カレがカレである為に
泉 望愛。
オレが知る彼女は、うちのクラスの委員長で、いつも分厚い眼鏡をかけ、地味な制服を着て、真っ黒なセミロングヘアーをした少女だ。
クラスのだれもが「努力家で、真面目がセーラー服を着たような娘」という。
オレも、彼女とは学校ではいつも近くにいるから、其処は間違いない。
でも、これはオレが知る彼女のごく表面の一部だった。
今日聞いた彼女の本当の姿。
それはオレが知っていたより、ずっとずっと暗く、そして、悲しく、重たいものを背負っている娘だった。
不良にドラックを盛られるという自分の油断で、大好きなお兄ちゃんまで巻き込み、カレに禁忌を犯させ、さらに殺人者という烙印まで押させてしまったと言う、心に大きな大きな十字架を背負っている。
いうなれば、兄に大きな負い目を感じていると言うことだ。
あゆむは、そのノアが兄の記録媒体をもってる可能性があるといった。
たしかに、妹がモノを持っている可能性は高いだろうけど、あゆむが聞いても出さなかったんだよな……。
ーーきっと、ノアは何か考えがあって、あえてモノを出さないのだろう。
それをあの人を説得してモノを出させるって、難易度は極めて高いよな……。
オレとあゆむの目の前にいるフェイトさんも、其処はよくわかっているのだろう。
「ーーその筋は私も考えていたわ」
フェイトは悲しそうな表情でそういうと、あゆむを見つめながら「けど」、と区切り、
「でも、彼女が記録媒体を自分の意志で隠しているなら、それを出させる事は私たちでは無理ね。
隠すにしても手段が有りすぎるから」、とため息交じりに締めくくった。
確かに、あのノアが隠したのなら相当上手に隠すだろうし、この人がコッソリ探し出すのも無理な話なんだろうね。
「……じゃあ、其処から探るのは無理なのか?」
あゆむは、フェイトの答えに顔をこわばらせる。
だが、彼女はマジメな顔になり、「一つ手はあるわ」、と、あゆむに抱きしめてられているオレを見つめながら更に言葉をつづけた。
「心に何かを決めているあの娘に、自分たちのような一般人が聞いても本音は聞き出せない。
それを聞き出せるのは、天使に関わる当事者しか居ないわ」
「まさか!?」
あゆむは、フェイトの言葉の意味が判ったのだろう。
声をあらげると、オレを力強く抱きしめてきた。
「……あゆむ……、ちょっと痛いよ……」
あゆむの強烈なハグに、オレは思わずグチをこぼす。
まるで、オレを「何かに奪われたくない」、そんな感じにも思えるきょうれつな抱きしめだった。
「……すまない、きょうこ」
あゆむはそういうと、腕の力が少しだけ弱くなった。
「小梨さん、あなたの思っている通りよ」
フェイトは、感情をこめずに、そういうと、
「彼女からデータを出してもらうのを、同じ立場である貴方の大切な娘にも手伝って貰えるのかしら? そうすれば或いは……」
フェイトが言うように、天使である自分がノアに話せば、判ってくれるかもしれない。
たしかに、彼女はオレが天使であることを知っていても、普通に接してくれるから脈はあるかもしれないな。
そんな事を思っていると、フェイトは冷たい表情で言葉を続けた。
「もし、手伝わせるのであれば、それなりの危険を覚悟する必要があるわ。
私は『何があっても、あなた達の味方』だけど、それはあくまで『第三者の目線から』、自分の目的より優先させることはできないわ」
と、フェイトは、遠くの街並みをみつめながら、銀髪をゆらしながら決意をこめて言い切った。
つまり、この人は、オレがやろうとする事はヤバい事で、イザとなったら彼女が助けてくれるけど、あくまでも自分の目的の邪魔にならない範囲、そういう事だろう。
「……」
フェイトの冷酷なまでに、感情を消して冷静で的確な言葉。
まるでかつてのクラスメイトの「ゆうな」がそこにいるような感覚だった。
でも、彼女はもう居ない。
ーーあの娘は、もうハエに昇天されてしまったのだから。
だけど、もし、あの人が生きていて、ココに居たならきっとこう言うだろう。
ーー自分に、変わる意思があるなら、変わることも出来るわ。 と。
その言葉に背中を押され、オレの心はかたまってゆく。
「ーーあゆむ。 その役目を自分にまかせてもらえないかな?」
オレはあゆむの腕の中、まじめな表情でカレのイケメン顔をみつめながら口をひらいた。
ハエの事にクビをつっこむのが、ヤバいことは判っている。
ハインドモードという自分の立場が危なくなるかもしれない。
もし、アイツらに捕まえられれば、明日香のようにされるかもしてない。
けど、どうしても、この人の力になりたかった。
ーーそれが、オレの本心だった。
「……ダメだ! 危険すぎる」
あゆむは、あおすじを立て、でクビを左右にふりながら即答する。
ーーそりゃそうだよね、ハエの件にクビをつっこむのがヤバいのは判りきってるから。
この人が反対するのも、もっともだと思う。
「けど、今は自分がやらないと、ほかの手が無いのでしょ?」
「……」
オレは表情をゆるめ、動揺をかくせないあゆむの瞳をじっと見つめながら、さらに言葉を続けた。
「もし、自分が失敗してどんなヤバい事になっても、あゆむが守ってくれるなら大丈夫。
だから、任せてみてもらえないかな?」
カレなら、オレに何が有っても守ってくれる。
強い目になったあゆむには、以前にも増して絶対の安心感があった。
ーーこの人なら命を預けれる、って感じだろう。
「判った」
あゆむは強い口調で言い切り、「だが」、と短く区切ると、
表情をゆがめ、苦々しいそうに言葉をつづけた。
「ーーきょうこ、お前は決して無理はするな。
お前を失うくらいなら、自分はアイツが捕まらなくても何も問題はない……」
あゆむは、イケメンの顔に似合わない表情で、悔しそうに奥歯を食いしばりながら、そう〆くくった。
カレが、ハエの事をあきらめるのは、プライドの高いあゆむには耐えらない事だろう。
ーーけど、この人は、ハエとオレを天秤にかけ、自分の事をえらんでくれると言った。
カレの気持ちが、本気ですごく嬉しい。
けど、この人が、何かをあきらめるって、この人には似合わないよ。
あゆむは、いつも、全力で頑張る人だから。
ーーもし、ここで妥協してあゆむがハエの事をあきらめたら、カレが、あゆむじゃ無くなる気がした。
「大丈夫だよ、あゆむ。
ーー無理はしない。 だから、自分がノアに聞いてみても構わないよね?」
「ーーああ」
あゆむは複雑な表情で、短くぽつりこぼした。
自己満足かもしれないけど、あゆむには、何かを追いかけている何時ものカレで居てほしかった。
その手助けをしたい。 自分勝手かもしれないけど、それが自分の本心だった。
「小梨さん、これで決まりね。」
声の方を振り向くと、フェイトは目を伏し目がちに、オレに向かい憐憫の表情を浮かべていた。
ーーオレには、彼女の表情の意味は判らなかった。
どうしてそんな表情に?
「……」
フェイトはオレの視線に気が付いたのか、銀髪をさらりと揺らすと、何時ものクールビューティーな表情に戻し、さらに言葉を続けた。
長くなるのでココで投稿します~。
残りは早めに上げます、乞うご期待っ!