余裕の秘密 犯人はココに居やがった。
「一体ドコのどいつが……」
静かなボストンのカフェスペース。
イスに座ったオレは、テーブルの上にあるスマホの画面をにらみ付けるように、可愛い顔も台無しになるようなムスリとした表情を浮かべ、ポツリ抜かした。
マトメサイトに書かれて居たのは、オレがロリコンで極悪非道な連続強姦殺人魔のように書かれていたからだった。
絶対オレはそんな性癖じゃないのに、ドコの誰が書き込んだんだよ……。
完全に濡れ衣だよ……。
「その表情から行くと、ほんとに被害者は彼女一人だけなの?」
気が付けば由紀は白いテーブル超しに目を細め、うさん臭そうにオレの顔をガン見していた。
どうやら、オレが一人しか乱暴してないと言うのが、未だに信じられない様だ。
そりゃそうなるよなぁ、サイトにはもっとらしく被害者の告発かと乗ってるわけだしね。
内容を読めば、サイトを信じたくなるのも判る。
「香りに誘われて、彼女一人を押し倒し、その後の裁判の暴言を抜かしたのだけが事実で、
――後は全くのデマだよ、誓ってもいい。」
オレは、目を細め、不機嫌ありありに小声で返事を返した。
あの書き込みは大半がデマだと。
――何せ、やった本人がココに居て言うのだから間違いない。これ以上の無い証拠だろう。
なにせ、オレはあの時は生涯に一度の僥倖と思い、香りに誘われてあの娘を本能のまま思わず押し倒した訳だし。
そんな神がかり、否。
悪魔的な偶然はそう起こるものじゃない、だから何人も出来るわけじゃない。
「なんか気になるから、少し確かめて良いです?」
「何するの?」
「秘密です、言ったら判らなくなりますから」
由紀は小悪魔のように口角を少し緩め、席を立つとオレの後ろに回りこんできた。
ん?
オレと一緒に、まとめサイトの書き込みでも確認するのかな?
「――!」
次の瞬間、オレはブラごしに、ビンカンな両方の胸の先端につままれる様な刺激を感じてオレは、思わず身をよじって思わず甘い声をだす。
「何するんだよ!?」
気が付けば、背後に回り込んだコイツが、茶髪をゆらしながら満面の笑顔でオレの胸を揉んでやがった。
しかも、店主も声に気がついたのか、店の奥から思わずこっちを振り向いている。
……見た目は、かわいい女子高生どうしのスキンシップなんだろうけど、コイツの中身を考えるとオゾマシイどころの話じゃない。
――あゆむなら、許すけどさ……。
コイツは、スケベオヤジのようにチャンスがあればあれば、人のムネを触って来やがる。
まったく油断も隙もあったものじゃない。
「いい加減にしろよな、お前のも揉むぞ?」
オレが顔を赤らめながらコイツの腕を払うと、さっと離れていたずらっ子みたいに舌をだし、
「ボクのはダメですよ~」、と笑顔で言いながら自分の胸を隠す仕草をしやがった。
由紀は、人のを揉んでも、自分のは揉まれるのはイヤらしい。
――ナンテヤツだ。
「でも、今ので はっきりしました。
――サイトの書き込みの方が確実にデマですね」
真顔になった由紀は、指を振りながら確信を込めて言いきると、更に言葉を続ける。
「今見たいに、警戒心のカケラも無く、自分にムネを揉まれる隙だらけの人間にアレだけの事は無理です。
サイトに書かれているような狡猾な人間なら、ボクが揉める訳は無いですから」
由紀はうんうん頷きながら、トンデモない理由をつけて、オレの事を信じてくれたようだ。
――オレのような小物には、そんな大層な事は出来ないと。
まあ、信じて貰えたから良いんだけど。
「でも、このマトメサイトって一体だれが書いたんだろ?
見せてみて……」
彼女はこくんと首をかしげ、素顔でスマホをのぞき込むと、画面をスワイプさせてゆく。
「あ……」
由紀は投稿された記事の一つをみて、口をあんぐりあけ、バツ悪そうな表情を浮かべる。
コイツに関わる何かあったのかな?
「何かあったの?」
「投稿者のここの被害者の娘って、ボクの文章かも……」
由紀はホオをポリホリ掻きながら、申し訳なさそうに、マトメサイトの投稿の一つを指差した。
「これって……」
オレは指さされた記事をみると目が点になった。
――其処には、顔に目隠しされた被害者の涙ながらの告白が乗っており、新井恭介にクスリを飲まされ、ベットの上で気が付いた時は鬼畜に体を踏みにじられて、消えない屈辱と消失感を体に刻み込まれていた。と官能小説のように書き込まれていた。
ついでに、目隠しは入っているけど、投稿者は間違いなく目の前にいる由紀の画像だ。
書き込んだ犯人は目に前に居やがった……。
「ぉぃ……」
オレが目を細めてジト~っと由紀を見ると、コイツは「ごめんちゃい」、と、舌を出して頭をポリポリかき始めた。
――自分はコイツを押し倒した事はない、それ以前にあった事すらないのに、コイツはアリもしないことを書き込みやがってる。
むしろ、お前がオレを押したしたんじゃなかったっけ?
「――コレって、お前がオレにヤッた事じゃないの?」
「ごめんちゃい!
――天使にされて最初はお金が無かったし、スマホで出来るお小遣い稼ぎ感覚で投稿してたんですよ」
オレが追及すると、由紀は笑顔で、両手を合わせ おがむように謝罪した。
そして、申し訳なさそうに頬もぽりぽり……。
――その態度、絶対反省してないだろ、コイツは?
「いい加減にしろよな」
オレが目じりをヒクつかせながらそう言うと、由紀は「でもさ」と短く言葉を区切って言い訳を抜かし始めやがった。
「周りでも結構やってる娘多かったよ。
社会に有害な鬼畜な男を厳罰にする社会貢献しつつ、自分にも美味しいバイトと、言う事でSNSで相当流行ってましたから。
何せ、匿名でよいし、ついでに一投稿したら、お昼ご飯数回分の仮想通貨が貰える破格の報酬だったからね」
「……」
責任感も何もなく、笑顔であけっけらかんと抜かす由紀に、オレはムスリとした顔をしたまま次の言葉が出てこなくなった。
コイツは善良な市民が何も考えずに義憤に駆られて、真偽も確かめずに犯罪者に落ちたオレを趣味と実益でフクロ叩きにした感じか……。
こっちは、まったくたまったモノじゃ無いんだけど……。
「でも、そっちもやってたんじゃない?」
由紀に切り返され、自分もあたまを ぽりぽりかいた……。
「う~ん……」
唸るように返事を返したオレも、あんまりコイツを強く言えない所もあった。
自分も昔にたような光景で義憤に駆られながら、ゆうなの犯罪を叩く投稿に、「イイね、」を押し、「こんなヤツこそ、ミノ踊りで公開処刑にしろ」、とか、「生きたままオリに入れ、ガソリンブッかけて焼き殺せ」と彼女の生まれなんかの裏事情も知らず、無責任に書き込んだ事も有る自分も意味同類だろうから。
――ある意味、因果応報のような感じかもしれないな……。
そんな事を思いながら、サイトを読み進めゆく。