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天窓の光に差す死の影

 白昼のショッピングモールを襲ったテロ。


 機関銃の弾丸をばら撒く発泡音――クレープ屋台が展開する吹き抜け式の中央広場に近づいて来る。


 目出し帽を被った十数人の武装テロリストが、周囲の客に銃器をチラつかせ広場中央に集めた。瑠依は仕込み杖を突いて沙羅に身を寄せ――足が悪い『演出』をしながら彼らの指示に従う。


 手首に巻き付けた赤い糸に通した鈴を静かに握る。


 魔力の循環は危機を察してから即座に流し込んだので、いつでも魔術の行使は可能。瑠依も杖を自分の身に抱きしめて、何かあれば即座に動き出せるよう片膝を立てて座る。


「日本人がどうして、テロなんて」

「どうせ、金を掴まされたんでしょ。この国はだいぶ貧乏になっちゃったし。かつての誇り高き日本国民様は、外国の手足となって働いてるってわけ、ね」


 彼らの背後に隠れる個人か組織かは分からないが、このテロ行為の意味はなんなのか。自分に関係なければそれで構わない。だが、自分の生活や命に危害が加わるようであればそれは看過できない問題だった。沙羅はゆっくりと視線をモール内に向けていく――視界に見える範囲で彼等以外のテロリストの姿は無い。


「瑠依、アンタは一足であいつ等の懐まで潜り込んで、切り殺すまでどれくらい?」

「それは、全員という事でしょうか?」

「当然でしょ」

「三秒。いえ、一秒と少々あれば十分かと思います」

「私があの物騒な得物をバラすから、お願いできる?」

「ま、待ってください。敵がまだ――」


 予想でしかないが、モール全域が既にテロリストの手に落ちている。警備員はすでに殺されたか拘束されていると見てまず間違いない。そもそも、このモールを制圧するには十や百人ではまず足りない。少なくても三百から三百五十は欲しいところ。目の前で銃を引っ提げている戦闘に不慣れな挙動を見せるテロリストは十五人。一グループを十五人として単純計算すると、最低でも二十グループで行動しているはずだった。彼らの目的が明確でない以上、下手に動くこともできない。されど、このままジッとしていれば警察機関との交渉時に、人が数十人単位で殺されていくことは明白。


「モール全体で見て、人質は数千くらい?」

「沙羅さん」


 良くないことを考えていると直感した瑠依は沙羅の腕をしっかりと鷲掴む。このままでは無鉄砲に敵に突っ込み、他の客達を巻き添えにしてしまいそうという直感からの行為。


 沙羅は瑠依の必死な訴えに聞く耳は持たない。


「瑠依は今ここで動かないで、これ以上の被害が出た時に後悔しない? 自分を責めない? 私は目に見える人質を守ったから悪くない、って胸を張って言える?」

「そ、それは……でも、用が済めば解放してくれるかも、しれないですし」

「それは流石に考えが甘い。私達は人質よ。それもこんなに沢山の、ね。十人二十人が見せしめに殺されても、警察と対話するカードは腐る程あるの。たとえばあの子。まだ五歳くらいかしらね。あの子が、もしくはあの子の両親が殺され」

「――もういいですっ! 沙羅さんは後悔しませんか? ここで動いたが為に、多くの人が殺されてしまっても」

「後悔なんてしないわよ。私の選んだ道を後悔してやるつもりはないし、無責任だって言われても胸を張って生きていく。そもそも私が生きていれば問題ないわ」


 瑠依は涙を浮かべた眼でキッと沙羅を睨み付けた。沙羅の腕を掴む腕が小刻みに震えている――絶対に行かせないという意思表示。せめて彼らの明確な理由を知るまでは、下手に動いて他の人質への危害は避けるべきと訴えるが、沙羅はそれを否定する。


「失望した? こんな奴と友達になって後悔したでしょ。まだ、間に合うわよ。今なら私が魔術を使う前にこの首、落とせるでしょうね」

「沙羅さんっ!! わ、私は沙羅さんのように割り切って強く生きられません。でも、そうですね。時には強行に出なくては、また(・・)この国を腐敗させてしまいます、よね」


 瑠依は呼吸を整え、決心がついたようだった。


 沙羅も魔術を行使するために魔力は万全で、あとは魔術理論を反映させるための詠唱を唱えればいい。


「悠然と気紛れに鳴……は?」


 信じられない光景を沙羅や瑠依、人質はもちろんテロリスト達は見た。天窓から差す日の光を覆い隠す影が広がり――地面に着弾――飛散した赤黒い肉片や液体。砕けた骨が肉を貫き、赤く濡らしていた。


 それは人間――最初の一人だけでは終わらない。二人、三人と次々と吹き抜け階層の五階から降ってくる。一階に集められた人質達は、悲鳴と混乱で入り乱れた広場から、蜘蛛の子を散らしたように逃げようとする。だがテロリストもただ見ているだけでも、玩具を携帯しているわけでもない。何かの使命感に満ちた明確な殺意で、客の背中を狙ってトリガーを引いた――。


「んだよ、故障か?」


 テロリスト達は驚愕した――トリガーを引けども弾丸が吐き出されない銃に視線を落とすと、重厚な作りをしていた銃器がパーツの一つ一つ丁寧に分解されて地面に散らばっていた。彼らの背後で鈴を『シャリンシャリン』と表情のない顔で鳴らす沙羅。


「国家反逆の意志を確認――その首落とさせてもらいます!」


 沙羅との戦いで見せたように、地を蹴り、滑空で間合いを詰め――音無き初撃の居合で二人の首を切り飛ばす。小さな足の運びで身を翻し、もう一人の首もすんなりと一刀の下に断ち、絶命を叩き付ける。


 パニックを起こすテロリストに容赦はしない。舞姫のような流れる動きで、次々と銀影を引き、血華を咲かせながらテロリストを『一刀絶命』。全員の首を見事落とし見せ、返り血など浴びること許さぬ清廉された舞いは納刀で終幕した。


 外部からの『警官隊』や『機動隊』が到着するまで、沙羅は落下欠損のないテロリストの衣服を一人で剥いて眉根を潜めていた。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は4日の0時を予定しております!

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