手がかり
「アレを、「凌辱の限りを尽くした」と言うんだろうね……」
由紀はそう言うと、動画に投稿されたグロ画像を見た時のように目を細め、表情を少しゆがめながら、ため息交じりにポツリぽつりと語り始めた。
今まで別の天使のヒサンな話でも表情一つ変えず、あけっけらかんと話していた由紀。 でも、天使にされた明日香と言う娘の話に変わると、途端に言いにくくなるって、彼女はどんだけ凄まじい最期なんだよ……。
由紀の話を聞く前から、背中に冷たい物がスッと走るのが判った。
――コレは、臆病風だ……。
「……」
オレがイヤな予感に青ざめて言葉を失っていると、由紀はスマホを取り出し、「コレを見てくださいよ」、と先ほどみせたサイトにある天使のリストの一人を指さした。
其処には、『泉 明日香』と名前がついて居て、赤髪の生意気そうな表情の十代後半の女性の画像がのっていた。
その下には、雀の涙ほどの報奨金がつけられ、そして、彼女の運命を示すように済のマークもついている。
「この人に動画のリンクが無いでしょ?」
「そういえば、無いよね……」
由紀がツンツンと指さした先には、リストにあるリンク先が空欄になっていた。
ゆうなのリストを始め、ほぼ全ての天使に動画のリンクが付いて居るのに……。
何か不具合でもあったのかな?
「この天使にも、最初動画があったのだけど、スグに削除されたんだよ」
「へぇ……」
オレは思わずため息をつく。
――動画が削除されるって、運営の方も意外と良心的な所もあるんだね、と。
いくら天使のされた極悪人の死刑囚でも、死んだ後でもズッとさらし者にされるってひど過ぎるからね。
よし、コイツに削除のやり方を聞いて、今度、明日香さんのように、ゆうなの動画のリンクを削除してもらうよう、どこかに掛け合ってみようかな?
――まあ、あゆむに聞くのが一番早そうだけど、今は居ないしね。
「リンクが削除されたって言うと、遺族とかのクレームが入って動画が削除された感じなの?」
さっきスルーしてたけど、由紀は、明日香さんはノアのお兄さんとか言ってたしね。
ノアが運営にクレームを入れて、削除させたのかもしれないな……。
そう考えると、納得がいくな。
そんな事を思って居ると、由紀は静かにかぶりをふり、「ここは、そんな甘い物じゃないよ」、と静かに言葉を区切り、
「あまりにエグイ投稿だったので、視聴者が離れて、動画投稿サイトの運営に影響が出ると判断した上の方針で削除されただけだよ」
と、由紀は真顔で言い切り、
「ボクも全部見た訳じゃないのだけど……」
と、しかめ顔でいうと、言葉少なく動画の内容をぽつりぽつりと語りだした。
「ボクが見た限りの、動画の内容を話すけどさ……」
「どんな感じだったんだ?」
オレが尋ねると由紀は、しかめ顔で語りだした。
「あの動画の最初、あの人は、3人のハエの仮面をつけた男のいる薄暗い廃工場のような場所で、全裸の格好のまま後手に縛られ、バストを縛るようにロープで吊るされてるんだよ。
おかげで、エグイ感じにバストの色が変色してたよ」
「……」
オレは由紀の話を聞いただけで、表情を歪めた。
男3人の前でバストにロープをかけられ、それで吊るされるなんて、想像するだけで痛くなりそうだ……。
――オレだったら、それだけでショック死するかもしれないな。
「そんな状態でさ、あの娘はあの後、男二人に前後から凌辱されるんだからね。
それだけじゃないんだ、彼女が二人になぶられるてる最中にも、手にハエの入れ墨した男が彼女の胸の敏感な先端にハリを突き刺し、火のついたロウソクで蝋を垂らしたあげく、乳首を炙るんだよ。
――おかげで明日香さんは、その度に言葉にならない言葉で、ノドを張り裂けそうな絶叫をあげてたからね……」
「……」
「あれは成人コミックでも有り得ない位の責め方だよ……。
――最後には、最初は嬉々として腰を振っていた男二人も、彼女のあまりの叫び声と流血に流石に萎えたのか、明日香さんをヤらなくなってたからね……」
オレは、由紀の話に言葉がでなくなった。
余りの事に思考が追い付かないとは、こんな感じなんだろうな……。
でも、コレはまだ彼女にとって地獄の入り口でしか無かった。
由紀は、彼女に起きたさらに恐ろしい事を語りだした。
「男が役に立たなくなった後も、入れ墨の男は責められ、半ば白目むいいて気絶した娘のヴァギナに左右の指4本を突っ込んでおおきく開き、中を忌々しそうに覗き込んでいたからね。
――クソッ、クソッ、と忌々しそうに呟きながらね」
「……」
「でも、彼女の責めはそれで終わりじゃ無いんだ。
入れ墨の男は、彼女がそんなボロボロのゾウキン状態になって其処でもなお、自分ではヤらずに、女性のシンボルで有る場所を執拗に巨大なディルドや苦悶の梨、ロウソクやムチでなぶっていたんだよ。まるで憂さ晴らしするようにね」
「…………」
「グロ動画にも慣れてる流石のボクも、血と体液まみれの彼女の動画だけは最期までみる度胸は無かったからね。
そして動画は酷すぎたのか、すぐに削除されたくらいだしね。
――流石にあの娘の絶叫と血と体液にまみれた姿をみたら、普通の神経を持った男じゃ最後まで正視出来ないよ……」
動画には見ていないのだけど、顔をしかめながら由紀が言い終わるくらいだから、凄まじい光景だったのだろう……。
――きっと人間の残虐性を濃縮したような光景だったんだろうな……。
「あんな感じで動ける入れ墨の男は、きっと不能の男のサイコパスか、女が男になってるってる位かもしれないよ。
――胸潰せば判りにくいし、それに女性って生理があるから、流血とかにも動じないっていうからね。
彼女を自分がヤらなかったのも、それなら納得が行くよ」
「女が今は男になってるって、
――今じゃ、そんな事も……出来るの?」
オレは、由紀の説明に、気が付けばテーブルから身を乗り出していた。
――彼女が話した、未だに不可能とされている、女性から男性への転換。
もし、其れが出来るなら……。
蠅の正体は、今は男でも不思議じゃない……。
そうなると、アイツが蠅の可能性も出てくるな。
「センパイは、ボクの説明が悪くて勘違いしたようだけど、自分が言ったのは女性が男装した場合だよ。
所謂、麗人の事、女性から男性へ変える事は無理だよ」
由紀はそう言い切った。
やはりそうだよね……。
上手い話はありませんでした……。
そんな事を思ってると、「けど……、」、由紀は言葉を真面目な顔でくぎり更に説明を続けた、
「本当は男だけど、何かの疾患で男になりきれず、女性のような体で居る場合も有るんだ。
そんな場合なら、治療して男の体にはなれるよ」
「へぇ……」
由紀の説明で知る新事実。
――男になりきれてない場合は、治療で男になれる、と。
じゃあ、女性にはどうなんだろ?
「女の体にはなれないの?」
普通に考えれば、女として暮らしていたら女の体にするのが普通だろうし。
「無理だよ」
由紀は即答した。
無理、と。
「ナノマシンを使うのは2回は出来ないし、それに一度正常な状態に戻してからじゃないと、自分らに使ったナノマシンは機能しないからね。
男の体に戻したらそれで終わりだよ、だから女性の体にするのは無理なんだよ」
由紀の説明によると、ナノマシンは2回は使えない、だから治療して本来の性別に戻した時点で終わりと言う感じらしい。
つまり、お湯をかぶれば戻れるわけじゃなく、一方通行と言うわけか……。
――でも、由紀の話を聞いて、蠅の正体がアイツの可能性が残された、それだけでも収穫かもしれない。
そんな事を考えつつ、由紀の話は進んでゆく。




