信頼の理由
「京子ちゃん、おまたせ~」
「先輩おまたせ~」
ノアと遥は、公園の端から満面のえがおで手を振りながら、オレとあゆむの方に向かってきた。
――遥に至っては、どこで買いだしてしたか知らないけどスーパーの買い物袋つきで。
だけど彼女たちは、オレが知ってる限り今まで見せたことないような柔和な表情をしていた。
「どうだった? 」
オレは、心配になって彼女に聞いてみる。
あゆむも心配そうな視線をノアに向けていた。
「うん、遥さんのお母さんの美羽さんから怒られちゃった」
「え!? 」
――怒らた? それってヤバイパターン?
さっきの話は聞き間違いか?っ と思い、オレが怪訝な顔をしていると、彼女は、またさっきと同じような柔和な笑みを浮かべる。
「『どうしてもっと早く私たちを頼ってくれなかったの? 困ったときは自分たちだけで悩まず、もっと早く誰かに頼りなさい、美優から話は聞いてましたよ』って。 その上で、あの人は私が妊娠して、その子を産みたいって思っている事も全部分かったうえで、一緒に住みたいって言ってくれたよ」
ノアは優しい口調でそう言うと、穏やかな表情でおなかをさすっていた。
「そっか、良かったね」
オレはノアに優しく微笑み返す。
あゆむもノアの笑顔をみて安心したのか、満面の笑みで頷いていた
ノアの方は、これで一安心。 もう、彼女は生活のためのバイトとかで悩まなくてもよいのだからね。
オレが聞いていた以上に、いい感じで収まった感じかもしれないな。
「ね、泉さん、アタシの言ったとおりだったでしょ?
うちのパパとママなら確実にそう言うと思ってたからねぇ~。 チョロいものよ!」
遥は、買い物袋をもったまま大笑いしながら腕を組み、半ばふんぞり返りそうな体制のうえ、明るい口調で無責任なことをお抜かしになりやがった。
今回は、たまたま母親とノアの母が姉妹で交渉がうまくい行ったから良いものだけど、上手くいかなかった場合はどうしたんだろ?
オレは遥さんの方をじっとみた。
ソコには、半ばふんぞり返りそうな体制のうえ、無責任そうに笑う彼女がいた。
遥さんのそんな姿をみていると、きっと、『断られたとき? アンタ、そんなものは、その時考えるだけだけど?』、ってあっけらかんと言いそうな感じがする。
――彼女には、それが天然でまったく悪気がないのだろうけど、とんでもない人だよなぁ……。
「遥。 もし実家がダメと言った時はどうするつもりだったんだ?」
あゆむもその件が多少気になったのだろう、いぶかしげに遥にたずねると、彼女は、
「そんなもの決まってるでしょ? その時は其のとき、笑ってごまかすだけよ」
と、予想通りの無責任なことを笑顔でお抜かしになられやがった。
「……」
オレは、無責任なことを言う遥をジト~っとした目でみつめた。
常識のある両親の娘なのに、遥さんのほうは まったくどんな教育したらそうなるんだよ。
――いや、教育というか、これは彼女の素質なのかもしれないな……。
オレは心のなかでそう愚痴ってると、遥は真面目な顔、声であゆむを真っすぐにみつめながら更につづけた。
「それにね小梨さん。 なによりこの場所にアナタが居るわ。 どんな最悪の時でもセンパイがいれば 何とでもしてくれる。
――そうでしょ?」
「そういう理由か……」
あゆむは絶大な信頼をよせる遥の言葉に、苦笑いをしながらぐにゃりと表情ゆがめる。
コレはまんざらでもないときの表情だ。
「アタシと佳澄は、困ったときは絶対にセンパイが何とかしてくれると信頼してるんだ。
事実、佳澄が出来ちゃったときも、そうだったしね」
遥は、確信をこめて言いきった。
――困ったときは絶対にあゆむが何とかしてくれる、と。
この人が、あゆむとそんな信頼関係なのはちょっとヤケてくる。
オレもあゆむを信じているけど、ソコまで言いきれないかもしれないしね。
「……あゆむ……」
オレは気が付けば、渋い顔であゆむの顔をジッとみつめながらカレの二の腕をギュっと抱きしめていた。
いつか自分もあゆむと心から信頼しあえる そんな関係になれるのかな?
――ソレはオレの独りよがりのわがままだけどね。
「……きょうこ、どうしたんだ?」
あゆむはそう言うと、笑顔を表情をうかべながら、うでにしがみつくオレの背中を優しくなでてくれた。
おおきなぬくもりが伝わってきて、オレのほんの少しザラついてきたハートがほんわり癒されるのがわかる。
「なんでもないよ。 ただ、あゆむにこうしたかっただけだから」
オレがネコみたいな甘い声でいうと、遥は、オレを見ながらほんの少しうやましいそうな表情をうかべて、
「あ~あ、センパイをこの娘に取られたちゃったな。 アタシに言ってくれたら、速攻OKしたのになぁ~」
と、あゆむをみつめながらイタズラっぽい小悪魔のような表情でいうと、あゆむは細め、
「お互い、相手の事を知りすぎてるだろ?」、といいながらフッと笑い、すげなく遥の視線をかわす。
「そういえば、そうよね」
遥は、目を細めるとほんの少し寂しそうなそうな表情をうかべ、あゆむをみつめながら、さらにつづけた。
「アタシたちは、お互いの事を全部知ってるから、互いに恋愛対象とはみれないのよねぇ、
お互いのあざとい所とか、見たくないものとかも全部知ってる訳だからねぇ」
「そういうことだ」
遥の意見に「うんうん」と相槌を打つあゆむ。
あゆむがいうように、たしかにそうだよね。
恋愛でも、お互い知りすぎてると、ぎゃくに発展しないもの、ちょうど幼なじみや初恋がすすまない感じで。
お互い、適度に秘密があるから、上手くいくところも多いわけだしね。
そんな事を思ってると、遥は、笑顔で更にトンデモないことを言い出した。
「考えたら、むかしアナタとアタシとカスミと3人で一つのお風呂に入って上半身だけだして、『ダ〇トリオ』、ってやった仲だもんね。 3人の間で知らない事なんて無い間だったよねぇ」
「ぉぃ……」
オレは遥のぬかした爆弾発言に、じとぉ~とした目であゆむの顔をみつめた。
コイツは、両手に女というハーレムのような感じで一緒にフロに入った、って感じか?
――つまり、そのあと当然そういう事をしたという事だな……。
つまりこいつは外道、女の敵認定っと。
「遥。 ひ、人聞きの悪いことを言うな。
3Pした後、みんな汗だくなったというので、3人でカスミの家のお風呂に一緒入っただけだ。
決して、あいつ等とやましいことをした訳ではない、誓ってもいい」
目を白黒させながら、たどたどしく弁解をするあゆむ。
3Pの後、みんな汗だくなったというので、3人でカスミの家のお風呂に一緒入ったというけど、実際に3人で3Pをヤってるだけ更に悪いわ。
このスケベめ……。
「3Pねぇ……。 両手に華のお楽しみだった訳という訳ねぇ……」
オレがさらにじとぉ~とした目であゆむを見ていると、遥はフッと表情を緩め、
「アナタは心配しないでいいわ。 私とこの人とは、アナタが考えてるような肉体関係とかの、そんな浅い関係じゃないの。
切っても切れない、もっと深いところでつながった関係よ」
と、彼女は真面目な表情で言い切った。
「……」
もっと深いところでつながった関係……、か……。
どんな関係なのか気になるけど、とりあえず置いておこう。
聞いても教えてくれないだろうしね。
あとはノアの件だ。
「そういえば、ノアはこれからどうするの? 」
オレの問いかけに彼女は首をすこしこくんと傾け、「そうね……」と短くいうと少し考えてから答えてくる。
「とりあえずは今まで通りかな? わたしが休学して、遥さんの家に引っ越すまでね」
「そうだよね、すぐに学校も休めないよね」
そうだよね、メール一本だけ入れていきなり学校に行かないなんて、真面目なノアにはできないよな。 せめて自分の委員長の引き継ぎをすませてから休学するつもりなんだろう。
いつも通り変わらないノアの言葉にオレは安心したのも束の間、彼女はさらにとんでもないことを言い出した。
「でも、私は今からゆいちゃんの所に行くわよ」
「何しに行くの?」
「あの子の朝ごはんのお届けよ。 ゆいちゃんのパパ、あの事件からずっと調子がわるくてずっと寝込んでベットから出れないから、フェイトさんの連絡がない今日は私が持っていくの」
「へぇ……」
「フェイトさんもちょくちょく山田さん家の事手伝っているようだけど、あの人もいつもできるわけじゃないので、わたしも連絡を取って自分の出来る範囲で色々お手伝いに行ってるのよ」
ノアはそう言うと、フゥと息を吐きだし、メガネを光らせながら更に言葉をつづけた。
「――だれもみんなスグ強く立ち直れるわけじゃないからね。 こころが折れて弱っている時は立ち直れるようになるまで周りがサポートしてあげないとダメでしょ?」
そうだよね、事件にあってスグに立ち直れる人ばかりじゃない。
むしろ、心がおれたまま其のままダメになってしまう人の方が多いかもしれないよな。
それがふつうの人間だよな……。
「だから、きょうこちゃんアナタもわたしと一緒に今から食べるものの差し入れをするのよ。 どうせ私があの子の所に行かないと、ゆいちゃんは朝ごはんもたべないだろうし、今頃、お腹すかせて泣いてるころだろうしね」
「え……。 自分も?」
なんで自分まで? 表情を曇らせると、ノアはじとぉ~とした目でオレをみつめ、
「え、じゃないの。 みんなで行けば賑やかになってゆいちゃんも喜ぶだろうしね。 そんな訳で きょうこちゃん、もちろんアナタも行くわよね?」
「いきます……」
オレはノアの威圧に負け二つ返事をする。
どうやら、自分たちが ゆいちゃんの所に行くのは確定らしい。