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オレに出来る事は……

 「あの男は、ワザとレイプ殺人を犯し、天使にされたんですわ。

 ――愛する妹を助ける為にね」

 「なんだと!?」

 

 北村がたんたんと語った衝撃的な事実に、あゆむが動揺してるのは明らかだった。

 カレの顔色がみるみると変わり、体がふるえが大きくなったのがわかる。 まるで、この世の終わりの様な表情を浮かべ、顔面蒼白になっていた。

 目の前の男から告げられた残酷すぎる真実。

 ――明日香は、愛する妹を助ける為に、ワザと罪を(レイプ殺人)犯していたと言う事実に。

 それは、オレが初めてみるあゆむの表情だった。

 フェイトに詰め寄られた時よりヒドイ表情だ。


 「小梨さんは、あの娘をサンザン使っておいて、そんな事もしらなかったんでんか?」

 「……ああ……。 今初めて聞いた」


 言葉少なく、ぽつりと返事を返すあゆむ。

 北村は、そんなカレ(あゆむ)をあざ笑うかのように、イヤらしく口元を歪めながら続けた。


 「――まあ、アンタには、あの娘の過去なぞ どうでもエエ事でしょうけどね。

 どうせ天使はゴミクズ(犯罪者)で作られた、生きようが死のうが関係ない、タダの捜査の道具としてしか見てなかったんでしょ?」


 「……」


 あゆむは、頭をたれ、目を閉じて、完全に沈黙し立ち尽くしてしまった。

 もはや、何も言い返せない。

 それは、彼がかつて思って居た事を、あゆむ自身が認めたのだろう。


 「でしょうねぇ。

 あなたは酒の席で、『犯罪者はゴミだ。ゴミに生きる価値は無い。

 ――レイプ犯である天使は、猶更だ。 いつかアイツをこの手でズタボロにして殺してやる』、と言ってましたからねぇ」


 北村はそういうと、あゆむは「……ああ、そう言った。 確かに言ってしまった事も有る、否定はしない」と青ざめながら、言葉少なく肯定する。

 その表情を見た北村は、ニヤリとする。

 そして、あゆむの心の傷にハバネロを塗り込むように、楽しそうに言葉を更に続けた。


 「まぁ、ゴミのような天使にも、ゴミなりに大切な家族とか居るんですけどねぇ」

 「……」

 「――まあ、アンタの事はさておき、あの娘(明日香)の事を思うと涙が出てきますわ」


 そう言うと、北村はわざとらしく目頭を押さえ、ゆっくりかぶりを振りながら言葉を続けた。

 

 「あの娘は、妹が不良娘に騙され、ドラックを盛られて、恥ずかしい写真をさんざん撮られた妹を助ける為に、あの男は犯罪に手を染めた。

 ――染めてしまう事になってしまったんですわ」


 「それは、……どういう事だ?」


 あゆむは体を震わせながら、声もとぎれとぎれに尋ねる。

 彼の足元には、小さな水の跡が1つ出来ていた。

 だが、北村はそんな事もきにする様子もなく、たんたんと言葉を続けて行く。

 

 「明日香の妹は、ファミレスでドラックを盛られキマってるうちに、不良に恥ずかしい写真をさんざん撮られると言う弱みを握られ、彼女に脅されて売春(ウリ)を強制させられそうになったんですよ」


 「……売春(ウリ)か……」


 「そう、タダの売春(ウリ)()()()なんやけどね」

 北村は笑顔まじりに、軽い調子でそう答えると、

 「けど、あの娘(明日香)はそんな立場になった妹を助ける為に、その不良娘を犯して、殺したそうですわ」


 「いくら妹が、売春(ウリ)をさせられそうになったとは言え、

 ……不良相手にレイプ殺人までする必要は無かっただろう?」


 あゆむは、明日香の知らない一面を聞いて、ぽつり聞き返していた。

 ――天使にされたと言う時点で、明日香がレイプ殺人なんかのエグイ罪を犯して居るのは当然なんだけどね。 それでも、あゆむには、あの(あすか)が妹を助ける為に、その不良娘を犯して、殺したのまでは予想外だったのかもしれない。

 普通、そんなことをしてるなんて想像もしないよな。


 「いあいや……あの明日香、男だった時、妹の為なら何でもすると豪語していたのをご存知でっか?

 まあ――あんなコトをされたら、ダレでも殺したくなりまっけどね」


 「北村。それは……どう言う事だ?」


 あゆむは、体をふるわせながら、絞り出すように声をだした。

 北村は、そんなあゆむの様子を上からしたまで舐めるように視線を移し、観察し、ウイークポイントを探すかのように、淡々と言葉を続けた。

 

 「最初不良女(あばずれ)が、明日香にいったのは、

 『私を今すぐ抱きなさい。

 ――大事な妹の目の前でね。 そうすれば妹の恥ずかしいアノ画像を返してあげるわよ。』、と言う

 兄の明日香が、あばずれを抱けば返してあげると、言う物だったようですよ」


 「――なぜ、そんな事を?」


 オレは呟くように尋ねた。

 あの不良女は(ノア)の前で、自分を抱かせるなんてビッチの痴女かよ……。

 そもそも一人っ子だった自分には、マッタク理解できない感覚だよな。


 だけど、あゆむにはその理由がわかるようだった。


 「あの不良娘は、恋人のような兄妹だった妹に自分たちが抱き合う姿を見せつけて、兄が彼女のモノになったと(ノア)に心の底から判らせるため。

 ――だな……」


 オレの呟くような問いに、あゆむが声をふるわせながら答える。


 「……」


  ――相手からむりやりうばい取ったモノに、そいつの目の前でツバをつけて自分のモノに無理やりさせる。 イメージで言うとそんな感じかな……。

 何というレディースコミックに出そうなドロドロした思考だよ。 自分には理解できないな。

 ――しかし、あゆむはそんな事まで判るとは、流石と言うべきか、よく女の心理を勉強してるよ……。

 

 「小梨さんは、女の心理を良くわかっていらっしゃる。 

 ――まったくその通りですわ。

 あのアバズレは、手段を択ばずノアの兄を手に入れる為にやったんでしょうなぁ、ほんま女は怖い」


 北村は、クスクス笑いながら、話をつづける。

 

 「まあ、最初兄貴は、不良娘の言われるがまま、彼女を抱こうとしたんですわ」

 「けど、」北村は短く言葉を区切り、

 「明日香がアバズレにキスをした瞬間、妹の目に大粒の涙が流れるのに気が付いて、彼は思わず、「ふざけるな!」と、不良娘に手をあげてしまったそうですわ、ノアも一緒にね。」


 何となくわかるかもしれない、

 頭で考える前に、体が勝手に動く。

 そんな感じかもしれないな。 

 でも、どんな理由であれ、相手に手を上げるのは最悪手なんだけどね。 

 いくら相手があくどくても、暴力をふるった時点で、コッチが加害者になるから。


 そんな事をおもってると、北村は更につづきをしゃべりだした。


 「何せ、明日香が男だった時は、逆ナンパの絶えないイケメンだったそうですし、

 恋人のように手をつなぎ、二人で行動してた兄妹を見ていたら、兄が別の女にとられたのをみて、あの娘(ノア)が涙を流し、不良娘に手を上げたのも判らないでもないでっけどな、自分でもそうしたかもしれまへん」


 「………」


「まあ、話は戻りまっけけどね。 

 明日香は……その言葉通り、不良娘に手を上げてまで妹を助けようとしたんですわ」


 あゆむは、明日香の話を聞いて、言葉を失って居た。

 まさか、其処までだとは思って居なかったようで、鼓動が早くなるのがわかった。

 北村は、そんなあゆむのあせる様子をみて勝利を確信したようだ。

 細い目をゆがませ、余裕のある笑みを浮かべている。


 「まあ、その時は不良娘は「覚えてらっしゃい」と、言って逃げたんですけどねぇ。

 この話には、まだ続きが有るんですわ」


 北村は邪悪に表情をゆがめ、更に続ける。


 「まあ、後日、不良から妹と一緒にホテルに呼び出された明日香が、

 『そこまで妹が大事なら、私の目の前で、大事な妹を抱いたらどう?

 そうしたら、 二人が私に手を挙げた件は水に流してあげる。 

 ――妹を残して、ブタ箱には行きたくないんでしょ?

 それにあの妹の恥ずかしい画像データーは全部消してあげるわよ。』、と言われたそうなんですよ。

 ヒドイ女も居たもんですわ、兄貴は最初『そんな事できる訳ないだろ!?』と断固断ったらしいですがね」


 あゆむはまさかといえるような不良の卑劣な手段に、愕然としているのだろう。 

 表情を失い、石像のように完全に固まっていた。

 あの不良娘は、自分のモノにならないなら、汚して、踏みにじって、ボロボロにしてしまえ。

 今まで流れから行くと、彼女はそう考えたんだろうな……。 

 ホント、良い性格をしてる娘だよ。


 「ヒドイ女も居たもんですわ、自分が叩かれた件を使って脅しをかけるなんてね」


 北村は、ニヤリと笑いながら続ける。

 まるで、あゆむの心を完全に折ろうとするように。


 「まあ、妹も妹で、けなげにも、

 『おにいちゃんが、捕まるくらいなら、データーが戻って来なくていい。 

 ――それに、私、おにいちゃんの事嫌いじゃないから、自分を抱いても良いよ。 

 だから、アナタは、おにいちゃんを訴えないで下さい。 お願いします。

 この世界でたった二人きりの兄弟なんだから』、

 そう言ってあの妹は必死で兄が捕まらないように、かばおうとしたそうですよ」


 「……」


 「でも結局は、兄は泣きながらも不良の言いなりになり、

 「ごめんな、ごめんな」と涙を流しつつ、不良娘の言うがままに、何度も妹を抱いたらしいですなあ。

 妹の方も健気にも『本当に痛いのは、おにいちゃんの心だから。 だから私は痛くないよ、 我慢できるから大丈夫』と言ったとかなんとか。

 ――ほんま、なんとも美しい限りの、文字通りの()()()ですよなぁ」


 北村は、口角を緩めながら、楽しそうに語る。

 兄が愛する妹を、自分の手で汚し、その仲を引き裂く非道な場面にも関わらず。

 ―― 一体コイツの目的って、一体何なんだよ……。


 「……」


あゆむはもうそれどころでは無いのかもしれない、何も言わずただ墓石のように 北村の話をただ黙って聞いていた。

 だが、彼の顔色は真っ青になっている。

 自分の相棒だった兄の真実を聞いて、まるで、この世の全ての絶望を味あわされたかのような表情だった。

 愛する者を、自分の手で汚すと言う絶望、これ以上の絶望はそうないだろうしね。


 だが、あゆむは、何も言わなかった。

 ただ、唇を噛み締めているだけだった。

 おそらく、これ以上、明日香の話を聞きたくないと思っているのかもしれない。


 「ムカつくほどの兄妹愛なんやけど。

 その話には、まあ、続きがあってな――」


 それでも、北村はあゆむの表情を確かめると、小さく笑顔を浮かべ、彼の心をえぐるように楽しそうに、話を続けていた。


 ――オレはやっと理解した。

 こいつの目的、それはあゆむの心を叩き折る事だろう。

 明日香が天使にされた件を徹底的に調べ上げ、カレ(あゆむ)彼女(明日香)の家族の真実を伝える事で、明日香にはそこまでして護りたい 大切な肉親がいた事を分からせる事だろう。

 今まで何処かに籠っていたのも、彼女の事を徹底的に調べるため。


 ――そして、其れを布石としてあゆむに罪の意識を持たせて、最後にカレの手痛い失態を持ち出し、トドメを刺すとつもりなんだ。


 「あゆむ。 もう、いこうよ」


 ここからカレを離さなないと確実にヤバい。

 きっと、次に北村から来るのはとどめを刺すような事を言うんだろうからね。

 オレはそう思い、背後からカレのスーツのソデをひこうとするが……。


 「きょうこ。私は……逃げる訳にはいかない」

 「どうして?」

 「私には、監視者として自分が起こした事態の全てを聞く義務があるからな……」

 

 だが、あゆむは消え入りそうな声をそう言うと、グッと体をこわばらせた。

 自分の犯した失態とちゃんと向き合い、その起こした結果を自分自身で、受け入れる覚悟なんだろう。

 彼のひと昔前のサムライのような彼の態度は男らしいけど、なにか違和感を感じてしまう……。

 やせ我慢をして、無理やりやってる感じがした。 

 ――今の時代、男でもヤバくて逃げたいときは、脱兎のごとく逃げるものなんだけどね。 オレも昔は、色んな悪事をしても責任とらずにサンザン逃げ回ってたから間違いない。

 

 北村はまるで、彼にトドメを刺すかのように、残酷すぎる結末を語りだした。

余りに長いので、ここで投稿です。

残りは早めに出します。

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