表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/130

家族の触れ合い

 二つの異なる用途に特化した神秘が混じり合う。


 津ケ原永理の魔術媒体は砕けてしまった。それ故に魔術を使う事は出来ず、稲神聖羅の展開した領域によって傷は塞がり、魔力は永久的に供給される。


 魂を奪う魔術が使えないのであれば、戦闘神秘である魔術式に頼る他ない。炎、水、風といった世間一般で認識されている魔法に近い力で父に抗う。


「母さんは眠ったよ」

「さて、どうかな。アレは簡単に眠りに着く子じゃない。次に眠るのはお前だ、永理」


 ルアの周囲には数百冊以上の書物が浮かび、現状最適な物語を顕現させては魔術式を呑み込み、永理を追い詰めていく。


 圧倒的な実力差に対抗策を講じる隙も無い。


 ルアは感情の読み取れない無表情で息子の動きを、その視線だけで追って行く。何が出来るのか。何を見せてくれるのか。自分の憎悪を塗り替える奇跡を見せてくれるのならばよし、さもなければ自分の手で憎悪に従って息子を殺すだけだ。


「透理を裏切ったお前を、私は許せそうにない。お前は自分の生に何を見出した? 何か誇れるものがある人生だったか?」

「誇れる人生、か。俺は今の俺を誇っている。これから先、魔術師を引っ張っていく統括者の相棒として、生きていられる。俺の力が彼女の為に役立てられるのなら、これ以上に嬉しいことは無い」

「彼女。稲神のあの少女か。聖羅によく似ている。少々精神的には脆そうではあるが、なるほど、確かに稲神の魔術師であれば神輿としては十分だろう」

「父さん、彼女は神輿じゃない。統括者だ」

「人類の繁栄と魔術師の繁栄、二足のわらじを履いて、津ケ原の正道を歩めるのか?」

「歩むつもりだ。ただ、その正道も幅が広くなりそうだが」


 永理は珍しく表情という表情で笑ってみせた。


 迷いなく先を見据えて歩もうとする者の笑顔だった。ルアは息子の姿勢を眼にして、自分の内部に巣食う何か――『憎悪』が払拭されていく感覚を確かに味わった。


 なるほど。やはりこの子は透理の子供だ、と。表情が硬い親子ではあるが、浄化されつつあるルアも、かつての思い出を呼び起こして微笑んだ。


 そんな時だった――。


「また三人で顔合わせが出来るなんて、これ以上の喜びはないよ!」


 永理の背後――過去に聞き慣れ、先程も聞いた声の主――津ケ原透理が、屈託なく子供の様に――高校生くらいの姿で口を大きく開けて笑っていた。


 何故どうして。屠ったはずの母がここにいるのか。そもそも、どうして殺気を感じないのか。永理から笑顔が消えて戸惑いに難しい顔を作った。


「こらぁ! 駄目じゃないか、そんな不愛想な顔しちゃ。せっかくのルアにのイケメンが台無しだぞ」

「待ってくれ、どうして母さんがここにいるんだ?」

「ふふん、お母さんが教えてあげようじゃあないか。えっとね、えっと、聖羅の魔術が、えっとぉ、ルアぁ~」


 息子に良い所を見せようと、懸命に言葉と理論を模索するが上手く説明できるどころか、自分もよくわかっていない答えに辿り着く。結果が無限書架の知識を内包する師匠ルアに助けを乞う。


「はぁ、キミは相変わらずだな。透理、キミは以前も聖羅の領域内で亡くなったご両親と会っただろう? ようは、前回とまったく同じ事が起きている、と考えて良いだろう。聖羅の執刀魔術は世界の薄皮一枚一枚を丁寧に剥がして、中核を切り裂いて識る魔術だ。ここまでは、問題はないな?」

「うん、ここまではなんとか。永理も大丈夫だよね?」

「俺もなんとなくだが」


 二人の知識がまだついてきていることに、ルアは頷き続ける。


「ここで重要なのは、世界を切り裂くという常識外な探求理論だ。聖羅はこの領域内でかなりの執刀を行使し、その際に、この世とあの世の境界までも切り開いてしまったのかもしれない」

「でもさぁ、それだったらもっと多くの死者が雪崩れ込んでこない?」

「透理の魔術理論が働いたのかもしれないな。『絆』の魔術――生者と死者の隔たりさえも跳躍した、と考えるのが妥当だろうな」

「ボクの魔術?」


 無限書架に収められた本にも書かれていない奇跡を、ルアは一番可能性が高い理論を導きだした。


 透理は自分に理由があると言われても、あまり実感が無いらしく、首を傾げてはウンウンと唸っている。そんな母の姿を見て、永理は先程の母はやはり偽物で、過去の輝かしい日常に浸る事が出来た。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は26日の22時を予定しております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ