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探求者の家の出発点

 沙羅が上野の国立西洋美術館に着くと、その光景に言葉を失った。


 探求者の(シェルシェール・ラ・)メゾンの拠点となった施設の入り口には、二百人を超える人が密集していた。その中の一人が沙羅に気付くと、次々と視線を向けられる。


「だいぶ、増えたわね」

「ああ、彼等も彼らなりの繋がりを持っていたのだろう。話によれば、まだ増えるらしい」


 沙羅の独り言に対し、いつの間にか隣に立っていた魔王が返す。これ以上に人が増えるとなると、施設に収容しきれないのではないか。


 魔術師達は館内への扉を開け、左右に分かれて道を作った。魔王は沙羅の肩に手を置き、一度中に入って考えようと促す。まるで自分が王様になったような気分を味わいつつ、清掃の行き届いた館内ホールへと足を踏み入れた。


「貴方達も入って。最後の人は戸締りを確認してね」


 背後にぞろぞろと魔術師達を引き連れ、大きな吹き抜け空間で足を止めた――ここならば声も行き渡り、密集状態にならずに話が出来る。


「今回、初めての人もいるでしょうから、改めて自己紹介をするわ。私は稲神沙羅。時代錯誤と嘲笑われる魔術に、再び繁栄と探求の自由を取り返すべく、組織を結成したわ。此処に集った全員の拠り所は魔術の探求よね? ならば、個ではなく群として、私達は時代に抗わなければならない。昔のやり方では、今の時代を生きてはいけないわ。だから、戦うわよ! 戦って誇りと時代を奪い返すのよ!」


 沙羅の少々芝居がかった演説――ある者は涙を流し、ある者は信仰者のように指を組み合わせる。彼らの士気が本物であることを再認し、ひとまずは館内での自由時間を作った――これは、彼らの仲間意識を高め合うための時間。そして、沙羅がこれから組織としてどう動くか思考する時間。


「館内放送を流すまでは隣人を良く知っておいて」


 それだけ残して、沙羅は魔王と共に会議室へと向かった。


「まずは、彼らの実力を知りたいのよね。一つテストでもしてみない?」

「それには賛成だ。だが、魔術師のランク付けは――」

「古いわよ、魔王。確かに魔力純度や量、魔術の構成力は重要だけど、最後は違う。以前は世界真理に到達しうる実力を基準にしていたみたいだけど、今の時代は単純な力よ」

「力か。だが、中には戦闘に向かない魔術師もいる。その場合は魔術式に基準を当てはめるのだろうが、それで彼らが満足するだろうか」


 もっともな意見だと沙羅は頷いた。力とは単純に壊す指標ではない。適材適所という多面的な役割に当て嵌めて相応のランクを付ける。昔のやり方では、個人の魔力量や純度などの、努力ではどうしても埋められない差が出てしまうが、役割に見合った成果次第では、魔力が乏しくても相応のランクを与えられる。これが、沙羅のいう新しい時代のやり方だ。


「私が凡俗だからこういう風に評価してあげたいの。生まれ持った才能の有無で、劣等感を抱く必要性が無い。向上心があれば、誰だって正当な評価がされる。そんな組織にしてこそ、彼等の探求への意欲も高まるでしょ」

「そうかもな。ちなみに俺のランクは?」


 どこかウズウズした様子の魔王。沙羅はちょっとイジメてやろうという気になって、悩むふりをして間を伸ばし――。


「Bとかでいいんじゃない?」


 冗談で与えたランクにガッカリするかと思いきや、魔王は感慨深く口角をわずかに緩めた。どうして魔王ほどの実力者がBランクでこのような反応を見せるのか。逆に沙羅が戸惑ってしまう。表情の乏しい彼が見せた人間味のある顔に、少しだけ胸が跳ねたが、首を振るって無駄な感情を追い払う。


「なによ、本当にBランクにするわよ」

「ん、冗談だったのか?」

「あたり前でしょ!」

「そうか」


 ペースを狂わせられた沙羅は一度大きく深呼吸をする。冗談はここまでにして、ここからは真面目に今後の動きを考えねばならない。


 もちろん『紅龍七』の他組織排除を伴う日本国の崩落。この国は確かに敗戦後に多くの害悪を流し込まれ腐敗していった。人の生存を望んで戦争を起こした魔王にとって、不用意に奪われる命を黙って見過ごすことはできない。沙羅も自分が自分らしく生きる為の在り方にとって、都合のよくない悪性腫瘍の存在を容認することはできない。『紅龍七』との全面戦争になれば、多くの死が再びこの国に溢れ返る。そうなった場合、本当にこの国は生きる事を放棄するかもしれない。今の沙羅は多くの命を預かっている身――彼らの意思と夢を潰えさせるつもりもないし、無駄死にさせるつもりはない。本気で魔術師の時代を復興させてやろうとさえ思っている。


 魔王も、人命という重荷を一人の未成年少女に全て背負わせるつもりはなかった。最終的な行動方針を決め、采配を振るうのは沙羅だが、自分が出来る限りの汚れ役を買って出ようと決めていた。


「まずは、他組織と常に最新の情報を共有し、いつでも動き出せるようにしておいたほうがいい」

「分かっているわ。組織内での連携、他組織との連携、個人の実力の向上、ね。『鋼鉄の殺戮師団』に真っ向から相手できるのは、ウチ等の時代錯誤な力だもんね」


 沙羅は黒い端末を取り出して、通話ボタンを押し込んだ。

こんばんは、上月です(*'▽')



 一週間の時間で少しストックに余裕が出来ましたが、毎日投稿をしていると直ぐにストックが尽きてしまうので、今後は二日に一話の投稿で続けていきます。


次回の投稿は17日の0時を予定しております!

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