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八上(やかみ) 月(るな)

 「私の読みでは、北村本人は既に死亡している。

 つまり、今居るアイツはこの世に非ざる者(ゴースト)よ」

 

 フェイトはウデを組みながら、自分の考えを静かに口に出した。

 ーー北村はすでに故人で、今のアイツは幽霊だと。


 「アイツは「幽霊(ゴースト)」なの!?」


 オレは、フェイトのトンデモナイ推理に思わず反論する。

 いくらなんでもさっき居た北村はすでに死亡していて、今のアイツはこの世の者じゃないなんてあり得ない話でしょ?

 さっき見た時、北村にはちゃんと足はあったけど? しかも、ケーキとか食べてたし。

 アイツみたいに飲み食いする存在感のある幽霊なんて居る訳は無いよね……。 

 それ以前に、これだけ化学が進歩した現代に幽霊なんて非現実的なものが居るわけがないよ。 


 いくら何でも、フェイトさんのアイツが幽霊だという推理は流石に無茶すぎるでしょ?


 「ーーアイツも亡者(ゴースト)か……」


 だけどむちゃ振りのようなフェイトの言葉は、はるか遠くの山並みを見ているあゆむには届いたようだ。

 ウデを組み、山中を見据えているあゆむの横顔が、いつになく真剣だった。

 オレにはその表情の理由は判らない。 

 けど、アイツがゴーストであるという事に、何か思い当たるフシがあるようだった。


 「そうよ、北村もあの世から舞い戻った亡霊よ。

 ーー正確に言うと、アイツの方は地獄の底で修羅に生まれ変わり、そこから這い上がってきた来た悪魔(デビル)ね……。」


 フェイトはあゆむを見つめながら、彼の言葉に修正を加えた。

 ーー北村は、地獄から舞い戻って来た、亡者と。

 

 「……地獄の底で……?」


 オレは、その言葉を聞いて、以前、北村がいった言葉を思い出した。

 ――アマちゃんの貴様に判ってたまるかよ……。 地獄の釜の底の熱さが……。

 アイツは確かに、お前に地獄の釜の底の熱さが判るのかよ? と自分が地獄の底に居たような事を言っていた。

 じゃあ、アイツは本当に地獄から来た悪魔なの?


 「そうよ、アイツは地獄の中でも死にきれず、さりとて希望をもって生きることも出来ず、その悲嘆の冷たい炎の中で生まれた悪鬼(デビル)ね。 コレを見て」


 フェイトはそう言うと、自分のスマホの画面を見せつけた。


 挿絵(By みてみん)


 画面には、黒髪の美少女が写っていた。

 見た感じ、由紀に雰囲気がよく似ているけど、目つきの悪い、ちょいワルが入って屋上で一人でいるのがデフォルトの様な娘だ。

 ーーけれど、その細く鋭い目つきは北村そっくりだった。


 「この娘の名前は、八上やかみ るなよ」

 「八上 月?」

 「そうよ八上やかみ るな。 この娘はパパ活の聖地に出入りしていたようだけど、ある時期から忽然と消えているわ。 出入りしていた時に彼女が名乗っていた名前がそのるなという名前だったそうよ。 この画像をくれた娘が教えてくれたわ」

 「へぇ~」

 「もっとも、彼女がそのルナと言う名前は偽名でしょうけどね、一時期パパ活の聖地、小久保こくぼ公園で、買う男の方からも、同業者(ウリをする娘)からも、ここじゃあり得ない位の美形の娘と有名だったそうよ」


 フェイトはそう言うと、視線をすっと山すそに移し、更に説明をつづけた。


 「そして彼女が消えるとほぼ同時期に、孤児院で陰惨な集団暴行されたあげく、救急搬送された病院で命を落とした娘が居る。 そう言う噂も、病院関係者の間には、まことしやかに言われているわ。

 ーーそして、その少女が亡くなると同時にこの世に現れたのが、アイツ(北村)よ」

 

 フェイトさんの話をまとめると、

 ーールナと言う娘が消えるとほぼ同時期、孤児院で陰惨な集団暴行されたあげく、搬送された病院で命を落とした娘が居る。

 つまり、死亡したのは八上やかみ るなと言う少女と言うことかな?


 違う。

 

 死んだと思われたその少女は、実は生きていて、どういう手段かしらないけど男の体になって北村と名乗っている。

 彼女(フェイトさん)の話をまとめると、そんな感じだろう。

 

 「あの時のアイツの言葉は、そう言う意味だったのか……」


 あゆむの方は、フェイトさんの話の中身を既に理解済みなのか、納得したように納得したようにうなずく。


 「そうよ、アナタが予想した通りよ。 アイツは自分自身が昔にうけた、

 ーー男に集団で犯され、妊娠を覚悟するまでナカ出しされた挙句、ボロボロにされた体に「売女」と刻まれると言う自分の過去の悲惨な体験を、アナタと言い争いのさなかに お互いポロリと口に出していたようね」

 

 フェイトは、「そして」、と強い口調で区切り、

 

 「彼女はその地獄のような体験をして、その成れの果てに生まれた修羅があの(北村)

 ーーつまり、北村と言う男の正体は、八上やかみ るなと言う女性よ。 その女が北村の戸籍の乗っ取って本人に成りすませている」

 

 フェイトさんは、北村が八上やかみ るなと言う女性だと言った。

 北村が女と言う可能性は、以前 オレも考えた事だった。

 けど、その時にオレが性別を確かめようとしてアイツの前に何気なくに座り込み、そして、無防備をよそおってスカートのしたから、太もものディンジャスゾーンをさりげなくチラリと見せ付けたことがあった。

 その時、オレが見たものは、確実に男の体をしていた北村の姿だった。

 

 「フェイトさん、アイツは間違いなく男の体だったよ、確実に男装なんかのようなチャチな物じゃない。

 女から男になるのは無理じゃなかったの?」


 オレみたいに天使にさせる時のような感じで男から女はできるけど、たしか、女から男の逆は無理だったはず。

 前に、なにか例外を聞いたような気がしたけど、とりあえず原則は男性から女性の片道切符のはずだった。

 そうなるとるなと言う女性が、あの男と言うことはあり得ない筈だよ。


 「あゆむ。 たしか女性から男性は無理だったよね?」

 「……原則はそうだ」


 オレの問いに、あゆむは表情をくもらせながら、いつもとは違いキレの悪い返事をした。普段はキッパリいいきるのに。

 なんか言いにくい事があるのかな?


 「そうね、アナタが言うように原則(きほん)はね。」


 そんな事を思ってると、フェイトさんはあゆむを見つめながら、短くそう言うとさらに続けた。、

 

 「ーーただ、どんな物にも例外はあるわ」

 「例外?」

 「ええ、そうよ。

 この世界には、遺伝子レベルでは男だけど、何かの疾患で男になりきれず、女性のような体で居る人も居るわ。 そのような場合なら、例外として女性の体をナノマシン治療で男の体にする事は可能よ」


 あ、思い出した。 この事は、以前、由紀が言っていた事だ。

 ーー男になり切れていない場合は、女性が治療して男の体になれる。と。


 「じゃあ、八上やかみるなと言う娘が、遺伝子レベルでは男の娘だった場合、治療して男の体になれると言う事なの?」

 「ええそうね。 治療して男の体になれるのは、あり得ない話では無いわ。 

 ーー私は、そうできる確かな証拠をこの目で見たことが有るから。 

 そうよね、小梨さん」


 「……」


 自分は、確かな証拠を知っている。

 フェイトはまじめな表情で そう言うと、澄んだパープルの瞳であゆむをじっとみつめた。

 オレには、その彼女の表情の意味は判らない。


 「……あゆむ!?」


 けど、カレの方を見ると、フェイトさんに見つめられているあゆむは それどころじゃ無いようだった。

 オレの言葉や視線にまったく気がついていないもの。 目は宙を泳いでいるし、顔には一筋の汗も流れているし、だれが見ても動揺してるのは確かだった。

 一体何があゆむを動揺させたのだろ?

 まさかあゆむもアイツと同じように治療して男の体になっているの?


 そういえば、北村も、

 ーー自分の目から見れば、アンタがどんなに強がっても所詮、男の格好をした女にしか見えまへんわ。

 と言っていたな……。

 ーーつまり、あゆむも元は女性という事が、カレが隠しておきたい大きな秘密なの?


 もっとも、オレには あゆむが以前 男や女だったとかは どうでもいいことなんだけどね。

 昔のカレがどんな人間でも、今があゆむが大事だから。

 ソンな訳でオレの今の一番の問題は……。


 「……」

 

 オレはムスリとした顔をして、目を細めながらシラーっとしたしせんをあゆむにおくる。 

 そして、カレとフェイトさんとの視線をずらすように、あゆむの二の腕にウデをかるくひっぱりながら腕に抱き着く。

 自分は、いくらフェイトさんが人妻と言っても、あゆむを自分以外の女性が誘惑するような感じで、なんども見つめられては、さすがの自分も心穏やかに居られようが無い。 フェイトさんが女性と言う以上、不倫と言う事もあるからね。

 自分はソコまで心がひろくないのだ。

 

 「あゆむ」

 「何だ、きょうこ?」


 あゆむは、オレのマジメな表情の言葉に表情を険しくする。

 何を聞かれるのか、びくびくしているような表情だった。


 「あゆむはフェイトさんと見つめすぎだよ。 

 本当は二人の間はそんな関係なのぉ?」

 「なっ……。 きょうこ、それは断じて違うっ!」

 

 オレの邪推を即断で否定し、苦笑いを隠せないあゆむ。


 「判ってるよ、そんなあゆむの表情が見たかっただけだしね」

 「…………」


 無言ではあるが、安堵をうかべながらも邪悪に表情をぐにゃりとをまげたあゆむを前に、オレは表情を緩めながらイタズラっぽい笑顔を浮かべ更に続けた。


 「あゆむの昔の事なんて、自分にはどうでもいい事だよ。

 オレはあゆむの過去なんて興味ないし、たとえ元女の人でも関係ないよ。

 ーー今の男のあゆむが、あゆむでしょ? 自分はそのあゆむが好きだから」


 「ああ。 そうだ……、そうだったな……」


 オレの問いに、あゆむは其れだけ言うと、オレに何か言いたそうな、寂しそうな、複雑な表情を浮かべながら、残りの言葉を飲み込んでしまう。

 そして、オレの背中を優しくなでてくれていた。

 温かさがじんわりと伝わってくる。


 「……あゆむがオレに話したくない事は、話さなくていいよ……。

 ーー話したくなる その時まで、ずっとまってるから」


 ふと フェイトさんの方を見ると、何故か小さくため息を吐いてるのをみえた。

 ーーオレの言葉が誤解された?

 まあよいけど……。


 「なにか、話がずれちゃったみたいだけど、本題に戻るわね」


 フェイトはマジメな顔でそう言うと、さらに推理をつづけた。

残りは早めにだしますっ!


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