表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/116

疑惑とその先

 あの後、フェイトさんは「コレをあたたかい内に届けたいの」、と言って銀髪を揺らしながら、オレとあゆむを置いて、良い匂いのする紙袋片手に足早に路地を去っていった。

 ――匂いからいくと、コロッケの類だろう。

 冷めると不味くなるから、仕方ない所かもしれないね。

 

 因みに、あゆむに彼女との秘密を何となく聞いてみたら、

 「守秘義務違反になるので、お前には話せない」、とサラリとお流しになりやがった。

 ――こんな職業(観察人)なら、話してはいけない事は山ほどあるんだろうな……。

 と、思って居たら、あゆむは、「あの件は話せないが、代わりにお前の知らない面白い話をしてやろう」、と、オレが聞きたかった事の代わりに、由紀が先ほど話していた 三大悪行の一つ、「野人の乱」についてホザキ始めやがった。

 オレが聞いても居ないのに……。


 ――野人の乱と言うのは、修学旅行の先の山険しい温泉街で、レナにバナナを使って女風呂にけしかけらた野猿たちが、亜由美(悪役令嬢)の神々しいまでの美しさに自らの行いを恥じて、突進する先をクルリと変え男風呂に突っ込んでいった、と。

 そして、男風呂ではパニックが起き、たまたま修学旅行で来ていた男子生徒たちが、空手スキルで戦ってゆく某転生小説のように、フリチンで山の中を走り回った、との事らしい。

 そこから、「野人の乱」、と呼ばれるようになった事件だったと、あゆむは懐かしいそうに締めくくった。

 ――コレは、確実に例の話から話題を変えるための煙幕だな……。

 それに、野猿たちは絶対、彼女の美しさに恥じ入ったんじゃないと思う。

 真相は、女風呂に突撃した野猿たちは、悪役令嬢の圧倒的な威圧の前に一瞬で自分たちが食われる立場と判らせられ、逃げようとするが、背後には、督戦隊とくせんたいのようなヒロインのレナが居て、行くならず引くもならず でサルたちは仕方なく最後の逃げ道である男風呂に突っ込んだのだろう……。

 ――その後、学校(フェリミス)は修学旅行でその温泉街にお出入り禁止になるわ、サルたちの方もエサが貰えなくと言う、悲劇的な処遇もありありと目に浮かんだ……。

 たしかに三大悪行のひとつになるな……。

 そんな事を聞いて、話のコシが折られて、あゆむとフェイトとの秘密も聞くタイミングが逃げ去っていくのを感じた。

 ――まあ、彼にはまた別の機会にでも聞けば良いしね。

 何時も居る訳だから……。


 「由紀の事だけど、あゆむはどう思う?」


 そんな訳で、あゆむは並んで歩いているオレは、自分がもう一つ気になって居た事について聞いてみた。

 ――彼女は無罪と言い張る由紀の一件について、だ。


 「レイプサークルに関しては、レナの共犯と言う事ではクロだ」

 

 オレの隣にいたあゆむは、青白いLED街灯の下、足をとめるとオレを真顔で見ながら答えた。

 ――レイプサークルに関しては、有罪だと。


 「自分もそう思う、自分で言ってるんだから間違いよ」


 オレもあゆむに マジな表情でうんうんと相槌を打つ。

 ――アイツが自分で言ったのだから間違いない。

 どういう事情でもあっても確信犯、アレで無罪だったらおかしいよ。


 あゆむは、「けれど」、と短く言葉を区切り、真顔で説明をつづける。


 「レナ殺害に関しては引っかかる所はあるな。

 ――病的に用心深いあの女が、アイツごときにの小物に殺される筈は、決して無い」


 小梨は確信をこめて言い切った。

 ――アイツ(由紀)ごときに殺される筈はない、と。

 確かに見た目ゆるふわ系、本当は獰猛、羊の皮をかぶったライオン、そんなクリオネのような肉食系な娘が由紀のような草食系のヤツに殺されるとは思えない。

 反対に罠にはめられられ、あっさり食い殺されるのが落ちだろうしね。

 ――殺しは、ヤル気しだい。

  体格なんて関係ないしね。


 「じゃあ、アイツが犯人じゃなければ一体誰が犯人なの?

 証拠だらけなんでしょ?」


 オレは思ったことを考えもせずに、首をかしげながら あゆむに尋ねてみた。

 前に聞いたけど、レナの体の中に由紀の体液が残ってたと言う事は、()ッた動かぬ証拠で、凶器に指紋と汗がついているのが殺った証拠だろうから。

 ――それ以前に、由紀はレナと繋がった状態で意識を失ったまま、彼女の上で発見されたらしいけど。

 まとめサイトには、アイツはハッスルしすぎで、彼女の上で意識が飛んだそうだ、と書いてあった。

 お盛んなアイツなら有りそうな話だけどね。

 もっとも、オレもあの時、彼女(悪役令嬢)の必殺ベアハッグで一瞬だけ意識が飛ばされたから、あまり言えた義理じゃ無いけど……。


 まあ、とにかくそれがレイプ殺人の動かぬ証拠になって、由紀は天使にされたそうだ。

 ――自業自得だな……。

 そんな事を思って居ると、あゆむは何が思う事があるのか、ポツリ言葉をこぼし始めた。


 「だが、証拠に関しては、其処はどうにでもなるんだ」

 「えっ?」

 

 あゆむの真顔でかたる「証拠に関しては、其処はどうにでもなる」、と言う言葉に目を見開き、驚きを隠せないオレを前にして、小梨は淡々と自分の考えたトリックを口に出してゆく。


 「凶器のロープも、手袋をつけた犯人がアイツに握らせればいい」

 「じゃあ、体液は?」

 「犯人がゴムをつけレナを犯した後、アイツの体液をスポイドか何かでレナの体に入れれば出来上がりだ。

 司法解剖の時、ヤツがレナの中で出したか、後から入れたかまでは調べはしないからな」

 「……」


 彼の話を聞いてオレは言葉を失った。

 ――絶対に有り得ない、何処の猟奇殺人か? と。

 何処にゴムをつけて強姦するレイプ魔が居るか?、

 ――まあ、レイプされる女性が同意したなら、犯人が付ける事は有るらしいけど……。

 その場合でも、強姦魔はオスの本能にしたがって行動する訳だから、わざわざ別の男の体液を彼女の体内に丁寧に入れるヤツが居る筈はない。

 ――そもそも、どうやって男の体液を採取するんだよ……。


 「ゴムはさておき、犯人は由紀のアレってどうやって手に入れるの?

 ――手に入れる為に、アイツの家のゴミ箱でも漁るの?」

 オレはそんな事、絶対にあり得ないと思い目を細めると、あゆむは表情を変えずに背筋も凍るような自分の理論を淡々と口に出してゆく。

 

 「いや、脊髄に電気を通し、強制的に勃起させ、体液を採集させる事も可能だ……」

 あゆむはそう言うと、静かに目をつむり、自分の考えを更に続けてゆく。

 「もし、そうさせる事が出来るなら、アイツの意識が無い状態で、無理やりレナを犯せるも事ができるな……」

 「……」


 あゆむが語る、意識の無い由紀を強制的に勃起させ、動かなくなったレナを犯せると言う、想像するだけでも更にエグイ光景にオレは言葉を失い、顔が引き攣る。

 背筋がキュンと寒くなり、何が冷たい風が吹き抜けるのがわかる。

 これは臆病風だ。

 あゆむが話すことは、理論的には出来る手段だけど、マトモな人間なら普通に考えても出来ないでしょ。

 人間を人間と思わず、ダッチワイフのようなモノの様に扱うなんて。

  

 「……」


 じゃあ、レナをヤって殺ったのは一体誰?

 オレに中に疑問が浮かんだ。

 ――彼女も油断をさせずに近寄れて、人間的に壊れているけど、アタマの切れる奴。 そして、人間を人間と思わず、モノの様に扱う……。 

 その言葉にオレの頭の中に一人の名前が浮かんだ。

 ユイを囮にして、ゆうなをおびき出して殺し、そして亡骸を我が子の前に晒した鬼畜のようなヤツ。

  ――(ベルゼバブ)……。


 「そんなエグイことが出来るなんて、レナを殺したのも(ベルゼバブ)なんじゃないの?」

 

 オレは考えもせず、おもった事を口に出してみた。

 用心深いユウナですら、アイツに殺されていたから。

 

 「――だとしたら、理由は何だ?」


 オレの答えに、あゆむはオレを見ながら、不機嫌ありありの渋面で唸るような声を上げた。

 

 「レイプサークルの事を知ってて、天誅を下したのかもよ?」

 「あり得ない。

 サークル絡みなら、殺しはリスクとメリットでリスクのほうが高すぎる」


 オレが頭に浮かんだことを考えもせずに口にすると、あゆむに即座に否定された。

 そして、あゆむは自分の意見を口に出してゆく。


 「レナなら、さんざんレイプした挙句、写真を取って脅し性奴隷にした方が犯人にとっても余程メリットが有るだろう。

 ――ゆるふわ系の美少女を好きにできると言う、お前の好きなシュチュエーションだ。

 死刑になるリスクを負ってまで、殺人まで犯す理由はない」

 「……たしかにね……」

 

 オレはあゆむの意見にうんうんとうなずきながら、納得していた。


 簡単に言うけど、殺人を犯すと言う事は、相当な覚悟が必要だ。

 強盗殺人やオレのようにレイプ殺人なら、一人殺しても死刑の可能性も十分あるわけだし。

 ここまで綿密に練ったうえでのレイプ殺人は、面白半分でできるわけじゃない。

 でも、あえてそれをせずに殺すのみ……、

 ドライに振舞える、――じゃあ男じゃなければどうなんだろう……。

 ――女なら、もしかして……。


 「蠅は男じゃないのかもよ?

 ――北村が実は女と言うオチだったりしない? 胸をさらしで潰してさ、脱がせて見れば一発で…… 」

 「――アホウ」


 オレが思ったことを考えもせずに口に出すと、あゆむに即断で否定された。

 

 「ヤツとは、何度かトイレで鉢合わせたから判るが、アイツは確実に男だ」、とあゆむは半ば呆れ顔でいうと、「だが」、と短かく言葉をくぎり、

 「蠅が女と言うその線は考えていなかった」、となにか思うような表情で締めくくった。


 「何かあるの?」

 「蠅自身は傍観者に徹し 常に誰かに犯させていたからな……。

 ――ヤツが女なら、理由が説明できる」


 あゆむは、そう言うと何か思う事があるのか、静かに歩きだしてゆく。

 ――オレには何も説明せずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ