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大切な事は……

 店の外にでると、外は既に夕方になっていた。

 人通りの少ないアーケードには、秋を感じさせる少しだけ冷たい風が吹き、オレのセミロングの髪を揺らしている。

 

 「なんだ、そんなところに居たのか」


 次の瞬間、よく聞いた声がオレの耳に届いた。

 

 「あゆむ?」


 オレが声の方を向くと、そこに居たのはよく知ったスーツ姿の茶髪のイケメン。

 あゆむだった。


 「お前が無事だったから良いものの、こんな危ない場所に一人で居るとは、危機感がまるでない」


 あゆむはオレが見つかったことに胸をなでおしたのか、こわばらせていた表情をゆるめながら、母親が駄々をこねた子供に抱くような、ほんの少しの怒気を込めながらオレに駆け寄りながら、言葉を継いでゆく。


 「危機意識がまったくなく、自分の立場が判らない貴様には、どうやら おしおきが必要なようだな。

 ――今日は覚悟しておけ」


 あゆむは、悪役令嬢の様にむちゃくちゃな理論を通し、理不尽にもそう言い終わると、ニヤリといじわるそうに口角を歪める。

 もう安心だから、出歩いてもダイジョブと言ったのは目の前に居る本人なんだけど……。

 それが、言った本人の言ったとおりにして、その後、危機意識が無いから お仕置きをされるって、横暴極まれりだと思う。

 確実に独裁者の横暴だ。


 「……ひどい……」


 「貴様は、私のお仕置きが好きなのは判っているからな。

 今日は、どんなおしおきをしてやろうか?」


 顔をしかめ、ぽつり呟くオレを前にして、あゆむはオレの反論をものともせず、口角をゆがめながらそう言うと視線を上にずらした。


 ――でも、彼がおしおきと言うけど、本当は、あゆむがオレをかわいがるための口実なのは判ってる。

 この前オレは、おしおきと言って、透明感溢れる純白のAラインドレスに着替えさせられ、その後、夜の豪勢なパーティーに連れて行かれたしね。

 イケメンにエスコートされて、きれいに着飾って上流階級のパーティーに参加する。 

 こんな状況は、レディースコミックなら、これは絶対にご褒美モノだろう。

 

 もっとも、元男の天使にとっては、綺麗なドレスに着替えさせられた挙句、パーティに引き出されさらし者にされると言う恥ずかしいシュチュエイションになって、お仕置になるかもだけど……。

 オレの場合は、既に何度もそんなパーティーに連れて行かれ、そんな場所にもなれてしまった自分にとっては、美味しい物が食べれるご褒美になっても おしおきにはならないのだ。

 

 「……あゆむ ご主人様。

 わがままなボクに、いっぱいおしおきしてくださいね」

 

 オレは、あゆむの顔を見つめながら笑顔でそう言うと、自分もカレのそばに一歩ちかより、あゆむの左側と言う何時ものポジションにドッキング。

 

 「……」


 そして、あぜんとするあゆむをよそに、いつもの様にカレの左腕にギュっ、と抱きしめた。

 ――何時もと変わらない、頼りがいのある筋肉の腕の感触がオレに伝わってくる。

 

 「きょうこ。 お前がそんな事を言うとは一体なんの真似だ?」

 

 「……いつも大変なあゆむを、タマには、ボクが慰め……」


 オレが恥ずかしそうにそう言うと、あゆむは真顔で「阿呆」の一言で一刀両断に切り捨てにし、オレの口に何かを突っ込んで言葉を封じてきた。


 「……むぐむぐ……」


 カカオの豊かな香りと、甘さが口のなか広がってゆく。

 

 あ、この香りとほろ苦い甘さ、これはチョコだ。

 しかも、オレが食べるにはちょっとだけビタータイプ。

 あゆむが非常食に何時も持ち歩いているモノだった。


 「私が、貴様に「慰める」とか言われるには百年早い」


 あゆむはオレにそう言われたのが嬉しいのか、フッ、と鼻で笑いながら表情を緩めそう言うと、「だが」、とみじがく言葉をくぎり、


 「お前の、その気持ちだけは、ありがたくうけとっておこう。

 それより、貴様の方こそ無理をするな。」、と、オレに気遣いをしながらも、上から目線でしめくくりやがった。


 「……」


 こうも上から目線で言われると、次の言葉が出なくなって来るというモノ。

 オレは顔をしかめながら、あゆむに言う文句の一つでも考えていると、自分の背中に温かく大きい物があてがわれるのが分かった。


 「――お前が、無理をして震えて居るのが判らないと思ったか? 

 きょうこは、無理をする必要はない、今のままで十分だ。」


 気が付けば、あゆむはオレの背中をやさしくなでていた。

 いつの間にか、自分でも気が付かないうちに起きていた震えは止まっていた。


 「――ありがとう、あゆむ」


 オレは、そう言うとあゆむの胸の辺りに額を押し付けていた。

 カレの心臓のビートが聞こえ、オレの背中をさすっている おおきなぬくもりに心底癒されているのがわかった。

 ――気が付けば、あゆむを慰めるつもりが、いつの間にか自分の方こそ、慰められていた。

 天使であるオレは、恋人のように慰めてもらえるような立場じゃないのに。

 だけど、この瞬間だけは、こうやって二人で恋人のように居られる事が何より大切なんだろう……。

 

 「しかし、よいみぶんですなぁ」


 甘い空気を書け消すように、いやらしい声が響いた。

 一度聴いたら、耳にこびりついて消えないようないやらしい声だった。


 「……北村か……」


 あゆむは、不機嫌をあらわにしながら声の主に返事を返すした。

 そこにいたのは、ジーンズを穿いた普段着姿の北村だった。

残りは早めにだします!


こうご期待っ

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