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『紅龍七』の首領――張紅露

 扱う事のない殺傷兵器に手首周辺が痺れる。


「――骨に響くじゃない!!」


 開け放った民家の扉を楯とし、敵から奪った拳銃を照準も合わせずにトリガーを引いていく――一発吐き出されるたびに衝撃で手首が跳ねる。魔力の温存をする為とはいえ、使い慣れない武器で応戦するには敵の数が多すぎた。


「魔王、交代して。弾が無くなった!」

「分かった。弾倉の交換は教えたとおりだ」


 沙羅は中腰で民家の中に魔王と入れ替わりで身を潜ませる。玄関に並べられた弾倉を一つ手に持って、慣れぬ手つきで使用済み弾倉を入れ替えた。


 魔王は慣れた動作で、身を隠しながら拳銃を使いこなしている――かつての時代では、魔術師には敵が多かったと聞く。神を信仰し、邪道である魔術師を屠る――『執行会』。戦場と血を求め、魔術師と執行会の双方を狩る――『飢えた狼』。三竦みの時代で特別な加護を持たない魔術師は不利に立たされていた。魔術や魔術式とは別に、拳銃等の小型殺傷兵器の扱いにも長けていたと聞く。魔王も当然その時代の人物――一発撃つごとに相手の弾幕が薄くなっていくのを音として感知していた。


「待たせたわね、援護するわ」

「その必要はない」


 魔王が最後の一発を撃ち終わる――対面からの発砲音がピタリと止んだ――子煩い連中が全滅した証拠。魔王は直ぐに『魂』の動きを感知し、沙羅の手を引いて民家の迷宮を走り出す。


 大腿部の裂傷は傷一つなく完治しており、魔王に言われて包帯を外した時は驚きに目を剥いた。短時間での治癒効果を見せられ、彼が『不老不死の存在』であることに現実味を実感させられた。


「敵の攻撃が激しくなってきているわね」

「それだけ、中心部に近づいたという事だ」


 正確な時間は分からないが、自分が眠っていた時間を省いても侵入してから、三時間は経過している。その時間を走り回ってようやく近づいてきたという答え。施設内地図が頭に入っていなければ何時間、何十時間も駆けずり回るはめになる。


「おかしい」

「――へ? 何がよ」


 唐突に呟かれた魔王の不穏な一言――沙羅は嫌な予感を背筋で感じながらも理由を問う。まさか道を間違えた訳ではないだろうかという心配は杞憂に終わるが、その理由を聞いて沙羅も『おかしい』という言葉に合点がいった。


「なぜ、警備がここまで粗雑なんだ。アレも、最初に対峙した数体だけだ」

「確かに変ね。『紅龍七』は『鋼鉄の殺戮師団』の群れを飼っているはずだけど。人間の方も、本拠地にしては勢いがない、気がするわね」

「誘っている」

「やっぱ、そう考える?」


 階段を降りて突き当りを曲がると開けた場所――民家の小窓が円を描いて向き合っている広場ではなく、病院や研究所を思わせる真っ白な壁面。正面には壁面の城さには不釣り合いな重厚な印象を受ける黒鉄色の扉。


「ここって」

「ああ、王座の間だ」


 扉の前には衛士の一人もいない。扉隔てた先には数千人以上の兵士が拳銃を此方に向けているのかもしれない――扉を開けた瞬間に蜂の巣にされる空想が脳裏に色濃く鮮明に浮き上がり――直ぐに否定する。自分はこんな場所で終わる人間ではない。自分らしい『在り方』を手に入れるまでは死ぬわけにはいかないし、手に入れてからも死んでやるつもりはなかった。


「いるな。他とは違う、純粋に欲深きを求める魂の色がある」


 魔王の言った魂の色というのが沙羅には分からなかったが、彼がいるというのならいるのだろうと黙って頷く。扉に一歩近づくと自動で重々しい音と地揺れを起こしながら開門する。沙羅は即座に魔力を流し、詠唱を小声で即座に読み上げる。人差し指と中指に挟んだ鈴の感触を得て、魔王と共に王座の間へと足を踏み入れた。


 これまでの九龍城様式を否定するかのような、洗礼された宮殿造りをした広大な広間。扉から一直線に敷かれた真紅のカーペットには皺一つなく、左右等間隔に伸びる柱には幻獣の掘り絵があしらわれている。柱間に整列している兵士は、誰もが理想とする聖騎士を思わせる高潔さを感じさせた。数百以上の視線に晒されながらも、二人は黙ってカーペットを歩いていく――最奥には数段の小高い階段上に椅子が設けられ、そこに粛々と座る――ヒョロい体型で特徴的な糸目。長髪を後ろに流した男が、顔を上げて微笑んだ。


「よく、来たネ。僕等は歓迎すル、勇ある獅子ヲ」

「歓迎のクラッカーはもう少し派手でもよかった」

「ウフ、失敬したネ。機関銃で迎える事にするヨ、次回があればネ。それで、僕に用がるんだろウ?」

「ああ、これ以上無意味に人を殺すな、尊厳を奪うな、と忠告をしに来た」


 魔王は威圧的でも媚びるわけでもなく淡々とした口調――糸目の男はクスリと表情を一層に和らげた。まるで可愛い動物を愛でるような慈しみの顔。


「ふむぅ、僕がやっているわけじゃなイ。部下が勝手にやっている事だヨ」

「ボスなんだったら、部下をしっかり躾けなさいよ」


 沙羅の怒気を孕んだ声に、男は今ようやく『沙羅』の存在に気付いたように、わざとらしく驚いた反応をした。


「魔術師カ、日本人は血気盛んだネ。彼を見習うといいヨ。冷静で隙が無くてカッコイイ。僕が隙を見せたラ、彼は僕を殺すネ」

「いや、俺も半分は日本人だ」

「そうだったノ? 意外だネ、知らなかったヨ、許してネ。ウフフ」


 男は王座から立ち上がって思い出したように一礼した。


「僕は『紅龍七』首領――張紅露チョウ・コウロだヨ。キミが『繁栄には美酒と口づけを』を抜けたお陰で、本拠地を攻めやすくなったんダ。ありとうネ」


 沙羅は奥歯を力強く噛みしめた。怒りが沸き立つ――目の前の緊張感さえ纏わぬ飄々とした男に。今すぐにでも鈴を鳴らして、その目障りな茄子顔を解体してやりたかった。むしろ、ここで張を殺せば残った自分の平穏な人生に一歩近づく。


「止めておけ、沙羅。今のキミの実力では彼には勝てない」

「――はぁ!? どういう意味よそれ!」

「そのままの意味だ。彼は人工的な神秘――科学による超常的能力を扱う」

「その通りだヨ。僕は科学の恩恵を受けテ、異能を宿したんダ。まァ、キミくらいだったラ、能力が無くてモ、この偃月刀で十分に解体出来るけどネ」


 いつ何処から取り出したのか――沙羅は視線をわずかにずらすと、王座から三メートル程離れた場所に刀掛けがあるのを見つけた。瞬きをしたわずかな隙にあそこに在ったものを取り寄せたのか。それが異能なのか運動神経の賜物なのか――沙羅は目の前の男が『異常』であることを認識した。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は28日の0時を予定しております!

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