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小さな手掛かり

 「ふぅ、アイツも相当追い詰められてるわね……」


 フェイトは、夜の街を逃げ去る北村の背中を前にして、あきれ顔でため息を吐いた。

 

 「フェイト、済まない。 今回は本当に助かった。」

 

 あゆむはイケメンの顔に似合わない申し訳なさそうな顔をして、フェイトにふかぶかと頭をさげる。

 オレを前に抱きしめたまま。

 どうみても、頭を下げる人の態度ではないと思うけど。

 

 「……」


 でも、カレが人に頭を下げるのは、初めて見たかもしれない。

 普段のあゆむは自信まんまんで、天上天下唯我独尊がモットーのような人なのに。

 まあでも、あんな一側触発のヤバい状態を救ってもらったら、一言お礼を言うのは普通なんだけどね。

 ーーその一言を言うのが難しい人もココにいるのだけど。


 「これは、仕方が無いわね」


 フェイトさんはそう言うと、彼のそういうところは良く分かっているのだろう、頭をさげたあゆむを見ながら、小さくほほ笑む。


 「ボスには、今回のことはナイショにしておいてあげる。

 ーー私の方もその方が都合が良いし、何よりこの娘の勇気にめんじてね」


  フェイトは、ゆびを振りながらイタズラっぽくそういうと、「でも」と短く言葉をくぎり、


 「『些細なことでもムキになる』という、アナタのクセを直した方がいいわ。

 今のあなたには、なにより大切なものがあるわよね。 それを失いたくないでしょ?」と、オレとあゆむをみながら、まじめな表情、口調でしめくくった。


 「……わかった。

 今後は、気をつけるようにする」


 バツ悪そうに頬をかく あゆむに、フェイトは表情をかえず、ゆっくりかぶりをふりながら返事を返す。


 「本当にわかっているのかしら?

 ボスはアナタの事に関しては、あのレイプ事件の真相を含め、とっくの昔にほとんど気が付いてるわ」

 

 「!!」


 フェイトの言葉にあゆむの表情が変わった。

 目を見開き、表情をかため、ヤバいというのがありありの表情だった。

 そして、カレの心臓のビートが早くなるのが判った。

 ――あゆむをここまで動揺させる、あのレイプ事件の秘密って一体何だよ……。

 

 銀髪の美女フェイトは、遠い視線で遠くに見えるビルを見つめ、


 「――けど、彼女の目的のため、優秀なアナタが少しくらいめちゃくちゃをしても見てみないふりをしているだけよ。

 だけど、小梨さんの行動が余りに目に余るなら、アナタが幾ら優秀でも周りの手前、彼女も動かないわけには行かなくなるわ」


 あゆむは彼女からの忠告に、まじめな表情で無言のまま、オレを強く抱きしめた。

 自分には、その意味は分からない……。


 でも、あゆむがやっている事は、オレの目から見てもムチャな事をやっていると思う。

 ――天使とはいえ、女性である由紀の部屋に無断で入るわ、空き家のカギをピッキングでカギを開けるわ、極めつけが天使エンジェルであるオレを恋人の様に扱って、一緒に暮らしているんだから。

 公僕である観察者のあゆむが 天使であるオレと深い関係にあるのは、ヤクザと警察の癒着みたいに、どうみてもダークな関係のきわみだと思う。

 

 でも、あゆむは そんな事をしても、そんなマイナスを帳消しにするくらいメリットをもってくる優秀な人材って事か……。

 ーーそれでも、カレ(あゆむ)の不適切にも限度がすぎると、組織の手前、不正を見ないふりには出来ないって感じかな?


 ――もし、上司が、あゆむの不正を見ないふりに出来ないようになると、この人はどうなるんだろ……。

 ーーまさか?


 「……フェイトさん。

 ――さっき、ボスが何とかといっていたけど、一体あれは誰なの?

 それに彼女が動くって……」


 

 イヤな予感にオレは、あゆむに抱きしめられたまま、不安そうに声を震わせながら尋ねた。


 「杏子ちゃん、あなたは何も心配しないで良いわ」


 オレの問いに、フェイトは優しい笑みを浮かべ、優しい口調で口を開いた。


 「ボスとは、自分たち観察部の部長「小泉(こいずみ)」さんのことよ」


 フェイトは何もかくすようすもなく、ボスのことをクールに話すと、さらにオレが気になっていた彼女の立ち位置まで話だした。


 「そして、今、自分は部長付きという立場。 つまり部長(彼女)直属の人間という訳ね」

  

 なるほどね。

 上司の手先として動き回る人間って感じだね。

 些細なことでもボスに報告されたたら、さすがのあゆむや 北村がビビるわけだよ。


 ふと、あゆむの顔をみると、表情をゆがめ苦々しい表情を浮かべていた。

 学級委員みたいなのが近くに居て、色々言ってくれば、そりゃそうなるよね。


 「あの人(ボス)は、アナタたちの件に関しては、今のところは何も言うつもりは無いみたいよ。」

 

 彼女はそう言うと、自分のスマホの画面を見せつけた。

 そこには、オレがあゆむのうでに抱きつき、やさしい笑顔を浮かべ、そして、うでに抱き着かれるあゆむも、見た事も無いような柔和な笑顔を浮かべている画像が写っていた。

 ――数日前、あゆむとお出かけした何気ない日の記録だった。

 

 「この画像を見れば、アナタと小梨さんの関係は、良く分かるわね。

 ――彼女も、幸せな二人を引き裂くほどヤボじゃないって事ね」

 

 「フェイト、お前は一体……」


 あゆむは不機嫌を隠しきれない声色で、フェイトを問い詰める。

 こっそりデートしてるのを尾行されていれば、そりゃそうなるよね。

 いったい何様のつもりだと。


 「誤解しないで、あなたたちを撮っていたわけじゃないわ」


 フェイトはそう言うと、スマホの画面を拡大し、画面のスミに写っていた人物を拡大した。

 其処には、黒っぽいフード付きパーカーを着た人物が写っていた。

 それは、腐ったような、死んだような目をした男だった。

 その男は北村だ。さっきみたから間違いない。


 「北村を追っていたら、たまたまアナタ達も写ってしまった感じよ」

 「……」


 フェイトは、そう言うと、いたずらっぽくウインクする

 これは確信犯だ。

 ボスに、オレとあゆむの仲が良い所を教える為にワザと撮ったんだろう。

 まあ、そのおかげで自分とあゆむの関係は見逃がしてもらえるみたいだから、結果としては良かった感じかな?

 

 「フェイト、北村が自分たちをずっと探っていたのか?」


 だが、あゆむの方はもう一つの事実に気が付いたようだ。 

 ――あの北村が、あゆむとオレをずっと尾行して、見張っていたという事実に。

 意外な事実にあゆむは声をあらげていた。


 「そうよ、どういう理由かわからないけど、この数日はずっとアナタ(小梨)を見張っていたわ」


 フェイトはそう言うと、目を細め、「けど」と言葉をくぎり、

 「アイツも見張っている自分が、逆に見張られているとは思いもしなかったようね。 おかげで、アイツの本性がわかったわ。」

 と冷たい笑みを浮かべ締めくくった。

 なるほどね、尾行している時には、自分自身が監視されているなんて考えもしないよな。

 意識をターゲットに集中して、周りを警戒するする余裕すらなさそうだし。

 そこまで考えて、北村を追っていたとしたら、フェイトさんはそこが知れないな。

 ――それにしても、このフェイトさんって人は、只者ではない気がする。

 ――こんなに綺麗なのに、どこか冷たく、そして恐ろしい何かを感じるのは何故だろう……。


 「フェイトさん、貴方は一体……」


 「フフッ……私はただのボスのイヌよ。

 でも、安心しなさい、わたしはアナタの味方だから」


 オレの言葉にフェイトはイタズラっぽくそう答えると、再び笑みを浮かべた。

 そんな彼女の表情は、オレの目にとても美しく見えた。

 でも、この人は、自分はイヌといったけど、さっきはネコのように鳴いたのだけど……。 

 ネコのように気まぐれな人なのかもしれないのは、確かだよな。


 「きっとアイツは、こっそり隠れて小梨さんの事を探るつもりだったけど、あなたと小梨さんの二人でいちゃつく姿を見せつけれ、半ば考えもせずに姿を現したのかもしれないわね」

 

 北村の意外な行動に少し首をかしげながら、説明するフェイト。


 なるほどね。

 考える前に、本能的に体が動くって感じかな?

 アイツは、姿を見せるのがヤバいと理性で分かっていても、オレとあゆむの余りのアツアツの関係を見せつけられて、感情が許さなかったのかもしれないな……。

 理性より感情がさきばしるあたり、あゆむがいうように北村には女っぽい所もあったんだな……。

 そんなことを思ってると、フェイトは冷たい表情で言葉をつづける。


 「きっと、アイツにとっては誰かの「暖かい愛情」を見せつけられることが、

 何よりのアイツの心にひびく、するどい刃になっているのね。 まるでおろし金で心をすりおろす様に耐えがたい痛みなのよ……」、


 フェイトはそう言うと、目をほそめ、

 「その気持ちは、自分でも痛いほど分かる。 

 ――分かりたくない感覚、だけど、忘れてはいけない感覚よ」


 悲しい表情を浮かべ、胸をおさえるフェイトの言葉に、あゆむは何か思う事があるのか表情をとめる。


 「……ああ、そうだな……。 それがいい」


 真面目な表情で短く言い切ったあゆむ。

 オレには、あゆむの言葉の意味は分からない。

 けど、フェイトさんの過去に かかわる事だというのだけは分かった。

 

 「……そうするわ。 それが私の背負う重い罪だから」


 フェイトはあゆむにそう言うと、本題をつづけた。


 「ずっと部屋に籠っていた北村が、今、アナタをさぐるために動きだした理由はなんとなく分かるわ。

 今、小梨さんが探っている病院の件が、アイツのアキレス腱になっている。 

 つまり、アイツとハエを繋ぐ確実な証拠よ」


 「なるほど。

 ――アイツは、この私の弱点を探り、そこを突いて再起不能にし、ハエの一件から手を引かせるつもりだな。

 この程度で私を引かせる事ができるとは、甘く見られたものだな」


 あゆむはそう言うと、グニャリと凶悪な表情になる。

 このあゆむを再起不能に陥れようとするとするとは、アイツもなんとも命知らずなヤツだよなぁ。

 でも、それだけ北村も追い詰められているって事なんだろうけどね。


 「あなたに頼まれた件、調べ終わったわ。

 正確には、アイツが調べた物だけど」、フェイトはそう言うと、スマホの画面をスワイプする。


「明日香さんが調べていたのは、カスパール病院のゴミの廃棄記録だったわ。

 其れをアイツ(北村)が病院のネットワークに侵入し、彼女(明日香)が何にアクセスしていたのか調べてくれていたという訳ね。」


 そこには、文字がならぶPCの画面が写っていた。

あまりにながくなるので、ここで投稿します。

残りは早めに投稿っ!

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