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ヒロインなんてそんなもの

 「あの二人は、フェリミスの女帝と帝王と呼ばれて居たんですよ……」


 由紀は表情を曇らせると、オレとあゆむを前にして、彼女たちの事を語りだした。

 ――まるで、魔法使い映画に出てきた、話してはいけない人の事を話すような感じで、ポツリ、ポツリ、と。

 

 「女帝と帝王ねぇ……」


 オレは思わず、「どっちが?」と、言おうとして、言うのを止めた。

 ――女なのに帝王……。

 つまり、「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」、帝王の条件である この三拍子の雰囲気が揃って居るのは、例の悪役令嬢(木戸亜由美)しか居ないな……。


挿絵(By みてみん)

 たしかに、目つきも悪いし、前見た彼女の胸を張る写真の姿は王者の風格があったよなぁ……。

 そうなると、木戸亜由美の方が帝王、消去法で行くと女帝の方は朽木怜菜(くちき れな)だな……。


 「……懐かしい話だな……」


 そんな事を思っていると、小梨は話に耳を傾けながら、目を細めながら苦笑いを浮かべていた。

 何か懐かしいものを思い出しているのかもしれない。

 

 「懐かしいじゃないですよ、周りはいい迷惑ですよ……。」


 由紀は、渋面を浮かべながら更に言葉を継いだ。

 

 「トラブルの中心に、何時も女帝(レナ)帝王(アユミ)有り、

 二人そろえば、フェリミスの悪夢と言う感じだったからね……」

 

 由紀は、泣きそうな顔で、二人そろえば、フェリミスの悪夢、と締めくくった。

 一体それって、どんな感じなんだよ?、自分には想像もつかないな……。

 悪役令嬢だけでも怖いのに、もう一恐のヒロインってねぇ……。

 ――朽木怜菜ってどんな娘だったんだろ? 木戸亜由美のような感じサバサバ系でライバルだったのかな?

 怖い物見たさで興味がわいてきた。


 「あのさ、帝王の木戸亜由美の方は何となく分かるけど、女帝、朽木怜菜ってどんな娘だったの?」

 「――レナの事も話さないとダメですか……」

 

 由紀は、オレが彼女の事をたずねると、表情を曇らせたまま言葉を詰まらせた。

 ――コイツには、彼女に対して言いにくいヤマシイ何かあるのかな?


 「話さないと分からないだろ?」

 「そういうなら、真白の令嬢(ヒロイン)怜菜(レナ)の方から話すけど……」


 オレにレナの事を聞かれ、由紀は表情を曇らせると、オレとあゆむを前にして彼女(レナ)の事を語りだした。

 あゆむは彼女(レナ)の事は既にリサーチ済なのか、イケメンの表情を変えないが、懐かしいものを見るように遠い目をしている。

 そんな中、由紀はさらに言葉を継いでゆく。


 「彼女はざっくりいうと、小さくてふわふわ系。 フリフリした見た目から男性からは絶大な人気があって、真白の令嬢(ヒロイン) まるでクリオネのような娘 と女生徒からは呼ばれていたんですよ」


 「小さくてふわふわで可憐なクリオネ(妖精)のような娘か~」


 オレは、由紀のふわふわ、ふりふり系と聞いて、思わず表情を緩めていた。

 ――小さくてふわふわ系、妖精のようなヒロイン、イメージとしては抱いたら壊れそうな可憐なタンポポのような娘か……、

 彼女とは友達でも良いから、仲良くしてお近づきになりたかったなぁ……。

 ――あの時の彼女が、レナだったら、という愚かな考えがオレの頭に一瞬よぎる。


 「杏子さん……」

 「ん? 何?」

 「にやけてますけど、この場合のヒロインの意味判ってます?」

 

 由紀は顔を強張らせ、声を震わせながら尋ねてきた。

 きっと、オレの緩んだ表情から、何か勘違いをしていると察したのだろう。

 

 「「ヒロイン」、って、意味そのまんまの意味じゃないの?」


 オレは考えもせず、自分の思っていた事をそのまま口に出した。

 ――ヒロインの意味って、物語の主役なるくらいの小さくてふわふわの可愛い系、護ってあげたい娘の意味だろ?

 そんな事を思っていると、あゆむは目を細め、「阿呆」、と短く言葉を区切り、腕を組みながらオレに向かい、盛大なダメ出しをしてきた。


 「――この場合、女仲間で言われる「ヒロイン」と言うのは、腹黒い悪女と言う意味だ」

 「そうなの?」


 あゆむから聞く新事実に、目をぱちぱちさせた。

 ヒロインには、そんな裏の悪い意味も会ったんだ……。

 まあ、武勇伝も本来は良い意味だったらしいのが、悪い意味に変わったから、良く有ることなんだろうけど。


 「……貴様は、子供のように本当に何も知らないのだな……」


 あゆむは何も知らないオレに呆れのか、大きくため息一つはいた。

 

 「悪かったね。

 元男のオレに、女同士の事なんて詳しい訳ないでしょ?」


 オレはそう言うと、思わず頬を膨らませる。

 由紀も半ば呆れているけど、自分は元男だから、そんな事わかるわけ無いしね、判ったら苦労はしないよ。

 ――むしろ、由紀の方が例外だと思う……。

 何でこの娘はしってるんだろ?


 「確かに、それもそうだな。

 貴様にも「ヒロイン」の事を判るように説明してやるから、よく聞いておけ」」

 

 そんな事を思っていると、あゆむはそう言うと、納得したようにうなずき、

 何も知らない子供にも判るようにヒロインの意味を基本から説明を続けていった。


 「女性物恋愛小説のヒロインというのは、表では可愛い顔をしながら、影で色々布石を置き、悪役令嬢なんかのライバルたちを片っ端から始末した揚げ句、最後には何食わぬ顔で自分はまんまと目的である皇太子を射止めるのが物語の王道だ。

 そして、その彼女の悪辣さをたとえて、腹黒い悪女の事を「ヒロイン」、と呼ぶんだ」


 「……」


 オレは、彼の説明を聞いて目が点になる。

 恋愛の小説の「ヒロイン」って、そうだったのかよ……。

 考えてみたら、確かにシンデレラなんかも、偶然をよそおってクツを落としていくわ、しかも無理に履いたら壊れるガラスのクツにするわ、どう考えても確信犯だよな。

 きっと、彼女が家族の料理を作る時も 足がむくみやすい様な料理をだして姉達に間違ってもクツのサイズが合わないようにしたのだろう。

 ――そう考えると、確かに腹黒いよなぁ……。

 どんなヒロインも、可愛いだけでボーっと待っていたんじゃ、玉の輿は転がってこないだろうし。

 ヒロインも大変、と言うか、マジでこぇぇ~~。

 一瞬、女達の闇を見た気がした。


 そんな事を思っていると、小梨は懐かしいものを見るような感じで説明を続けてゆく。


 「彼女は、「真白の令嬢(ヒロイン)」と言われるだけあって、ふわふわ系の可愛い見た目と裏腹に影でこそこそ布石をおいて、じわりじわり罠にはめて陥れるのが病的に上手だった」

 「へぇ……」

 「もっとも、コッチは仕掛けられた罠を片っ端から潰すのが日課だったが……、彼女(レナ)のあの腹黒さは、まさにヒロインの名にふさわしかった。

 ――彼女(レナ)と比べると、木戸亜由美は、まるで慈愛に溢れる観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)だろうな」


 小梨はそう言うと、目を細めて、懐かしいものを見るような感じで語り終えた。

 ――彼女(レナ)と比べると、木戸亜由美は、まるで慈愛に溢れる観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)だった、と。


「こえぇ~」


 あゆむの話を聞いたオレは表情を固め、背筋に冷たいものが走り抜ける。

 ――これは臆病風だ……。

 一瞬でも、レナの方が良かったと思った自分の浅はかさを呪った。

 ――オレをこの姿にした、あの悪役令嬢が慈愛に溢れる菩薩というんだから、彼女(レナ)はどんだけ恐ろしいんだよ。 


 じわりじわり罠にはめて陥れるのが上手いというのだから、彼女(レナ)をレイプしていたら、あの娘と違って直接サツがネカフェにくるのではなく、最初からじわりじわりと追いつめられたんだろうなぁ……。

 オレが、ネカフェに戻って一息ついたところで、何故かオレ宛に荷物が届いていて中には、女物の服一式が「時期にご入用になると思われますわよ」、というメモと一緒に入っていたり。

 ヤバい、と思い、オレが慌てて逃げようとすると、自分のクツに画びょうが入っていて、「ぎゃあ」、と叫び声あげた所で、


 「――ヘタクソだから、こっちはもっと痛かったのよねぇ……」

 

 と、隣のから声が聞こえてきて、オレが冷や汗をかきながら振り向くと、そこには彼女がシラーっとした目でコッチを見て、「どこに行くつもりですの? 逃げ場所なら時期に案内してさしあげますわよ。

 ――この世の地獄と言う場所にね」、と言われるんだろうなぁ……。

 敵をワナにハメて倒すゲームのような感じで彼女に罠コンボを決められる、地獄のような恐ろしい光景がありありと浮かんでくる。

 精神的にじわりじわり真綿で首を絞めるように追い詰められ、天使にされた後も、今以上に、じわりじわりといたぶられるのだろう。

 丁度、姑が嫁をドラマみたいに いびる感じで。

 想像するだけでも真の地獄だ。

 ――今の方が余程マシかもしれない。


 そう思うと、背筋が寒くなりオレはあゆむのほうに席を寄せると、思わず体を預けていた。

 そして、紅茶を一口、体の中に広がる温もり、外から伝わる彼の温もりでやっと自覚する。

 ――まだ、今のほうがマシだったと。

長くなったのでここで投稿します~。


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