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鈴を鳴らす魔術師――稲神沙羅

SFにファンタジーを混沌に混ぜ合わせた時代、自分自身の在り方を探究する稲神沙羅という一人の少女の物語を、心ゆくまで堪能してくださいませ!

 『意味』のない行動をしたくはない。


 一つ一つの行動には必ずしも『意味』がある。


 慈善家でなければ、他大勢の人が自己利益の意味を持たせた行動をするはずだ。だが、この時代の『敗北主義者』はその意味さえ見出せずに、日々を臆病に過ごしている。


「意味もなく殺される人って、ホント可哀そうよね」


 都市郊外沿岸部に広がる――鉄パイプや鉄骨を組み立てたジャングルジムのような工業施設。橙色のネオン管灯に照らされた一人の少女――『赤茶色の長髪』は軽く吹いた風に流れ、『同色の瞳』は美しく切れ長の眉と相まって意志の強さを湛えている。


「私にとっては意味のない仕事。意味のない殺しが一番気乗りしなのよね」


 高所に吹く真冬の風は酷く冷たいが心地良い。石油やゴミで汚濁された海からは潮と油の混じった嫌な臭いが鼻に突く。都心部に向かって伸びる閑静な道路――遠くからヘッドライトを照射して走る車を確認した。


「さて、パッと仕事を終わらせますかね」


 少女は溜息を一つ――左手首に赤紐を通して巻き付けた鈴が、自己主張するように小さく『シャリンシャリン』と鳴る。


「時代錯誤な稲神の魔術。見せてあげるわよ」


 躊躇いなく手摺りに足を掛け、地上二十メートルの夜空に身を躍らせる――一瞬の浮遊感からの急降下による内臓の上昇したような感覚。人は空を飛べない。飛ぶ必要性が無いからだ――健脚があるのだから、飛翔という無意味な行為をする必要性が無い。故に人類は鳥のような羽を持たない。人間の体の構造は意味があるからこういう構造に進化したのだ。


 少女は魂の奥底から血管に沿って『魔力』を循環させた――『魔術師』が『世界真理』を識る術――『魔術』を行使する際の『熱量エネルギー』こそが『魔力』。


 髪が天に向かって激しくなびき、スカートから伸びる白く細い足を研ぎ澄まされた冷風が切り裂く。地面に着弾寸前に少女は掌から薄藍色の光を放ち――落下速度を減速させた。体制を整えてフワリと地上に舞い降りた。


 侵入防止の『電磁金網』を来たとき同様に、ポケットから取り出した黒い端末を操作して、放電状態を解除する。なんの予備動作もない前蹴りで強固な金網を蹴破って、道路の真ん中で来るべき『対象』を待ち望む。


 次第に大きくなってくるエンジンの唸り声。ヘッドライトが道先の少女を照らし、減速したのも一瞬の事――今まで以上の速度で加速する。


 手首に巻き付いた赤紐を解いて指に掛ける。


「悠然と気紛れに鳴る鈴の色。災厄知らせる警鐘の役担い、我が領域侵せし者ことごとく瓦解せよ――鈴の(リグ・)鳴動解体シェルメランテ・領域ゲーデン


 少女を中心に複雑な模様を円形で覆った『魔法陣』が直径二十メートル程まで広がり、水が土に吸収されるように消えた。


「領域侵犯確認っと」


 少女は指に掛けた紐を揺らす――鈴が『シャリンシャリン』と鳴った――この行為には意味がある。車の排気音に掻き消されたが、異変は直ぐに目に見えて現れた。


 肌で感じる空気の揺れは次第に大きくなる。


 ゴテゴテの重厚な黒い車のタイヤ全てが一斉に外れ――車体は火花を上げて地を滑る。ボンネットが空高く打ち上げられ、剥き出しのエンジンは息絶えた。車窓もガタガタと小刻みに震えて粉微塵に破裂。車内からの怒声と悲鳴を少女は無心で聞き入れて、胸中に受け止める。


 何が起きたのか――車内から這い出て来た運転手を含めた男性三名。


 黒服に黒いサングラスという出で立ちの男は護衛役だろう。その男の背に隠れるようにして此方の様子を窺う、脂ぎった体脂肪を持つ部分的に禿げている男と視線が合った。彼が今回の任務での殺害対象――事前に手渡された資料の顔写真と一致した。


「――ヒィッ!?」

「…………」


 少女は心を殺した――感情を排した命令に従順な殺人人形であれ。この場に情なんてものは何の意味も持たず、自分を蝕み壊すだけの異物でしかない。仕方が無いのだ。命令されれば従う。それが雇用時の契約なのだから。自由のない日々を嘆く暇さえなく、少女は命令に従う。


「赤紐の鈴を持つ、赤茶色の髪をした少女――『繁栄には美酒と口づけを』の稲神沙羅ッ!」

「ご名答。もういい? さようなら」


 小さく息を吐き――鈴を『シャリン』と鳴らした。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は一時間後になります。

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