恐怖の帝王
「ボクは、悪役令嬢にフルボッコされたんですよ」
由紀は、オレとあゆむを前にして自分の恐怖体験を語り始めた。
余程怖かったのだろう、彼女の涙目で震えながら話す感じから、本気でビビっているのが分かる。
「それだけじゃない、ボクがほうほうの体でその場から逃げだしても、あの人に執念深く徹底的に追い回されたんですよ。
――戦神のような恐ろしい形相でコブシをボキボキ鳴らしながら、「待てぇ こらぁぁ!!」と言いながらボクを追い回し、自分が立て看板の裏に隠れていると目ざとく見つけると、看板もろともボクをボコにし、トイレに逃げ込んだボクを猟犬のような嗅覚で見つけると、ドアを破壊して中のボクを引きずり出すと更にフルボッコにしたんですよ……。
まるで、未来の指導者の母親を抹殺にきたロボットみたいに、何処までもね……」
――ターミ〇ーターーかよ……。
まあ、徹底的においまわされたのだけはよくわかるな。
余程、恨みを買ったのだろう。
「逃げに逃げて、恥も外聞も無いほうほうのていで、レナの実家まで逃げ帰った時は、まだ悪夢でも見ていたのかと思った。
――それほどの恐怖体験だったんだよ」
震え、涙目で青ざめながら、かたりおえる由紀。
彼女の表情からマジでトラウマになるほどの恐怖だったのがわかる。
確かに、あの悪役令嬢に徹底的に追い回されたらソリャ怖いよな……、自分でもそんなに追い回されたらトラウマになりそうだ。
コイツは、例のサークルの主催者だから彼女に後ろめたいことがあって、自分から警察にも駆け込めないだろうし。
其処も計算ずくで、悪役令嬢はコイツをおいまわしたのだろう。
そう考えると、マジで、こえぇぇ。
――由紀の言っていた意味が良く分かった。
でも、同時に疑問が湧き上がる、――何でそこまで彼女に狙われたんだ?、」と。
「お前は、彼女にそれだけ酷い事を……」
オレは由紀を見ながら、目を細め、その先を言うのを止めた。
――コイツが例のサークルの首謀者で、彼女も被害者なら、言うまでも無く恨みをかってるよな。
ひどい目にあった彼女にボッコボコにされても、それは自業自得だろう……。
――もっとも、悪役令嬢をレイプした自分が言えた義理じゃ無いけどね。
「う~ん、彼女自身には恨みを買う事なんて、ボクにはまったく記憶がないんだけど……。
彼女は、きっと何かの勘違いしてボクを逆恨みしたんじゃないかと思うよ」
由紀は渋面で、ぬけぬけとそう抜かし、更に斜めうえに視線をずらす。
――何か、心当たりが無いか考えているのだろう。
「……」
ふと、あゆむの顔をみると、無言ではあるがイケメンの顔をヒクつかせていた。
――なんて事を言うんだ、そんな表情だった。
「あ……、そういえば一つだけあったかも……」
由紀は、目を見開き、何か思い出したようにポンと手を叩くと、更に言葉を継いだ。
「レナと木戸亜由美の二人が起こした、『ボストン茶会事件、マカロンの乱』の時の事かも?」
「一体何それ?」
オレは思わず聞き返す。
――『ボストン茶会事件、マカロンの乱』って、何ぞや? 、と。
そんな大層な名前がついて事件なんて、今まで聞いたことが有るわけ無いしね。
と、思っていると、由紀は事件の事を説明を続けてゆく。
「ボストン茶会事件と言うのは、レナと木戸亜由美の二人が起こした、3大悪行の一つですよ」
「3大悪行?」
「3大悪行と言うのは、二人がよく起こしたトラブルの中でも特に被害が大きかった、『ボストン茶会事件』、『真紅のクリスマス事件』、『野人の乱』、この3つの事件に巻き込まれた人たちは、畏怖を込めてこの3つの事件を『3大悪行』、と呼ぶんですよ」
「……凄まじいね……」
3大悪行って、茶釜に爆薬を仕込んだ昔の武人かよ……。
しかも、被害者が畏怖するって、二人はどんだけの事をしたんだろ?
しかし、あの性格の悪い二人がバチバチ火花をとばしたら、そりゃトラブルになるのも仕方ないかもだけどね。
「その3つ悪行の中でも特に有名なのが、『ボストン茶会事件』なんですよ……。
――きっと、その時の事かも……」
と、由紀は嫌なことを思い出したのか、顔をしかめ、そう締めくくった。
――あゆむは、無言ではあるが、何かを言いたそうに頬を引くつかせている。
そんな中、由紀は『ボストン茶会事件』の事を語りだす。
きりが良いので此処で投稿します。
残りは早めに投稿。