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ある取引

 「北村の正体がルナなら、アイツ(ベルゼバブ)もルナよ」


 フェイトは銀髪をなびかせながら、オレとあゆむを前にしてクールに言い切った。

 ハエの正体はルナだと。

 そして、彼女は、「まだ証拠は何も無いのだけど」、と断った上で自分の推理をかたりだした。


 「おそらくアイツ(ベルゼバブ)は、自身の不運、そしてそんな不運を作り出した社会、その復讐のためにすべてをメチャクチャにしたくて動いている。

 ―—こんな世界なんて、滅んでしまえ。 目につく幸せな連中なぞ消えてしまえ、と」


 「……」


 そういえば、アイツ(北村)も同じような事を言ってよな……。

 ――自分に手に入らない幸せなら、みんな仲良く地獄に落ちて苦しめ。と。

 そう考えると、北村がハエの可能性が高くなるよな。


 「しかも厄介なことに、彼女の憎しみを知った上でソレを利用したヤツ等も居るわね。

 ――ある製薬会社の治験にまつわる黒い噂も聞いたことあるから」


 「まさか、……エリクマブの件か?」


 あゆむはフェイトの言葉を聞いて、何かに気がついたように目を見開いた。

 

 「そうよ、小梨さん。アナタの読み通り「エリクマブ」という新薬の治験中に、アノ病院で一人の死亡事故が起きた」


 「やはり、か……」


 「治験中に偶発的な案件(不幸な事故)は起きてしまった。

 ―—けれど、今更、社運をかけた巨額な予算を使ったその薬の発売は、今更止めれない。 ならば、いっその事、この事は無かった事としてしまえ、死亡したのは別の人間としてしまえ。 となったようね」

 

 「その時、偶然丁度いい「スケープゴート」が現れた。

 それが、同時期に施設から心も体もボロボロの状態で同じ病院に運び込まれた「ルナ」と言う娘と言う訳か……」

 

 あゆむが忌々しそうにそう言うと、フェイトも「そういう事ね」と、深くうなずくと更に推理を続けた。


 「きっと「エリクマブ」という薬の治験の最中に死亡したのが、身寄りもなく小学生時代からの引きこもりだった北村本人(オリジナル)。 

 だけど、いくら長期引きこもりで、社会とつながりの少ない男とは言え、いずれ男が死んだ事故はバレるわ」


 「だから、その事実を隠すために、施設は今までは存在していなかった替え玉の男が必要となった訳か?」

 

 「アナタの読みとおりよ。 替え玉が必要だった所に幸か不幸か本当は男の体のだけど、()()()()()()()()()、ルナと言う娘が運び込まれた。 施設で陰惨な集団暴行され、体や心に深い傷を負ってすべてに絶望した状態でね」


 「……」


 「そして、ルナの血液検査の最中、彼女の体の秘密を知った病院はすべてに絶望した彼女にある取引を持ち掛けた筈よ。

 ――『その忌まわしい女性の体と過去を捨てて、ある男として生きてみないか? 何も心配しなくていい、必要な物はコチラが全て準備する』、と」

 「……そして、ルナは取引に応じた、言う感じか?」

 「ええそうね。 彼女(ルナ)にも病院とお互いにメリットがあるから、その子は要求をのんでルナは男の体を手に入れ、ハエとして自分の復讐を遂げている。

 そして、病院のほうも不幸な事故が無かった事で、新薬の治験も無事終了し、お上の審査も終了して無事販売まで漕ぎつけ、莫大な利益を上げることが出来るようになり、こちらも丸く収まった筈よ。 

 ちょうどその時期にあった病院のカルテの電子化の時期と重なり、運よくカルテの改ざんも、電子カルテに登録される際にすべて隠蔽されたようね。」


 フェイトはそう言うと、「そして」、と短く言葉を区切り、クールに説明を更に続けた。


 「そして、それらの証拠。

 ――電子化の登録の際に改ざんされたカルテのオリジナルの情報(真実)は、処分業者の倉庫にある紙カルテに記載されている筈よ」、と彼女はクールに締めくくった。

 

 コレって、よく聞く話だよな。

 新薬の失敗を隠すために、製薬会社と病院が癒着して色々やっていくって事はゴシップネタとかでよく耳にするしね。 モットもココまで大掛かりな証拠隠滅はめったにないだろうけど。

 でも、電子化前の紙カルテを見つけて、その真実を明らかにすればハエが北村であると突き止められる。 そんな感じかな?


 「あ……。 そういえば、もうこんな時間ね」


 フェイトは唐突にそう言うと、整った顔におどろき交じり表情をはりつけ、澄んだパープルの瞳で空を見上げた。

 さっきまで薄暗かった上空は、すっかり明るくなって青い空には小鳥が飛び始めていた。

 オレがあたりをキョロキョロ辺りを見渡すと、公園から少しはなれた場所ではリーマン風の人たちがいきかい始めていた。

 話し込んでいたせいで、そろそろ町が目覚め始める時間になっていたみたいだった。


 「私は、そろそろ行かないといけない場所が有るから、お先に失礼するわね。

 ―—後は、ヨロシクね」


 フェイトはイタズラっぽくそう言うと、オレとあゆむに軽く一礼。

 そして、あゆむが何かを言う前に、彼女は公園の外に向かい大慌てで走りだすと、

 「ーーそうだ、あのルナの画像をスマホに送っておくから目を通して置いてね」、と言い残して風のように去っていった。

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