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ひとかけらの勇気

 「兄妹の真の地獄は、ソレからだったんですわ」


 北村はオレとあゆむを前にして、手をかるくひらき、やれやれと言うようなポーズで、兄妹二人の結末を語りだす。

 ――だけど、それは、二人にとって あまりにもあまりにも非道な事実だった。


 「あの不良娘は、明日香とノアの二人にさらなる絶望を突き付けて来たんでっせ」


 「絶望?」


 「――あの あばずれ、スマホで二人の絡み合う姿の動画を明日香が妹とヤッてる姿を、部屋の隅に仕込んであったあったスマホを使ってコッソリ撮影していたたんですわ」

 「……」

 「明日香の目の前で、その動画をスマホで再生し、『コレがお前らが、私の目の前でしている行為だよ』と言って見せつけたそうでっせ。

――もちろん、その時の二人は、そんな事は知らないでしょうからねぇ。

 妹が兄の体に手を回しお互いが抱き合っている、初めて見る生々しい映像にショックを受けていたようですよ」


 「……」


 なんて酷いことをする女なんだ。いくらなんでも、やり過ぎだろ。

 しかも、それをわざわざ二人に見せるとか悪趣味にもほどがあるよなぁ……。

 オレは思わず眉間にシワを寄せてしまった。


 ――まるで、オレの気持ちを見透かすように北村はニヤリと笑うと、話を続ける。


 「まあ、動画を見せたのは、二人を脅して兄妹二人を完全に支配するため材料としてなんでしょうなぁ。

 動画をとるって、古典的だけど、効果はバツグンでっからね」


 たしかにそんな恥ずかしい画像をとられたら、相手に逆らう事なんて考えないだろうしな。

 コイツが言うように、古典的だけど、効果的なおどしの手段だよな……。

 そんな事を考えていると、北村はつづけた。


 「あの女、欲しい物が自分の手に入らないなら、いっそ徹底的に壊してしまえ。 彼女は、そういう考えだったんじゃないですか?

 そして、そのあと彼女はこう言ったそうですわ。

――『二人とも、コレからズット兄妹モノの出演宜しくね。』 と」


 それは、解放されると思って居た二人が、不良娘の真のワナにはめられ、更に深い絶望へと落とされた瞬間だったのだろう。

 もし、彼女が最初からソコを狙っていたとしたら、本当に恐ろしい奴だと思う。

 兄妹は、ノアがファミレスでドラックを盛られた時点から完全に彼女の手の平の上で踊っていたという事になるからな……。


 もはやこうなっては、二人には、もうどうする事も出来なかったのだろう。

 ――あの女を亡き者にすると言う、最後の手段を取る以外には。

 

 ――あゆむは、その手段が判っているようで、うつむいたまま、何も言わず、ただ唇を噛み締めているだけだった。

 まるで何かに耐えるように。


 「あゆむ。無理をしないで」


 オレは、カレの背中から優しく腕を抱きしめると、その震えるウデをゆっくりと撫ぜてあげた。

 北村の話を最後まで聞くまでは、何があっても絶対にコイツを一人にさせてはいけないと思った。

 ――そして、其れが、あゆむにとって一番キツイ事だと分かっていても。


 「まあ、その続きなんやけど」


 だが、北村は、オレ達の様子を見つめながら、まるで楽しむかのように言葉を続けた。

 ――まるで、これから起こる出来事を予想しながら楽しんでいるような表情を浮かべながら。

 ――それが、どんな悲劇になるのか判っているようだった。


 明日香も、「もう自分たちが自由になるには、この女を殺すしかない」、と考えたんでしょうなぁ。

 赤いシミの残るベットの上で眠っている妹にそっと純白のタオルケットをかけると、不良娘の手を引いて部屋から出、となりの部屋で彼女のクビをしめて殺し、真相を隠すために犯したように見せかけたんでしょうね。

 あの女を殺した後、服を引き裂き、ヴァギナに明日香のアレを入れてしまえば、レイプされた死体の完成ですわ」


 北村はそう言うと、北村はそう言うと、フッと鼻で笑った。

 ――確かに、その方法なら、警察を騙す事が出来るだろう。

 ただ一つだけ問題があるとすれば、明日香が殺人を犯したという事実だけだ。

 だが、それもカレが罪を全て被る事で解決できる問題だから、カレにとっては大した問題では無いんだろう。

 あの人は、妹さえ助かれば、妹さえ救えるならば、それで良いと思っていたのだろうしね。

 明日香って人は、自己犠牲の固まりのような、キリストのような人だったんだな……。


 「殺すのでも、ただ殺したのでは、動機から真実がバレてしまいまっからね。

 明日香って娘は、男の時は両親を事故で亡くして以来、妹のために必死ではたらいていた品行方正で誠実な人間だったそうですわ。 近所や職場の同僚も口をそろえて抜かしてましたさかいね」、

 北村はいまいましそうにそう言うと、

 「そんな犯罪をおかしそうにない人間ですら、露出の多い妹の友人にムラムラときて、ゆきずりでレイプ殺人をしたのなら、動機にはなりまっから。

 ――男は愛してない女でも平気で抱ける生き物でっからね」


 と、カレは確信を込めて言い切った。


 確かに、コイツの言う通りかもしれない。

 自分も思わず、あの娘(亜由美)にムラムラときて、ゆきずりでレイプしてしまった訳だしね。

 体は正直なのだ……。


 「…………」


 「後は、残ってる資料のとおりですよ。

 それが、あの事件の真相みたいでんなぁ、なけてきまっせ。

 愛する妹だけは助ける為、殺人を犯した。 コレは法律では罪でしょうけど、法を無視した仁義と言う意味では無罪っしょ?

 妹を助けると言う正当防衛の自助みたいなもんでっからね」


 ――オレは、何も言えなくなっていた。

 愛する妹だけは助ける為、殺人を犯した事は、法では罪になるけど、これ以外の方法で妹を助ける方法は有っただろうか?

 自分には思いつかない。 自分もきっと同じ事をしただろうから。

 ――だから、自分は明日香の事を罪人とは思えなくなっていた。


 「その後も兄は天使にされ、女の体にされても尚、ただひたすら妹の幸せを願って、本番以外なら何でもヤって文字通り体を張って稼ぎ、必死で生きてたんでっけどねぇ。」

 北村は、「でも」、と、短く言葉を区切り、


 「小梨さんが、面白半分で このハエの件にクビを突っ込んだおかげで、明日香はヤバい仕事に巻き込まれ、そのツボミと命を散らす事になったんですわ。

 ――天使にされた後も、二人のそれなりに幸せだった生活を無茶苦茶にしてね」


 北村は、細い目を少し見開き、あゆむに刺すような視線をむけると、冷酷な表情のまま、冷徹な言葉を投げかけていった。


 「それなのに、アナタは、こんなに可愛い娘を捕まえて、毎日のように イチャツクくんだからほんに良い身分でんなぁ。

 明日香の残された妹は、今じゃすっかり地味な格好をして、ひっそり生きていると言うのにね」

 

 残酷な事実をつきつけられ、あゆむの顔色はもはや蒼白を通り越している。

 もはや死人のようだった。。


 「あゆむ!?」

 「……」


 オレの言葉はカレの耳に届いていない。

 あゆむは崩れ込むように座り込むと、ぼう然とした表情を浮かべ無言のまま、じっとオレをみつめた。

 

 「――泣けばスッキリするよ」


 オレはそう言うと、あゆむに近寄り、カレの頭をもって胸の辺りに抱きしめた。

 天使である自分は、そんな立場じゃ無いのは判っている。

 ただ処刑される日を待つ罪人なんだから。


 でも、どうしてもカレの力になりたかった。

 そして、これが自分にできるタダ一つの事だから。


 「……」


 涙をうかべるあゆむを抱きしめると、彼の温かさと、ふるえと、そして濡れる感覚がオレの胸の辺りに伝わってくるのが判った。

 きっと、コレは彼の今までため込んでいた心の痛みなんだ……。

 そう思うと、自分の中に、あゆむの心の痛みが流れ込んで来るのがわかった。

 

 「あゆむを抱きしめるのが……、こんな自分でごめんね……」


 オレは気が付けばあゆむに謝罪の言葉をこぼしていた。

 それは、オレの本心だった。

 

 本当なら、このポジションで彼を慰めてたのは、あゆむの元々の彼女だった木戸亜由美だった筈。 なのに、オレがその場所を奪ってしまった。

 これはどう言いつくろっても消せない事実だ、なのに、オレはこの場所にいる。

 ――きっと彼女なら、もっと上手にあゆむを慰めれただろうから……。

 

 「明日香すまない……」


 あゆむは、オレの胸の中で独白のように、彼女に向かって謝罪の言葉をこぼしていた。

 ――何度も、何度も……。


 「きっとあの人も、あゆむをうらんだりしてないよ」


 オレは、胸の中にいるあゆむをじっと見つめながら、言葉を続けた。

 

 「もし、自分が明日香さんと同じ立場になっても、あゆむを恨んだりはしないよ」


 「……」


 「あゆむはベストをつくしたんでしょ? それで失敗したのなら、しかたが無い事だよ。 

 ――誰でも失敗はするものだから」


 本心だった。

 どんな人間でも、どんなにがんばっても、しっぱいをする事はあるからね。

 それで失敗したなら仕方ないことだよ……。


 「…………」


 あゆむはオレの言葉を聞くと、顔を上げる事も無く、崩れ込むようにへたり込んでしまった。


 「鬼の小梨がこのザマですか。 もしかしたら、アンタは……」


 その様子を、北村はウデを組み、あきれるように見据えた。


 「そんな言い方は無いんじゃない?」

 

 オレは、そう言うと勇気をふりしぼり、北村の前に立ちふさがった。

 

 「あゆむはそんな人じゃないよ」

 「なんやて?」

 「カレは、面白半分なんかでは仕事をしてない、何時もマジメに仕事をしてる人だから。

 それに、――だれだって、失敗するものでしょ?

 そっちは、一度もミスした事ないの? したことあるでしょ?」


 「……」


 オレの矢継ぎ早の言葉に、北村は表情を止めた。

 

 「失敗した後、どうフォローするかじゃないの?」


 失敗はするもの。

 その後の対応が重要なのだからね。

残りも早めに書きます~。

こうご期待。


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