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各国から集まる魔術師

 三組織合同会議が終わった夕暮れの時刻。


 科学技術によって彩られた街並みに上塗りする橙色の夕日。敗戦によって流れ込んできた海外の技術の結晶が首都全域に行き渡っている――戦前の『在り方』とは打って変わった日本国。沙羅は戦前の事を情報という媒体を通してでしか知らない。


 富める者と貧しき者――社会という枠組みで過去から続く不変の摂理。数日前まで確かに自分は富める者だった。衣食住に困らず、気に入らない仕事は興が乗らないと蹴ったりもした。だが、今この地区に生きる彼らはその日の暮らしにさえ怯えながらも、隣人との繋がりを大切にしている。ゴミ捨て場に散乱している林檎の破片を犬猫と共に漁って、掻き集めた廃棄食料を仲間内で分け合っている。


「懐かしいわね。私もこの街に流れ着いた時は、ああやって、食べられるものを必死に探したっけ」


 自分が流れ着いた場所は新宿だった。あそこは縄張り意識が強く、新参者は淘汰され、乞食という狭く貧しい世界の片隅に追いやられていた。だが上野に住む彼らは違う。自分の食糧が減っても構わず、快く仲間と分け合う人間としての温もりを感じた。ボロ切れを纏う彼等の内面は、今を生きる人間より高潔で豊かなものだと感じてしまった。


 そんな彼らを通り過ぎようとして、我が目を疑うようにもう一度視線を彼等に向ける――ボロ切れを纏った彼らの中心に見知った顔があった。身長が高く、黒いコートを着こなしている無表情の男。


「何やってんのよ!」


 沙羅は素っ頓狂な発声と共に進行方向を変え、不忍池へと足を向け――その小柄な身から発せられる不穏な気配を悟った魔王は、小さく顔を上げた。


「沙羅、か。何をしているんだ?」

「何をしているんだ、じゃないわよ! あんた、各国の魔術師に声を掛けてるんじゃなかったの!? さっき、ルーガン達に組織の設立を宣言してきたんだから」

「問題ない。昼頃には百人程度だが、集まっている」

「――えっ、ちょっと早すぎない?」


 魔王はそんなことは無いと否定したが、日本の関東圏に住んでいるのなら昼頃には間に合うだろう。だが、関東外や海の向こう側だとそうもいかない。魔王が連絡を取り始めたのは昨日の夕方なのだから。昔の時代なら新幹線や飛行機という移動手段を用いて最速の時間で行き来できたが、今は時代が違う。戦後の損傷はなにも人だけではない。山手線を見て分かるが、本数を大幅に減らしての運行だ。空を飛んでいる飛行機なんて、そうそう目にする事が出来ない。


「移動手段は、人間の生み出した技術だけじゃない」

「どういう意味よ――あっ」


 沙羅は思い至った――公共の移動手段を使わず、自由に行き来することを可能とする魔術師の隠し玉。


「使役悪魔」


 自分は悪魔とは契約していないので、つい失念していた。魔術師はかつて『執行会』『飢えた狼』と睨みあう三竦みの間柄だった。魔術の行使には魔力を流し込んだり、詠唱をしたりと時間が掛かる。故にほとんどの魔術師は悪魔と契約をして自分の弱点を補ったりしている。『稲神家』は魔術という芸当に絶対の自信があった。悪魔などの浅知恵や力を借りなくても、自身の研磨した業だけで突き進む――代々稲神家の在り方。悪く言えばエリート意識が強く、自然とあの高慢な祖母の威厳に満ちた顔が思い起こされる。


「そうだ。人間世界の裏側に生きる影なる者達。利害の一致で結ばれた関係だが、稀に利害関係を度外視した――友人という間柄になることもある」


 魔王は視線を外し、懐かしむように目を細めた。沙羅は魔王に懐く怪鳥を思い出す。甘い声で泣く雄々しい姿をした鳥の姿――あれは友人というより『恋人』のようにも見えなくもない。


「で、彼等とはいつ顔合わせ出来るの?」

「彼等も筆頭が稲神家の者だと聞いて、浮足立っている。直ぐにでも顔合わせをして、今後の方針や在り方を共有しておいたほうがいい」

「そうね。じゃあ、明日の午前にでも、場所は――」

「上野公園の廃美術館前でいいだろう。昼食は俺の方でなんとかしておく。キミは手ぶらでいい」

「そ、そう? まあ、いいわ」


 妙に熱がこもった魔王の言い方に薄ら寒さを覚えた。百人分の料理をどう調達するのか。一抹の不安は心にわだかまるが、彼が任せろというのであれば任せるしかない。沙羅自身では百人分の食材を集めることはできない。ならば、自ら進んで任せて欲しいという魔王に責任の一切も丸投げしてしまおうと納得させる。


「ちなみに、聞くけど。集めた魔術師のランクっていうの? だいたいの強さはどれくらいなの?」

「確かに組織があった頃は魔術師一人一人に見合ったランク付けがされていたが、それは強さの指標にはならない。魔力の純度や量、魔術の完成度を主に評価して付けられている。まぁ、他組織の者を殺した数も含まれてはいるみたいだが。簡単に言えば、世界真理に至る力をランク付けしたものだ」

「ふぅん、そうなのね。覚えておくわ」


 再び魔術組織を興そうというのだ。昔のようなランク付けをしていたほうが良いのかもしれない。そこは、昔に生きていた魔王に任せるとして、自分は組織運営や同盟組織との連携にしばらくは労力を費やすだろう。


 拠点とする地区は上野一帯。では『家』をどこに構えるのかが問題だった。現在で百人の魔術師を集めることに成功している。今後の組織拡大を見越して家は大きい方がいい。もしかしたら沙羅に沿わぬと離れていく者もいるかもしれないが、そんな後ろ向きな事を今から考えていては、付いてくる者達も付いてこなくなる。明日の顔合わせが終わってからでも、物件探しは上野に詳しい魔王に一任させる。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は3日の0時を予定しております!

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