どの国の度の兵士より多くの人間を殺した、時代に見合わない科学技術を有した兵士。そんな彼らが魔術師一人殺せないはずがない。


「初めから、殺すつもりが無かった?」


 そう考えるのが妥当だが、襲うだけ襲って命も金品も奪わない理由は何故か。張という男もそうだが、この行為には奥底も覗けぬ沼のような――足掻けば足掻くだけ、悪い方向に転がっていくような気がしてならなかった。


「あの戦闘能力に加えて、電波ジャック、声質調整。SFもいい加減にしなさいよ! はぁ、溜息しか出てこないわ」


 散らばった家具を片付けながら沙羅は、今後の戦い方へと思考を巡らす。自分たちが持ち、彼らが持たない武器――魔術。そして人間同士の結束。この二つをどう上手く組み合わせて戦うかが、勝率を大きく変動させる。


 今回の事を直ぐにでもルーガン達に伝えたいが、下手に通信回線を乗っ取られても、同じ轍を踏むだけだ。


 朝になったらルーガンの下に行き、安全な通信回路を展開できないか相談しなければならない。『探求者の家』の修復活動は魔王指示のもと進めてもらうことにした。


 扉が二回ノックされる。


「沙羅、少しいいか?」

「えぇ、構わないわ。入って。まだ、片付けが終わってないけど」


 魔王が室内に入るなり、まずその視線は金庫に向けられていた――盗まれることもなければ、こじ開けられた跡も無い。


「今回の襲撃は、『脅し』が目的か。我々は、『これほどの戦力』を有している。お前たちはそれでも抗えるのか、とな。奴は狡猾で享楽的な性格だ。キミを焚きつけて、戦争ゲームを楽しみたいのだろう。随分と気に入られたな」

「はぁ!? 冗談でしょ。あの糸目野郎の何処を見て、私が気に入られたって思えるのよ! 最初なんて居ない者として扱われてたのよ?」

「キミを勧誘した。駒としての価値がある、と張はそう位置付けたのだろう」


 確かに勧誘はされたが、それをキッパリと断った。


「そして、奴はキミに業を見せた。あの距離感を無視した斬撃。味方としての価値を発揮できないのならば、敵として輝いてもらう。宝石も磨き方によっては、その価値の在り方も変わってくる」

「その結果が今回の襲撃ってわけね。圧倒的な力を突きつけることで、絶望の淵に落して一皮剥けさせようって事か。クク、なかなか面白くてイラつかせてくれるじゃない」


 自分は張紅露を楽しませるための舞台人形であると。張の人生に刺激という快楽を与えるだけのつまらぬ強者であると。不愉快だった――自分の在り方を、他人の人生の脇役以下の傀儡として見下されるのが。


 ならば望み通り抗ってやろう。彼の想像もつかないほどに激しく荒々しい解体劇場(ショー)を体験させ、あの飄々とした涼やかな糸目顔を恐怖一色で塗り潰す瞬間を想像し、愉悦に口角が持ち上がる。


「奴の思い通りに動いてやるのは癪だけど、いいわよ。最後の最後で大どんでん返しを見舞わせてやろうじゃない。魔王、あんた死なないのよね? 私の相手をして」

「待て、死なないが痛みは感じる。沙羅の魔術はとても――人に最大限の苦痛を与える業だ」

「ふふ、冗談よ、冗談。あんたは私にとっても、この組織にとっても重要な魔術師の一人なんだから、余計な怪我なんてされても困るわ」


 魔王の眼には沙羅の発言が、冗談を言っているようには映らなかった。未成年少女から発せられた狂気ともとれる『悦と怒』の感情は、長年の人生を生きてきて、ここまで寒気を覚えたことはなかった。先程の喉を鳴らすような笑い方も含めて、稲神聖羅に似てきたのではないかと思う事があった。


 母の友人であり父の師であった、長い魔術史を見ても『最強』という称号に相応しい――稲神聖羅。彼女とは何度か顔を合わせたが、魔術研究という面では狂気の探求欲を持ち、知らぬことには繊細にメスを入れ、細部に至るまで貪欲に知りつくそうという人物。人を小馬鹿にしたような発言――主に母――『津ケ原透理』に対してだが、そこにはしかと愛があった。二人の深い事情までは知らないが、互いに信頼しているようにも見えて、幼い自分は少々嫉妬していたような気がした。


 そんな関係性の両家――『津ケ原』と『稲神』は百数年という時間を経てなお、今もこうしてその関係は継続している。戦争や技術の発展によって人間性が荒んでいこうとも、この『絆』の関係性は不変であった。そのことは魔王にとって、とても喜ばしい奇跡だった。

こんばんは、上月です(*'▽')



40話目です!

次回の投稿は25日の0時を予定しております


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