正しい復讐の形。
オレとあゆむとフェイトの3人は、ノアと待ち合わせ場所に着いた。
待ち合わせ場所は、ちいさな峠道の旧道沿いにあるファミレス、名前は「ニューアーク」。
団地内にある小さな峠道の旧道沿いにあるその店は、周囲の高層団地とは対照的に、低層の建物として目立たない存在だ。
エントランスをすすみ入った店内は、入り口には受付の娘もおらず静寂が漂っている。
あたりを見渡せば、深夜とあって薄暗い店内はガラガラ、数組のカップルや一人で食事をする人がいる程度。 店員も見当たらず、用があるときは読み出しベルを押せば奥から店員が出てくるのだろう。
「……何処だろ?」
オレは、そんな仄暗い店内をノアを探して、きょろきょろあたりを見渡すと……。
「ーーノアを見つけた」
店の奥にある窓際の席、一番見晴らしの良い場所にセーラー服を着たメガネの娘が居た。
ノアだ。
いつものように制服を着て、店で浮くほど地味な格好をしてるから、彼女を見間違えるはずはない。
「ノアの隣のテーブルに居るのは、遥だな。」
「そうね。 どうやら彼女の目的も私たちと一緒のようね」
あゆむの言葉に相づちをうつフェイト。
二人の視線を追うと、ノアの隣のテーブルには、赤いショートヘアで黒い革ジャンとミニスカの女性がいる。
先ほどの遥だ。
彼女の方も、コレはコレでハデ過ぎて、静かな店内で浮いているような感じだけど、とくに気にするような人はダレもいない。
彼女(遥)は、自分たち3人が気が付く前に、遥の方が先に気が付いたのか、(自分たちはココよ)言わんばっかりに 一昔前のギャルのような軽い調子で こちらへウインクを送って来た。
「アイツめ、一体何を考えているんだ……」
あゆむは、遥の軽い態度が気に入らないのか、腕を組みながら眉をひそめつつ、更に言葉を続けた。
「遥は言い出しにくい事があると、ワザと明るくふるまうクセがある。
ーーアイツのアノ表情、今回もイヤな予感しかしないな……」
目を細め、イヤな予感しかしない、と締めくくったあゆむ。
「あゆむ……。 どうして、彼女の事をそこまで詳しいのさ?
ーー今回もって事は、前も彼女と何か有ったの?」
オレはそう言うと、思わずジトー~とした目でカレを見つめる。
あゆむは女性に興味のない様にふるまってるけど、一応、男の人だしね。 アノ人と男女の関係があっても何も不思議じゃない。
カレの過去の恋人関係の事を自分の目のまえで言われて、オレは平気で居られるほど心が広くないのだ。
「お前の前で失言だったな。
だが、この件は……彼女たちのプライベートに関わる事なので詳しい事は黙秘する」
あゆむはそうポツリ言うとバツ悪そうに頬をぽりぽり。
ーーこれは、絶対怪しい……。
「あゆむは、彼女たちのプライベートの事って言ってるけどさ、結局……あの娘と寝た事あるの……?」
オレはそう言うと、ムスッとした表情で目を細め、無言であゆむの顔をじっと見つめる。
ーー彼女たちのプライベートって、絶対怪しいよ……。
口に出せないという事自体が、ヤってる、て事を暗に言っているのと同じだしね。
「フッ、お前が何をカン違いしているのか知らないが、そんな類ではない。」
「本当なのぉ?」
オレはさらにジトっとした目であゆむをみつめる。
まだなんか怪しいなぁ……。
「ーーこの小梨歩、誓っても良いが、この体では彼女(遥)とベットを共にした事は無い」
あゆむは、フッ、とオレの心配を一蹴にし、身の潔白をすると小声で手短に説明をつづけた。
「私が、彼女のアノ癖を知っているのは『真紅のクリスマス事件』を知ってるからだ」
「深紅のクリスマス事件?」
オレは聞いた事のあるフレーズに軽く首をかしげる。
あ、思い出した。 コレは、由紀が言っていた木戸あゆみの3大悪行の最後の一つだ。
前回から行くと、あの子は今回もトンデモない事をヤラカシタんだろうなぁ……。
そんな事を思ってると、あゆむは遠くを見るような視線で、更に説明を始めた。
「深紅のクリスマス事件とは、木戸あゆみ一派とレナ達がカフェで鉢合わせ、つかみ合い寸前のトラブルになった一件だ。
ーーあの時も先に店にいた遥は、レナ達が彼女(遥)達に ちょっかい出しているのに、「あゆみお姉さま、みんなでお待ちしていました~」、と、何も問題が無いように底抜けに明るく振る舞っていた。
と、聞いている」
あゆむは、顔を軽くひきつらせながら、そう締めくくった。
ーー遥が底抜けに明るく振る舞っている時は、何か隠し事がある時だと。
そう聞くと、彼女(遥)の表情を見ていると嫌な予感しかしないな。
不安を胸にひめながら、ノアの方に向かう。
”
「ーー小梨さん、お兄ちゃんからのメッセージを黙っていてごめんなさい」
ノアがあゆむを見るや否や、深々とあたまをさげ開口一番、彼女の口からでたのは謝罪の言葉だった。
あゆむも彼女の行動は想定外だったようで、刹那、表情をとめる。
「でも、この件、この件だけは どうしても自分でやりたかったの……」
ノアは動きを止めたあゆむを前にして、涙を浮かべ、声を震わせながらつづけた。
「ーー最初、アイツを小梨さんたちより早く見つけるつもりだった」
「それってまさか……」
驚きまじりのオレの問いに、ノアは眼鏡を光らせ、「そうよ、あなたの想像通りよ」、とトーンを落とし小声で答え、更につづけた。
「私がーーアイツをこの手で殺すつもりだった。
そうでしょ? あんなに優しいお兄ちゃんをレイプ物のAVのように辱めた挙句、メチャメチャにして殺したヤツよ。 そんな人間を許せる訳ないでしょ!?」
ノアの声がだんだんと大きくなる。
やがてそれは嗚咽となり、ノアの口から飛び出していく。
「……もし、アイツが女だったら、この手でアイツをお兄ちゃんと同じような目に合わせてやるつもりだった。
その為の勉強も、頑張ってしてきたわ……」
優等生のノアが、スカートのすそを握りしめ、体を震わせ息を切らせながら、涙声で矢継ぎ早にはきだした、彼女の凶暴な素な一面。
メガネの下から一筋の澪が頬に零れ落ちる。
「……」
「……」
「……」
彼女の魂の言葉に、あたりの空気が重くなり、オレも含め、あゆむも遥も、まじめな顔になりダレも口を開かない。
そんな重苦しい空気の中、ノアは涙声で、「けど」、と言葉を区切り、更につづけた。
「自分の手で、罪を犯した憎い相手に裁きを与える、「自力救済」。
ーーそれはこの国では許されない事……だよね……」
「ーーああ、そうだ……。」
あゆむは力なく呟くように、ノアの言葉を肯定する。
カレが言うように、確かにそうだよね。
法治国家である以上、法を無視して個人が自分勝手に裁きを犯人に与えていたら国がメチャクチャになってしまうからね。
そんな事は今の時代許されるわけは無い。
「……」
そんな中、フェイトは、あゆむをシラーっとした目で見ていた。
ーーアナタがそんな事を言えた義理じゃないのに、どの口が喋っているのかしら?
そんな表情だ。
まあ、あゆむの何時もの態度を考えたら、さもありなん、なのだけどね。
そんな事を思っていると、ノアは更につづけた。
「そんな事は、私も判っているわ。
ーーどんなクズにもちゃんと法の裁きを受けさせるのが、この国の法律よね……。 今は不完全な点があるとしても、それはいつかは変えれられる筈よ、私はそれを信じる。
ーーだから、私はお兄ちゃんの残してくれたものの為にも、法を守るわ」
ノアはなみだを浮かべ、スカートの上からお腹を優しくさすりながら、ハエの様なクズにも法の裁きを受けさせるのが、法治国家であるこの国のルールと締めくくった。
ノアは、大好きな兄をめちゃくちゃにしたハエ(ベルゼバブ)を本心では、自分の手でお兄ちゃんと同じような目に合わせてやりたいのだろう。
だけど、ノアの理性が復讐心を上回り、それをさせないと言い切った。
本能と理性がぶつかっても、本能に負けず理性的に動けるノアは本当のすごい人だと思った。
「ーーだから、お兄ちゃんの隠して居たものを、ここで小梨さん達に渡したいと思うの。
あなた達なら、きっとアイツを追い詰めて捕まえてくれると思うから。
幸村さん、お願いします」
ノアは、涙声でそう言うと、遥に視線を送った。
あゆむ、ノア、フェイト、オレを含めて、みんなの視線が彼女に集中する。
「期待されている所で申し訳ないのだけど。 泉さん、ごめんなさい」
だが、みんなの期待が集まった遥の言葉は、以外にも、ノアへの謝罪の言葉だった。
彼女は、ふかぶかとノアへ頭を下げて謝罪し、赤い髪をいじりながら済まなそうに事の顛末を話しだした。
「結論から言うと、メモリーカードは既に無かった」
「遥さん、それはどういう事なの?」
「アナタから聞いた、明日香がメモリーカードを隠したカスパール病院の女子更衣室には、以前、荒らされた跡があった。
つまり、残念だけど、どうやらアイツ(ベルゼバブ)らに先を越されたようね。」
「……」
ーー既にカスパール病院の中にあった情報媒体は、既に相手に渡った、と申し訳なさそうに言う遥。
「……」
ノアは冷静な態度で彼女の言葉に沈黙を保っているが、その様子をあゆむはマジメな表情を浮かべつつ、何か言いたそうな表情で静かに、彼女の瞬きの1つにすら注意を払いながら聞いている。
その3者三様の様子を静かに観察しているフェイトがいた。
ハエの手がかりの行方は、更に混沌の様子をしめしていた。
残りも早めに出します!