あゆむの秘密 明日香との……
「――きっと、アレはイレギュラーな投稿だよ」
「イレギュラー?」
制服姿の由紀は、首をかしげながらも、自分の考えをポツリとこぼした。
――流石に、蝿の動画のヘビーユーザーである由紀でも、あの時のアイツの正確な動画の意図が判らないようだ。
まあ、普段の投稿とまったく毛色が違う動画だったらしいから、流石に彼女が判らなくても仕方が無い事だけどね。
意味不明な投稿の内容が分かったら、むしろおかしいだろうしね。
意図が正確に分かったらむしろ、サイコと同類と言う事でヤバいかも知れない。
――もっとも、こいつの性格が やばそうなのは今更だけどね。
そんな事を思ってると、由紀は「うん、あの時は定時の投稿じゃなかったからね。 投稿間隔も何時ものパターンと全く違うし……」
、と言葉を区切り、首をかしげながらも更につづけた。
「明日香さんの投稿は、前の投稿の数日後だよ。 それに何時もは参加しない蠅も、今回は自分も責めに参加してたから、みんなも少し不信がってたんだ」
「そうだったんだ……」
由紀から聞く新情報。
ふだんはハエは動かない、と。
「普段のあの人は、自分が捕まるリスクを避けるため、何時もは自分の手を汚してまで天使を責める事はしないんだ。
――だから、何時も自分は撮影周りなんかのサポートにまわり、つねに誰かに天使を犯させてる」
「考えたら、ゆうなの時もそうだったよね」
思い返せば、ゆうなの時もアイツは自分ではレイプに参加せずに、人質であるユイにナイフを突きつけているだけだったよな。
あの時犯していたのは、肩にハエの刺青を入れた がたいの良い男だった。
――自分で楽しまないのは、そういう理由だったんだな。 考えれば、自分の体液とかの証拠が残れば其処から足がつく可能性があるしな……。 自分の場合も、彼女のショーツについた其れが動かぬ証拠になって問答無用で捕まった訳だしね。
其処まで用心深ければ、あの優秀な あゆむでもアイツの足取りを捕まえるのに苦労するはずだよ。
そんな事を考えていると、由紀はさらに続けた。
「アレが、あの人の何時もの感じなんだよね。 ヤるのは何時も自分以外。
――でも、彼女(明日香)の場合はまったく違ってたからね」
「どう違ったの?」
「あの時は、自分らが「バール」と呼んでる肩にハエの刺青の男と、今は参加してない「バズズ」と呼んでいた肩にサルの刺青をした蝿の側近のような男二人に前後から明日香さんを責めさせ、更には蠅本人も加わって、彼女の耳元で何かをささやきながら壮絶な責めを最初から3人でやってたからね……」
由紀はそう言うと、目を細め、
「――絶対アレは、フォロアーなんか関係なく、彼女に苦痛と屈辱を与えたあげく、ボロボロにされるまでのエグイ姿を撮影するのが目的だったと自分は思うよ」、とクビを傾げながら、締めくくった。
「……何故……」
オレは気が付けば、ポツリ零していた。
蠅は、身勝手な暗い欲望を満たさせ、そいつらのカリスマになるのがアイツの目的の筈。
なのに、フォロアーが減るような事をするって、目的とは全く違うのだけど……。
あの時は一体何が目的なんだったんだろう?
「う~ん……。
――流石にその理由までは掴めないんだけど」
オレの問いに、由紀はさらにクビをかしげながらも、自分の考えを言い始めた。
「蠅にとって、フォロアーが減るデメリットとエグイ画像を流すことのメリットを天秤にかけ、エグイ画像を流すのが自分にメリットがあったのは確かだよ」
確かにそうだよね。
エグイ画像を流すことにデメリットしか無いなら、やる必要は無いしね。
――じゃあ、そのメリットって何なんだろ?
「――エグイ画像を流すメリットって何なんだよ?」
由紀はオレの問いに、「メリットはあるよ」、と言葉を短く区切り、遠い目をしながら、
「――誰かへの警告、かな?」、と言い終わる、と静かに目を閉じ、
「ハエはきっとあの時は、自分の正体の核心に迫るシッポを明日香さんに掴まれたんじゃないかな?
そして、其れに気が付いた蠅は、身を護るために彼女に奪われたモノをどんな手段をつかっても取り戻す必要があったんだと思う」
「なるほどね……」
フォロアーより、自分の身の安全最優先だよな。
自分の尻尾をつかまれて、つかまったら投稿も何もないからね。
考えたら、道理だね。
「――だから、ゆうなみたいに、彼女が大切にしている何をエサを使って彼女を何処かにおびき出し、奪われたモノを取り返すつもりだったのかもしれない。
――でも、予想もしない事が起きたんだ」
「まさか? 取り戻せなかった?」
オレの問いに由紀はクビをたてに振った。
「そんな感じかな?
彼女の秘所の中まで調べて、隠している物を探したけど無かったから、徹底的に責めて口を割らせようとしたんだ思う」
「……」
「でも、何も喋らなかった。
――文字通り、死ぬまで何も言わなかったんじゃないかな? 」
「…………」
「だから、最初の目的を変えて、明日香さんの死体を見せしめにする為に工場にさらし、妹であるノアに無残な亡骸を見せて、家族を絶望に叩き込むために便箋を送ったのだと思う。
――この件にこれ以上触れるな、これは警告だ。 悲惨な被害者を増やしたくなけば放置しろ、と」
「彼女は、一体何をつかんだよ?」
「さすがにボクにも見当がつかないよ」
けど、と由紀は短く言葉を区切り、
「その中でも、唯一の心当たりといえば、あの人は特殊観察課によく出入りしてたって話だよ。
モットも、ボクも自分の観察者のハゲから聞いただけなんだけどね」
「ほ~」
「表向きはフードデリバリーだけど、彼女が小梨さんの個室に入ってから出てくるまで結構な時間が掛かっていたし、吸い出すとか、セイシが掛かるとかそんな声も聞えたから真相はフードデリバリーを装った偽装デリヘル、と噂されてたみたい」
「…………」
あゆむの過去の女性に関する話を聞いて、オレは可愛い顔が台無しになるくらいに表情をひきつらせていた。
――あの浮気者め! 後で顔を一発位はたいてやりたい心境だ。
オレと言うモノがそばに居るのに、風俗とか頼んでいただと? 何という屈辱感っ!
……もっとも、オレに会う前の昔の話だから、仕方が無い話なんだけど、そんな話を聞いていて心穏やかに入れようはずも無い。
「彼の話でそんな表情をするなんて、センパイは判りやすいですね」
由紀はオレの表情から察したらしく、ニヤニヤしながら更に言葉を継いだ。
「あ、その件なんだけど、話には続きがあるんだよ。
あの人はデリヘルじゃなくて、極秘任務だったって噂だよ。」
「……」
オレは、話を聞いて目を見開き、あほうのような表情を浮かべた。
考えたら、あの女性に興味のないあゆむが、風俗をたのむなんて想像もつかないよね……。
少し反省。
「ハゲの話では、「今思えば、あのデリヘルの真相は、身内にも内密な潜入捜査だったのかもしれない」と話してたよ」
「潜入捜査?」
「うん、たまに警察なんかの司法機関が使う方法なんだけど、なにかの組織に潜入させ情報をさがさせる密告者だよ。
天使をSとして使う場合、見た目だけは良いし、何より使う方も死んでも後腐れないから、使いやすいらしいって、ハゲが話してた」
「……それってヤバクナイ?」
由紀の話では、聞くだけで死亡フラグがたくさん立ってるような感じがするんだけど……。
「そりゃ お給料いいぶんヤバイよ。 見つかったら最後、よくて普通に殺される程度、足をコンクリで固めて防波堤から海水浴なんてザラだしね」
「……」
オレは声を失った。
死してしかばね拾うものなし、死してしかばね拾うものなし。
密告者ってまさに命がけのバイトなんだ……。
「今、組織の方でもハエが少し問題みたいになってるみたいなんだ」
「そうなんだ」
「ハンターライセンスも無いのに、天使をレイプして殺し放題のアイツをもう放置出来ないって事らしいよ」
「考えたら、そうなるよね」
顔をしかめながら話す由紀の話のイメージとしては遊漁券も無いのに、川のエモノをつりまくる密猟者のような感じかな?
一人二人くらい天使を出来心でレイプするなら、組織からお目こぼしされるけど、アイツみたいにガッツリ狩ってると、ハンターライセンスを持っている人たちの手前見逃すわけにいかないのだろうね。
「そのために、蠅を捕まえる為のチームが編成されたんだってさ。
捕まえる捕まえれないは置いておいて、組織が一応でも動いていればライセンスがあるハンターへの言い訳ができるからね」
「なるほどね……」
「ボクの観察者から聞いたことあるけど、その時、蠅を追っていたのが小梨さんで、その時に組んでいたのが明日香さんじゃ無いかと話してた」
「……」
由紀の話を聞いて、オレはやっと あゆむが蠅を執拗に追う理由、そして、あの時見せた言葉と、涙の意味が分かった気した。
――あゆむが話していた、手痛い失敗、それは……。
自分の失態で、その時、あゆむと組んでいた明日香さんを喪うことになった件だったんだ……。
残りは早めに投稿します。
こうご期待っ!
ハゲ=本名は 丹波 影丸、由紀の観察者。
由紀は、本名で呼ばず容姿で呼んでいます。




