由紀の告白
アノ後、オレと由紀の二人は話す場所を脱衣場から、キッチンに場所をうつした。
――どう考えてもコイツの告白は、女子高生の世間話のようにあっさり済む話じゃないしね。
そんな訳で、今、オレと由紀、そしてあゆむの3人はキッチンにて紅茶片手に丸いテーブルを囲むように座っている。
灰色のジャージ姿の由紀と何時もの制服姿のオレ、いっぽうのあゆむは何時もの黒いスーツ姿。
ぱっと見た目は、女子高の生徒指導の現場だろう。
先生を前に、自分のやらかした悪事の事を言うような状況になっていた。
先生?
――もちろん、あゆむが。
「ボクの前の名前は……」
由紀は、今風の整った顔に汗をかき、ついでに頬もぽりぽりかきながら、自分の前の名前をバツ悪そうに言い始めた。
――やましい事が無ければ、ドウドウといえば良いのに、この時点で怪しすぎる。
コイツはマジでやってるんじゃね?
「お前か……」
そんな事を思っていると、小梨は由紀の告白にテーブルを指で叩きながら、イケメンの表情を歪める。
コレはマジで機嫌が悪いときの表情だ。
「あゆむ、何か知ってるの?」
「こいつは、例のサークルの主催者だ」
「例のサークル?」
あゆむが「例のサークル」と言っても、オレはまったく見当がつかない。
由紀の前の名前だけで、事件の事を思い出すほど頭は良くない訳だしね……。
そう思っていると、あゆむは其処も居り込み済のようで、由紀をジトっと見ながら更に説明をつづけた。
「お前は知らないかもしれないが、この娘は、一時有名になった『ウルトラリバティ』、と言う集まりの主催者だ。
サークルに参加した何人もの娘が泥酔の末犯され、泣いていた、と。
――聞いた事がある」
苦々しい表情で語り終えるあゆむ。
一方の由紀は、バツ悪そうに頭を掻いていた。
「……なんかそのサークルの名前、聞いた事あるね……」
オレは苦々しく語る小梨の話を聞いて思わず目を細め、シラーとした表情をする。
名前だけじゃ判らなかったけど、『ウルトラリバティ』の名前を聞いてコイツの事件をハッキリ思い出した。
コイツは出会い系サークルの主催をしていたやつだ。
聞えは良いけど、男から高額な会費を集め、女を酒に酔わして犯かすと言う極悪な集まりだったらしい。
被害者で恥ずかしい画像を取られ、泣き寝入りした娘は数知れず、中には中絶までした少女もいた、とネットでは見たはず。
――鬼畜のような奴らだ。
親玉のコイツは、揚げ句の果てにサークルの莫大な売り上げの分配で揉めて、幼馴染の娘が邪魔になり、犯して殺した。
超逆玉の縁談も持ち上がっていたから、丁度いい機会に身辺整理もかねて、の線も浮かんでたらしいけど。
その後は、レイプサークルの一件と幼馴染の殺害のあわせ技で、文句なしのリベンジ法一発適用。
たしか、そんな感じで まとめサイトには乗っていた。
ま~どちらにせよ、人間のクズには当然の結果だな。
「お前が、あのレイプサークルの親玉か……」
「レイプサークルなんて、失礼な事を言わないでください」
オレの目を細め、ため息交じりの呆れ顔で言う言葉を、由紀は真顔で否定してきた。
どう言っても、お前はアノ集まりの主催者だろ?
「何が違うんだ?」
「自分達は、レナが言ってたようにミンナから会費を集めて、合コンなんかの出会いの場を手伝うだけですよ」
「……」
「後の酒を飲む飲まない、ドラッグとか使って、ヤるやらないは会員の自由。
クスリとか避妊具とかも売ってたけど、何に使うとかは個人の自由ですし、マットレスとかを会場の隣の部屋に持ち込むとか、主催者は其処まで関与しませんから」
由紀は悪びれる事も無く、半ば笑顔を浮かべ 「自分は関係ない」とばかりに、あっけらかんと抜かした。
――場所やら準備してクスリや避妊具まで売っていたけど、自分には関係ない、と。
でも、使われるのを判って売りさばいていたのを、普通それを確信犯と言うのだと思うけど。
その時点で、コイツはクズ確定。
――コイツは、自分でやって居ないというけど、話を聞くと どう考えてもやってるよな。
「どちらにせよ、そんな事を言うだけでも人間のクズだな……」
「……」
オレは目を細め、ジト~っと冷たい視線で由紀を見た。
隣にいるあゆむも、自分と同じ意見だろう、オレをチラリと見たあと目を細め、由紀を見ながらうなずきつつも、無言でテーブルを不機嫌そうにコンコン指で叩いている。
ドイツもコイツそんな事を言うなんて、あつかましいわ。
そんな表情だ。
「そ、そう言う、そっちはどうなんですか?」
「うっ……」
由紀は、冷たい雰囲気に耐え切れなかったのか、声を詰まらせながらオレの痛いところをついてきた、
――こっちも、「たかがレイプごとき」と閻魔を前に鬼畜の暴言を吐いたから言えた義理じゃ無いんだけどね。
しかし、全てを知ってる筈のあゆむも居る訳だし、言わざるを得ない状況だよな。
「自分は……例の……」
そんな訳で、オレが仕方なく渋面でぽつり自分の事を言うと、由紀は目を見開いた。
――とんでもない物を見たような表情だった。
「あなたが、あの悪役令嬢レイプ犯?」
「そ~だよ……、それが何か?」
由紀に言われ、自分の事件は改めて、ここまで有名だった事を自覚する。
後の自爆を含め、思い出したくない、――出来るなら事件前に時間を巻き戻して、やり直したい一件だけど。
「巷じゃ、武勇伝が溢れかえってますよ」
由紀は、半ばあきれ顔で返事を返してきた。
絶対、ろくな事じゃないだろうな……、武勇伝という位だし。
あゆむは大体その先が読めるのだろう、イケメンに似合わない顔で笑いをかみ殺していた。
――何を言われるのか、ハタ恐ろしいよ……。
自分の評判を聞くのが、自分では何も判らないだけに、一番怖いよなぁ……。
顔をひきつらせながら、恐る恐る尋ねてみた。
「オレには、どんな武勇伝が伝わっているの?」
「一言で言うと、ドンキホーテ」
由紀は、半ばあきれながらオレを一刀両断にした。
――狂った騎士、と。
オレは、呆れ顔で彼女に言われ、思わずムスリと顔をしかめた。
あゆむは二人の様子が何かツボにはまったのか、目を細めながら、笑いをこらえ切れずにクスクス笑っている。
――モットもだ、と言わんばかりの表情だった。
「……まあ、そう言われても否定は出来ないけどね……」
雰囲気にいたたまれなくなったオレは、そう言うと、恥ずかしそうにあたまをぽりぽり掻いていた。
ついでに、顔もぽりぽり……。
――まあ、もっともコイツにそう言われても仕方ないよな。
振り返って冷静になってみれば、よく彼女に襲いかかれて、その後で裁判の時、
「たかがレイプごときで、可笑しいだろ!?」、とクソババアに暴言を吐けたよな……。
今から思えば、若さゆえの過ち、なんだろうけどね。
自分の事ながら、思い出しても恥ずかしくなる。
と、思っていると由紀はあきれ顔でさらにとんでもない事を言い始めた。
「凄く綺麗な娘だったけど、あんな恐ろしい人によく襲い掛かられましたよ。
なんたって、声をかける事すら命がけになるんですからね」
「そうなの!?」
由紀は、余程恐ろしい事を思い出したのだろう、震えながら話していた。
彼女から改めて聞く新事実。
声をかける事すら命がけって、どんな猛獣だよ……。
「……」
小梨は二人の話を聞きに回っているが、その言葉を聞いて顔を引きつらせていた。
「そんなにヤバイ人だったの?」
由紀の強張り青ざめた表情から、ただ事じゃない事を察した。
ノアもたしかそんな事を言ってたような気がする、ヤバいひとだと。
「何のんきな事を言ってるんですか?
――二人は、ヤバイどころじゃないですよ。
真白の令嬢と呼ばれた旧華族の 朽木 怜菜、彼女と並んでヤバイと言われていたのが、真紅の悪役令嬢と呼ばれた、木戸グループ令嬢 木戸 亜由美なんですから……」
由紀は、ヤバいヤバいと、力説するがコッチは其処まで危機感が伝わってこない。
まあ、見た目のイメージカラーが真紅で、何となくヤバいのは知ってたけど……。
「何かあったの?」
「いいですか、あの二人はお互いをライバル視していて、結構色々あったんですよ」
――聞いてくださいよ……」
由紀はそう言うと、あゆむが不機嫌そうにテーブルを指でコツコツつつく中、由紀は顔を歪めながら彼女たちの事を話し始めた。
ヤバい、話してはいけないアノ人の事を話すような感じで……。
長くなったので、いったん投稿です。
残りは早めに出します!