先の恐怖より、目の前の……
「杏ちゃん、そろそろ出来た?」
教室に戻ってきたノアはすたすた此方に向かってくると、オレの顔を見て眼鏡を光らせた。
「その顔色、まだ一問も出来ていないわね、
……今日の課題は難しかったから、全く出来なくても仕方ないわよ」
どうやら、彼女は数学の問題が難しすぎてオレが青ざめていると思っているようだった。
たしかに難しい問題だけど、真相はそうじゃない。 けれど彼女に本当の事は言える筈もない。
――自分が天使だと言う事は……。
「ううん……、何とか終わったよ」
自分は青ざめる顔で、作り笑いをして嘘をついた。
「ねっ、出来てるでしょ?」
そうしてノートを摘み上げて答えを彼女に見せると、ノアは眼鏡をくいっと上げ中身を確認し始めた。
――その瞬間、彼女の表情がこわばる。
「杏ちゃん……ズルはダメよ!?」
「ごめんなさい……」
はい、当然の事ながらバレました。
計算途中の式が無いから一目瞭然らしい、彼女に向かい思わずぺこりと頭をさげた。
名探偵の前には当然隠し事は無理みたいだった。
「誰かにやってもらったみたいだけど、自分で解かないと何時まで経っても出来ないわよ?」
ノアはそう言うと眼鏡をキラリと光らせる。
彼女からはまるで三角メガネをかけ、鞭を持った鬼教師の様な雰囲気が漂ってくる。
その雰囲気はまるで不動明王、周りにゴゴゴと言う擬音と燃え盛る配光が見える気がした。
――これは、まさに勉強の鬼である。
その様子に自分のさっきまでの恐怖は何処へやら。
何時来るか判らないハンター達の自然災害のような恐怖より、目の前に迫る不動明王ノアの危機の方が当然の怖いのである。
自分は体を小さく丸め更にノアに向かい頭を深々とさげていた。
「ごめんなさい!!
確かにそうだよね……――今度から自分で頑張って解きます……」
オレが涙目でシュンとなり そう言うとやっと彼女は溜飲を下げたのか、口角を緩め眼鏡の奥に優しい視線を浮かべる。
「じゃ 残りの問題は解き方を私が教えないから、貴女が家に帰ってからちゃんと考えて解いてね」
彼女はそう言うと教科書を一枚捲ると、其処には今日の宿題の残り半分が現れる。
――彼女に解いてもらったのは半分だけだったんだ……。
「裏にも問題があったんだね……」
「貴女は何時も詰めが甘いわよ。
まあ、それが杏ちゃんらしいんだけど」
「しゅん……」
ノアはオレの甘さをクスクス笑う傍で、自分はがっくり頭を垂れながら呟いていた。
後半が余りに長くなるので此処で一旦投稿します。
早目に残りを投稿します、こうご期待。