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あるくゴミ袋 

 「ちっ、逃げられたか……」


 博之と由紀の二人を取り逃がしたあゆむは悔しそうに舌打ちをすると、のっしのっしと歩くマシンガントークおばさんの背中と、二人がとんずらしたがけ下の歩道を交互に恨めしそうにらんで小さくため息をついた。

 しかも、逃がした獲物の大きさに完全にあきらめ顔までしている。

 ――でもまあ、そりゃそうだよね……。

 由紀はあのエンコウの現場を目撃されて逃げているわけだし、ヒロユキもその当事者だから逃げるのは当然だ。

 二人が間違いを起こして手遅れになる前に、それを辞めさせようと追いかけようとするあゆむの気持ちもわかる。

 だけど、あゆむほどの人間でもさすがにあの二人相手じゃ無理な話だよ……。

 あの悪役令嬢の猟犬のような追撃を、女装して女子トイレに隠れるという、恥も外聞もない方法で逃げ切った由紀、あゆむの事よくを知っていて影が薄く人ごみにまぎれるのがうまいと言われているヒロユキ、二人が組んで人ごみにまぎれ逃げ隠れされては見つかるはずもない。 ヒロユキを女装させて二人してバリヤフリートイレや女子トイレにかくれてしまえばもう打つ手はないだろうしね。

 あゆむがそんな顔をするのも無理はないよね。


 「あのうるさいババアからやっと解放されたと思ったら、あいつ等も行っちゃったね」


 あっけらかんとした遥が、ウデをくみながらあきれ顔でそう呟く。

 

 「ああ、そうだな。 さて、これからどうする?」


 あゆむがそれに同意するようにうなずくと、ノアはあゆむとオレの方へ向き直った。


 「みつからないものを探しても仕方ないわよ、あの二人は後日とっつかまえてコッテリ絞ってやるとして、とりあえずはこの先のゆいちゃんの所に行くのが最優先じゃない?」


 「え!? ゆいちゃんの所にいくの?」


 「そうよ、あの子はきっと朝ごはんも食べてないだろうしね、今は見つかるかどうかもわからないあの二人を探すより、確実にお腹を空かせている小さな子の方が優先でしょ?」


 「それはそうだけど、……いいのかな? 」


 ノアの意見にオレは突然のことに反応が遅れる。

 てっきり、これから由紀たちを追うものだとばかりに思っていたけど……。

 コレは真面目な委員長らしくない予想外の反応だった。


 「――そうだな、ノアの言うとおりだ」

 意外なことに、あゆむもノアの提案にクビを縦に振ると、

 「不確実なものを探すより、まずは手近にある確実なほうからやることを潰していくのが問題が多い時の鉄則だからな。

 ――まずは、山田のアパートに行くとするか……」


 あゆむは身内の不始末にやれやれとため息をついたあと、険しい顔でしめくくった。


 「ノア、山田のアパートはたしかコッチだったな」

 「大丈夫、あってるわよ。 少し歩くようになるけど、そう遠くは無いわ。 その先にあるゴミステーションのすぐ先よ」


 ノアが指さした先には朝の薄明かりの中、色とりどりのゴミ袋が整然と並べられ、ゴミ袋の影が交差点のアスファルトにうつっている。

 そんな通りを行き交う人々は、ゴミステーションにゴミを置くと、足早に通り過ぎていた。時折、風が吹き抜け、ゴミ袋の端をそっと揺らしている。

 ――そんなだれも気に留めないような光景のなかでほんの少し、だけど、明らかに異質な光景がオレの目に飛び込んできた。


 「え……。 アレ何? ゴミ袋にアシが生えてるんだけど……」


 遥が、驚き交じりの声を上げたように、ゴミ捨て場に向かい、青いビニール袋ツツミのしたに小さな足が生えて、アリがおおきな荷物を重そうにチョコチョコ運ぶような感じでゆさゆさ揺れながら進んでいる。


 「うんしょ、うんしょ……」


 更には、オレの敏感な耳をすませば、町なざわめきに中に小さな女の子のような重たい物をもって、喘ぐような声も聞こえている。

 一体なになんだよ? まさかこんな朝方に怪奇現象!?

 奇妙な光景にオレたち4人の視線が袋に集中してると……。

 

 「どっこいしょ……」


 小さな掛け声とともに、ゴミ袋がゴミ捨て場に移動すると、袋のかげから現れたのは、年のころ幼稚園の年中にもいかなそうな深紅の服を着た銀髪の幼女だった。

 銀髪、深紅の瞳、なによりの母親のゆうなそっくり母譲りの美貌、これは見間違えることはない。

 ――この娘は『ゆいちゃん』、だ。 

 どうして、おむつも取れて間もないような幼い娘がこんな事をしてるんだよ……、こんな力仕事は普通大人がやるものだろ? パパのイモ男はどうしたんだよ? これはマジで児童虐待だよ……。

 

 そんなことを思ってると、幼女はオレたちに気が付かないのか、そそくさと小走りでその場所から走りさっていった。


 「アイツは、自分の娘に何やらせているんだ?」

 「あの子の親は、何考えてるのよ……。 ネグレクトじゃないの?」

 「……」

 

 あまりに醜い光景にマユをひそめ、不機嫌を隠し切れないあゆむと遥。

 だが、ノアは何か思うことがあるのか、表情をくもらせ悲しみの表情をうかべると、無言で足早に銀髪の幼女を追いかけていた。

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