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逃げの達人

 「あのバカ、自分が何をしているのか判ってるのか?」

 

 がけ下で由紀のパパ活を目撃したオレたち。

 あゆむは由紀とヒロユキの二人がいちゃつく様子に不機嫌をかくせず、こぶしをゴキゴキとならし、怒りに顔を歪ませていた。

 この雰囲気はマジであゆむが機嫌が悪い時の表情だ。


 「あの二人の表情、あいつらが今から何をするのか聞くまでもないわね」


 不機嫌をかくせないノアも、腕を組みあゆむに同意するように相槌をうった。

 オレも、二人の意見にうんうんとうなずく。

 二人が言うようにどう考えても、これはイケナイ事をしている現場だ。

 そして、あの情けない男(ひろゆき)の後ろめたそうな顔、そしてあの現金を受け取った由紀のチョット恥ずかしいけど、うきうきした嬉しそうな顔。

 二人がどういう関係なのか聞くまでもない、これからどこに行って何をするのか分かりきった事、ふたりでホテルに行ってイケナイ遊びをするのは火を見るよりも明らかだ。

 由紀にいたっては、天使(エンジェル)という死刑囚といういつ殺されても不思議でない立場にもかかわらず。

 ――つまり、二人ともいろんな意味でかなりヤバい状況にあるのは違いないだろう。

 

 「あそこに居るのはアンタのところのヒロユキ君よね。 アタシは人の家の事情にクビをツッコミたくないけど、あの子があの娘(由紀)に手を出すのは さすがにこれはちょっとマズいんじゃない?」


 二人の様子をみた遥はそう言うと、腰に手をあてながらあきれ顔でため息ひとつ。


 「ああ、そうだな。 遥の言うようにこれはかなりマズイな」


 あゆむは、遥のため息に同意するように相槌をうった。

 そして、あゆむは由紀とヒロユキが手をつないでイチャイチャして居るがけ下をにらみながら小さく舌打ちをする。


「チッ!  あの阿呆がよりによって由紀に手を出すとはな……。 この事が世間に知られたら、自分だけなく木戸グループの家族……、それだけでなく天使である北島もタダでは済まないんだぞ?」


 「確かにそうだよね」


 オレはそんなあゆむの言葉に思わず頷いてしまった。

 エンコウって、ソレがバレた時点で女性を買った方も社会的制裁はスサマジイのはオレでも知っている。 

 それこそ、買った男の名前まで顔出しでネットに晒され、会社をクビになり揚げ句、社会的につるし上げにあうのは自分でも知ってる。

 それだけじゃない、売る方の由紀は天使だ。

 つまり、全ての権利を奪われ、いつハンターに殺されてもおかしくない存在だ。 由紀はハインドモードになっているとは言え、その存在がバレた時点でハンター達が由紀を狩るために集まってくるのは想像にかたくない。

 しかも、エンコウをしていたとなっては、さらに『勧善懲悪』という絶好の狩る口実になってしまうだろう。

 これはたしかに想像以上にヤバい状態だよね…。

 二人が言うように、これはやめさせないとマズイよな。


 「おや、あんたたち、こんなところで何してるんだい?」

 

 そんなことを思っていると、オレたちの背後に街宣車のようなごう音が響いた。


 「えっ?」

 「……」

 「…」


 突然のごう音にオレたち4人が驚き交じりに一斉に振り向くと、ソコには手にゴミ袋をもった地を揺らすような恰幅の良い中年の女性がいた。


 「どうして松本のおばさんがココに?」


 オレはこの人は知っていた。

 彼女は松本のおばさん。この人はクラスメイトであるアースクエイクの母親でドラッグストアの店員だ。

 何時もは白衣だけど今日はジャージ姿という普段着だった、きっとゴミ出しついでに知り合いが居たからいつもの調子で無差別に声をかけたのだろう。


 「アタシがココに居たら何かまずいのかい? タダのゴミ出しさ。 今日は不燃ごみの日だろ? 不燃ごみは回数がすくないからねぇ、忘れるとタイヘンなんだよ」


 人間重機関銃おばさんはよいしょっと重そうに、ゴミステーションのカゴの中にゴミをポンと投げこむと、オレとあゆむを一瞥した後、うさんくさそうに眼を細め派手な姿の遥を舐めるような視線でいぶかしげに見つめながら、


 「は~ん、このメンツ。 アンタら集まってるのはそういう事ね、なんとなく事情が分かった」


 おばさんはそう言うと、ポンっと手をたたいて納得したようにうなずき、


 「アンタら男女3人で一晩中遊び倒したところを、真面目な委員長のノアちゃんに見つかってしまったという感じだろ?」


と、イヤミったらしく大間違いな推理を大声で次々と言うとフンッと鼻息荒く腕を組んで見せた。

――これは、完全に誤解されてるな。

 ノアの普段の行いを考えるとさもありなんだけど、なんとか誤解を解いてもらわないと後が怖いことになりそう。


 「違うんですっ! この人とはただの仕事の付き合いなんです! 」


 遥をにらんだままそう吐き捨てるように言った人間重機関銃おばさんの言葉を、遥はぶんぶんと手をふって否定するが、「何が違うんだい? アンタの顔には――」おばさんは遥の一分の反論もゆるさずガンガンまくし立てるさなか、オレの敏感な耳に由紀とヒロユキの焦りの混じった声が届いた。

 

 「げぇぇ~ お、おねぇちゃんがいる!」

 「やばぁ、委員長がいる。 逃げるよ」

 

 オレが声の方を向くと、自分たちのきがついたのか由紀に手を引かれ、脱兎の様に逃げ出す二人。

 コレだけ大声を出せば、そりゃ見つかるよな。

 そして、二人の天敵であるあゆむとノアを見つかれば、当然、スグに逃げるよな……。

 

 「ちっ、気が付かれたか……」


 もちろん、あゆむも気が付かないわけもなく、さらには逃げたら追うのがあゆむ、二人の後ろ姿をじっと目で追っていたが……。


 「チッ………、 みうしなかった……」


 だが、あの悪役令嬢の猟犬のような追撃をさけた由紀、あゆむの性格を知っていて、影が薄く人ごみにまぎれるのがうまいと言われているヒロユキ、二人が組んで人ごみに逃げ隠れされては 見つかるわけはない。

 ――二人は人ごみに紛れて完全に見失ってしまっていた。

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