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統率者――稲神沙羅を支持する者達

 喪失に呑まれ空白の時間を過ごした。


 気付けば秋葉原の高架下にいた。怪我を負った百数名ほどの男女が、不安げな眼差しで沙羅を見つめていた――自分たちの輝かしき未来が脅かされている『心配』。自分たちの統率者の心此処にあらずによる『心配』。その二種の不安事を瞳に泳がせて、指示をじっと待つ。誰も声を掛けることはしない――沙羅の気持ちを整理させる時間を奪わない為に。


「沙羅、ここも安全じゃない」


 誰もが沈黙するこの時間に亀裂を入れたのは、沙羅の友人的付き合いの魔王だった。襲撃を受けた上野から秋葉原は一直線――御徒町を挟んだ二駅分の距離。銃撃の音はもう聞こえない。だがそれは不安を募らせる材料でしかない――彼らは何処に潜んでいるのか。今も自分たちをビルの隙間から監視しているのではないか。そんな不気味な静けさが冷たいよ風邪となって、彼等の身を竦ませる。


「え、ええ、そうね。ひとまず――」


 どうすればいい。思考すれば、その先には死という暗闇が立ち塞がる。統括者として部下に道を示さねばならないはずなのに、自分の思考、自分の指示――その全てが全員を『無意味な死』へと誘うのではないか。不安が満ちる。迷いが生じる。八方ふさがりの迷宮にその精神が埋没する心苦しさに囚われていく――もがけばもがくだけ出口から遠のく底なしの沼へと。


「――沙羅!」


 自分がいま何をされたのか理解が出来なかった。頬に熱を帯び、憔悴しきった瞳で見上げると、魔王の静かなる怒気の宿った瞳と視線が交差した。そこで熱感に遅れて痛みを感じた。


「今は全員無事だ。誰一人として死んではいない。それは、キミの迅速な采配の賜物だ。よくやった沙羅――我らが統括者」

「あんた」


 沙羅は平手を受けた頬に指を這わせる。とても痛かった。だが、痛みは生を実感させてくれる。そう、まだ誰一人として欠けてはいない。


「痛いじゃないの!」


 沙羅は魔王に拳を放つが易々と躱される。紙一重に避けられると癪に障るのだ。まるで子ども扱いされているようで――沙羅は年相応に熱が入っていき、なんとしても一撃を見舞ってやろうと奮闘する。だが結局、一撃たりともも打ち込むことは出来なかった。


「どうだ、頭はスッキリしたか?」

「はぁ!? スッキリってなにを――はぁ、そういう事ね。ったく、私としたことが、何を塞ぎ込んでたんだか。ありがとう」


 身体を動かすことによって余計な不安は払拭した。全ては魔王の掌で愉快に踊らされていたのだ。その一点が気に喰わないが、彼のおかげで気持ちを持ち直すことが出来た。


 沙羅は上がった息を整え、全員に一度向き直る。


「ごめんなさい。私が不用意に拠点の位置を喋ったことで、今回の不祥事を引き起こさせた。貴方達の命と希望を背負っている身でありながら、軽率な行動と指示で、悪戯に命を危険に晒してしまって、本当にごめんなさい!」


 深々と頭を下げる。罵詈雑言を叩きつけられても致し方ない。反論せず素直に受け止め、何をされても文句をいうつもりもない。


「沙羅様、どうか、どうか、顔を上げてください」

「そうです。俺達も全ての責任や不安を、貴女一人に背負わせるつもりはありません。共に背負って生きていきましょう。我らは結束と団結、つまり一つの塊となって探求し、邪魔なものを払うんですよね?」


 沙羅の頭上に振る声音はとても優しく、非難の声は一切なかった。知り合ってまだ数日程度の間柄の自分にどうして、そのような態度が取れるのか。


 ゆっくりと顔を上げた。


 そこには家族の温かさがあった。全員が手を差し伸べていたのだ――単純で機能的な上下関係ではない。探求者という仲間内との決意を誓った在り方――『探求者の(シェルシェール・ラ・)メゾン』という新しい時代に生きる魔術師かぞく達。


「未成年の少女に、おぶさるだけの怠慢な者はいない。個々が一つの信念、一つの在り方を貫く識者だ。知識は十分以上にある」


 魔王の言葉に全員が頷く。彼らの知識は世界真理へと至る為に培われたもの――一人一人が違った方向性での可能性を有しているのだ。世界相手に挑もうとする猛者たちが、世界法則の内側で進化を遂げているだけの科学技術に劣る道理もない。


「キミの、誇り高い言葉を待っている」

「うん。私達は、今回の一件で『紅龍七』の実力をしかと目にしたわ。中には魔術や魔術式も通用しない『奴等』もいたらしいけど、そんなのは取るに足らない。私達には家族の『絆』と、世界さえ凌ぐ膨大な知識があるわ。凡人では決して至れない答えに、私達ならたどり着けることを、思い知らせてやるわよ!」


 大きな歓声を上げないが、しかとここにいる全員が頷いた。出会って数日の他人は『魔術再興』という一つの理想を掲げ、熱意を抱き、自分の全てを捧げて集った家族。


「絆、か」


 魔王は注視しなければ分からないくらいの微笑を浮かべた。多くの家族に囲まれた少女の姿は――常に周囲の人たちに温かな笑顔を振り撒いていた母――『津ケ原透理』の面影と重なった。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は23日の0時を予定しております。

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