手がかりの行方
「ログから行くと、彼女がハッキングしたデータをダウンロードしたのは、このあたりね」
フェイトはそう言うと、彼女は銀髪をゆらしながらスマホの画面をあゆむに見せつける。
「あの病院の……廃棄物マニュフェストか……」
あゆむはそういうと、「だが、すさまじい容量だな」、と、苦々しい表情で締めくくった。
たかがゴミの処理伝票というけど、されどゴミ伝票。
おふくろに聞いてたけど、病院が毎日色々ゴミをだしていたら、そのゴミのマニュフェストもそりゃ膨大なデータになるよな。
まさに、「ちりも積もれば、山となる」そんな感じかもしれないな。
――後から、調べるとなると、手間はトンデモない事になりそうだけど……。
フェイトさんも、その手間の事はよく分かっているのだろう、目を細め、ため息交じりに話を続けた。
「膨大な量でも仕方がないわ、コレは病院の事務が電子化された後、それから全てのゴミがどのように処理されたが記録されているデータ。
――つまり、感染廃棄物から、病院の備品、電子化まえの紙カルテにいたるまでの行方を知る手がかりよ」
「……残っているマニュフェストの原本を丹念に調べれば、北村の過去……、
いや、――ハエにたどりつけるんだな?」
ぐにゃり表情を邪悪にゆがめ、唸るような声をあげるあゆむ。
これは、膨大なものでも、手当たりしだい しらみつぶしにやる表情だ。
――だが、フェイトは静かに目を閉じて、かぶりをふる。
「そうね。調べるものが残っていればね」
「フェイト。 其れは、どういう意味だ?」
あゆむは、フェイトの含みのある言葉に表情をくもらせる。
――世の中、そんなに甘くは無いって事だよな……。
調べるものがあれば、この人なら先に調べて、結果を持ってきそうだしね。
フェイトは表情をかえず、クールに伝票の行方を語りだした。
「残念だけど、マニュフェストの原本は焼失しているわ」
「焼失だと?」
「そう、原本は、数か月前の地下にあった管理人室の不審火で失われているわね」
淡々と事実をかたるフェイト。
火事で焼けて無くなるって、犯人が火事場ドロボウ的に証拠隠滅したんだろうな……。
――もっとも、状況証拠だけで、物証はなにも証拠もないんだろうけどね。
「……原本をスキャンした物はどうなんだ?
その位の管理は、どこでもやっているだろう?」
フェイトに詰め寄り、残された可能性にかける あゆむ。
しかし、フェイトは うでを軽く開き、かぶりをふった。
「残念だけど、画像データとして保管されて居た物も、データを保管していたノートPCもサーバーPCもバックアップのSSDですら スプリンクラーで水没し、メーカーに修理に出した際、データが失われてしまっているわね」
「――つまり、もう既に何も証拠は残っていない。そういう事か?」
フェイトから聞く八方ふさがりの事態の顛末に、あゆむは、奥歯をかみしめ、いまいましそうな表情になった。
向こうの方が一枚うわてで、自分たちの つながりになりそうな物を、あゆむ達が調べる前に徹底的に証拠隠滅をしたのだろう。
――その用心深さは、さすがハエというべきかもしれないな……。
そうなると、もうアイツらにたどり着くのは、お手上げって事かな?
あゆむも、その事は百も承知なのだろう、オレが抱き着いているカレの脈が速くなり、じっとり汗をかいているのが判った。
「――それも答えは「NO」、よ。 小梨さん、これを見て」
フェイトは澄んだ表情で短くそういうと、スマホの画面を指さし、静かに残された希望を語りだした。
そこには、何かの文字列が並んでいた。
――ネコ並みの頭の自分には理解できないものだけど……、何かのログであることだけは、分かった。
「データが残っている可能性があるとすれば、ココのログにあるように、彼女が何かに、データをコピーしたものが残っているだけね」
「なるほど。
――ハエどもが、明日香をあそこまでボロボロにしたのは、其れが理由か?」
あゆむは、鬼の形相になり唸るような声をだす。
だれでも、自分の元相棒がボロボロにされた理由を聞いたら、そうなるよな……。
だが、フェイトはクールな表情のまま、自分の感情が無いように言葉に感情をこめず、「きっとそうね」、と言うと、冷静に自分の考えを口に出してゆく。
「ハエは、彼女が隠し持った記録媒体を探すため、おびき出した彼女を廃工場に監禁し、快楽に堕として口を割らせようと、ディルドや催淫剤まで使い、SMまがいの方法で徹底的に痛めつけた」、
フェイトは其処まで淡々と話すと、
「――けど」、と短く区切り、「アイツは彼女が隠しているものを、どうやっても見つからなかったようね」、とクールに締めくくった。
「……ッ!」
フェイトの言葉に、思わず絶句するあゆむ。
――それは、そうだろう……。
――そんな事をされたら、普通の女の娘なら、スグに心が壊れて何もかも喋ってしまうだろう。
けど、明日香さんは違った。
催淫剤もつかって、頭の中がめちゃめちゃになるようになるような快楽と苦悶を受けても尚、
何も話さなかった。
それだけ、彼女の意志が強かったんだろうな……。 流石、あの委員長のお兄ちゃんというべきかもしれない。
――だけど、それが今回は裏目にでたんだろうな……。
それが、由紀に聞いた、彼女の悲劇的な結末に繋がっているのだから。
「だから口封じと警告を兼ねて、アイツは、バールやバズズ達と明日香を魔女裁判のような拷問と陵辱の末、殺して晒した訳だな……」
彼女の推理にあゆむは、苦々しい表情になる。
そして、その瞳には怒りの炎が燃え上がっていた。
「――でも、コレは彼女の負けじゃないわ」
だが、フェイトはそういうと、わずかに口角をゆがめ、クールビューティーな表情で言葉をつづけた。
「北村が動いていると言うことは、明日香さんはアイツらに勝ったのよ」
「……そういう事か……」
あゆむは、フェイトの言葉の真意がわかったのだろう。
彼女の言葉を聞くや否や、目を大きく開く。
そして、カレはゆっくり頷きながら、説明を始めた。
「もう既に明日香の記録媒体をアイツらに見つかっているなら、北村は動く必要が無い。
――アイツが動いたと言うことが、まだ向こうが彼女の残した物を手に入れない証拠という訳だな」
あゆむの静かにかたる言葉を聞いて、フェイトは、「そうよ」、と、うなずき、さらに言葉をつづける。
「アイツらも、未だにデータを手に入れられてなって事ね。
――つまり、決定的な証拠はどこかに存在するわけよ」
「まだモノは残っている。そういう事なんだな?」
あゆむの問いかけに、フェイトは静かにうなずく。
「えぇ、そういう事になるわ。でも、この隠されたモノを探すのは至難の業よ」
「何故だ?」
「アイツらが、彼女からあれだけの事をしても探せなかったシロモノよ。
手がかりが何もないのに、小梨さん、あなたに探せるかしら? 」
彼女が言うように、たしかにそうだよね。
手がかりがあれば、この人がもうとっくに探しているモノは見つかっているはずだしね。
世の中、そんなに甘くは無いって事か……。
「……心当たりなら、一応ある……」
あゆむは、そういうと言葉と表情をにごした。
カレの表情からいくと、今回も きっとロクでもない手段なのだろうな。
――この人の普段が普段だしね。
「明日香を一番よく知る娘。
――つまり、彼女の妹、泉 望愛の元だ……」
あゆむは、渋い顔をして、ぽつり呟いた。
――あの委員長の所にモノがある可能性がある、と。
長くなりそうなので、ココで投稿。
残りは早めに書きます!