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学問のすすめ 家での変化

 あれから数日たった。

 バイトのノアと逢ったあの日から、ほんのちょっとだけ自分の普段の生活が変わっていた。

 ほんの少しだけ真面目になった、勉強に目覚めたのだ。


 最初はノアが

 「杏子も判らない所は教えてあげるから、少しはやってみたら?」

 と言うのでやってみる事にしたのが切っ掛けだった。

 しかし、イヤイヤながらも勉強ももう一度やってみると ノアの教え方が上手いのか案外面白いものだった。

 考えれば、大好きだったスマホゲームのスキルなどをネットで引くのと、教科書から知識を覚えるのは、どっちも後で使えるようなると言う意味では近いのかもしれない。

 面白くない訳がない。

 そして何より、集中しているその時間だけは嫌な現実を忘れられるから。

 ――もっとも、やる量は時間が有る時にやるくらいで、彼女ノアの足元にも及びそうにないけど、少しでもやる事が何よりも大事なのだ。

 昔の偉い人が言って居た、『参加する(やる)事に意義がある』と。

 もっともアッチはスポーツだったけど。


 そんな訳で、今日も自分は朝ごはんの合間にキッチンで勉強をしている。

 

 朝、自分は寝間着であるチューブトップのままキッチンにあるテーブルに向かっていた。

 テーブルには昨日買って置いた冷凍ワッフルが載った白い皿とオレンジジュースの入ったガラスコップ。

 そして、今まで開く気すら無かった電子ペーパーの日本史の教科書。

 それが今、自分がワッフル齧りながらでも、そのページをぺらぺらスライドさせていた。

 ――これはある意味歴史的瞬間かもしれない……。

 もっとも、記録には残らない小さな歴史だろうけど。


 「お前がそんな物を見るとは、どういう風の吹きまわしだ?」

 

 何時の間にやら部屋に侵入していた小梨も最近は機嫌が良い。

 自分が真面目になって勉強して居るのが面白いのか、彼は何時もオレの背後で表情を緩めながらコーヒーを飲んでいる。

 ある意味、自分が苦悶しながら頑張る様子はヤツにとっては最高の見世物パンダ状態なのかもしれない。

 何時もながら、コイツは悪役令嬢の様に底意地が悪い……。

 思わず、顔をひくつかせながら返事を返す。


 「ん~もぐもぐもぐ……(時間があるから見てるだけだよ)」

 「そうか、それは良い心がけだ」


 小梨はそう言うと、テーブルに置かれていたワッフルを優雅な所作でひょいと摘み上げた。

 ――あ、泥棒! 

 それ、自分の朝ごはんなのに……。


 「あ、それ…」

 「気にするな、お前のものは私の物、私の物は私の物だ」

 

 小梨は○ャイアンのような事を言いながら、上品にワッフルを食べだした。

 朝ごはんを強奪され、思わず餌箱を取り上げられた猫の様な悲しげな表情を浮かべるオレを前に、彼はクールな表情のまま更に一言抜かしだした。


 「しかし、お前は阿呆だ」

 「いきなりそれは無いだろ……」


 阿呆と言われ、自分は思わず渋面になる。

 小梨はその様子をクールに笑う。


 「お前はこんな物(ジャンク)しか食べないから、阿呆と言うのだ」


 そういうと、小梨はため息交じりに自分が持って居た紙袋をテーブルの上に差し出した。

 中からは肉の焼けた良い匂いが漂ってくる。

 ―― 一体何だろ?

 思わず鼻をひくつかせるオレを前に彼は目を細め口角を緩めながら更に続けた。


 「私の朝飯用だが、コイツをくれてやる」

 「えっ? 良いの?」


 美味しいものが貰える雰囲気に思わず自分の表情がパっと明るくなる。

 初めて彼が仏に見えた、後光が差して見える。

 ――何時もは閻魔様だけど。


 「ああ、構わん。 中身は野菜がふんだんに使われたバーガーとサラダだ。

 お前にジャンクフードばかり食われて、あっさり死なれては困るからな」

 「……」


 小梨は何とも言えない渋い顔になった自分を小さく笑う。

 全部計算ずくかよ……。


 訂正、やっぱり彼は閻魔様でした……。

 小梨の後ろに不動明王のような火焔光背が見える気がした。

 やっぱり、コイツの性格は極悪のようだ。


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