優しい答え
オレとあゆむとフェイトの3人は、夜遅い街を歩いている。
行き先はノアに聞いた待ち合わせ場所のファミレス。
すでに夜遅いせいか薄暗い川沿いの歩道は人通りも少なく、酔っ払いやら、ヤバい連中も出そうな雰囲気だ。
だが、あゆむとフェイトさんの二人とも、ただならぬ強者の気配を漂わせるせいか、ヤバい連中はおろか、ネコの子一匹、蚊の一匹すら寄り付いてこない。
「フェイト、ノアと待ち合わせの「ニューアーク」はコッチだったな」
「大丈夫よ。 少し歩くようになるけど、あの店まではそう遠くは無いわ。 着いたらちょうど待ち合わせの時間になりそうね」
あゆむとフェイトは、並んで歩きながら雑談を交わしている。
オレは、二人のその隣で、あゆむに向かいバツ悪そうにシラーとした表情を送っていた。
「あゆむ、フェイトさんとくっつきすぎだよ」
オレはそう言うと、あゆむとフェイトの間に割り込むように入って、
カレの腕をギュっと抱きしめる。
あゆむとフェイトさんみたいに、美男美女がならんで歩くようすは、なんとなくシティドラマのように画になる。
けれど、そんな姿を見せつかられて、オレは心穏やかに居られる筈もない。
自分は、あゆむが他の娘とイチャイチャするのをみて、大目に見れるほど心は広くないなのだ。
「ふぅ。 フェイトに嫉妬か?
ーーまったく、お前は仕方のないヤツだ……」
あゆむは、オレがネコの様に甘える態度に、半ばあきれ顔になる。
だけど、まんざらではない様子で、オレのあたまを優しくなでてくれた。
「そんなんじゃ無いけどさ、ウデくらい良いでしょ?
ーー抱き着いても、減るものじゃ無いしさ」
オレはそう言うと、小悪魔の様な笑みを浮かべ、あゆむの顔を見つめる。
「まあ、そうだが……」
少し文句をいうあゆむ。
だけど、そこには少し文句を言いつつも照れながら優しい表情をうかべるカレの顔があった。 その表情に心の底から安心感が沸き上がる。
ーーやっぱ、カレのソバが自分のベストポジションみたいだ。
「小梨さん。 コレは仕方がないわね、きょうこちゃんの好きにさせてあげなさい」
フェイトはオレをフォローしつつも、二人の姿をほほえましく見つめていた。
オレの事を気遣ってくれるなんて、この人は本質は優しい良い人なのかも。
ーーただし、自分の子供に手を出した連中には容赦は無いらしいけど。
そんな事を考え、心がおだやかになったところで、あゆむの腕をギュッと掴みながら、静かにノアの事を考えていた。
ノアは、手に入れた手がかりから一体何をするつもりなのだろう……。と。
ーー遥とコソコソ会って、更には病院の近くにも居たっていうし、嫌な予感しかしない。
もし、彼女がハエに対して間違いを起こそうとするなら、自分たちが何としても止めないといけない。
ーーオレみたいに手をよごしてしまい、「殺人者」の烙印を背負ったこっちの世界は、地獄だから。
ノアにはそうなって欲しくなかった。
そんな事を考えていると、あゆむは突然あしを止める。
「あゆむ、どうしたの?」
「……何故、遥がこんな場所に?」
あゆむは、視線を川沿いの護岸へ向けていた。
「さっき居た娘だよね」
オレも、あゆむの視線の先を追うと、そこに居たのは、深紅のショートヘア、黒い革ジャンとミニスカの派手な女性。
ーー先ほど出会った遥だ。
彼女は、川沿いの堤防の上にたたずみ、複雑な表情で、しずかな川面を見つめていた。
ーー何か深く考え込んでいるような、そんな雰囲気だった。
「彼女と こんな時間、こんな場所で会うなんて、出来すぎてるわね。
遥の目的は、私たちと一緒かも知れないわ」
フェイトの言葉に、あゆむの表情がけわしくなる。
「ーーまさか、アイツも今からノアに合うつもりなのか?」
「その可能性は高いわね。
丁度、彼女に頼まれた依頼が終わって、今から結果を伝えに行くのかも知れないわ」
フェイトは、クールに自分の推理を口に出した。
遥は、『今からノアに頼まれた件の結果を伝えにいく途中だ』、と。
「じゃあ、彼女(遥)と口裏を合わせて、ハエの正体をノアに伝えないようにできれば、ノアの復讐を止めれるんじゃない?」
オレが何気なく口に出したのは本心だった。
ノアがハエの正体にたどり着くことが出来なければ、彼女が復讐の様な人の道を外れる事は無いわけだからね。
「……そうだと良いが……」
だが、あゆむは何か思うことがあるのか、其れだけ言うとまじめな表情になり、沈黙を保ったまま、佇む遥をじっと見つめていた。
「……」
川沿いの堤防の上にたたずんでいた遥は、話声でオレたちの気配に気が付いたのかチラリ振り返る。
「私も甘く、見られたものね……」
彼女は其れだけ言うと、堤防からヒラリと遊歩道に舞い降り、顔をひきつらせながら、スタスタとオレの方にやってきて、ドン、っと近くに有ったベンチをたたきつけ、「聞こえていたわよ」、と、オレへの怒りをあらわにする。
「私にも、仕事へのプライドがある。
どんな理由であれ、依頼主の利益に反する事は出来ないわ」
彼女は、どんな理由であれ、依頼主サイドだと言った。
プロフェッショナルのカガミのような娘だ。 だけど、彼女は情報屋、つまり どこかに潜入して情報を手に入れるって事だから。
ーー所謂、コソドロだろう。
コソ泥が仕事へのプライドも何もないと思うけどね。
「なるほど……依頼主の利益に反する事は出来ない、か。」
あゆむはそう言うと表情を緩める。
「私やお姉さまを、レナや由紀たちと同類にしないで欲しいわ。
昔から、自分たちは依頼主ファースト。 だからそのまま任せて置いて 」
遥は、そう言うと、足早に去っていった。