天使いろいろ
「由紀。 いくら何でも、あゆむのアレは無いよな……」
「うん、自分もそう思う」
由紀に例のものを付けさせた後、
オレと、由紀の二人は互いに「うんうん」と、うなずきながら、脱衣所で小梨の事を話していた。
――アイツの倫理や道徳がねじれていると言いながら。
「もっともオレの最初の時は、パニくって話しているうちにアイツに付けられたんだけど……。
――今思えば、絶対に変態の領域だよ」
オレはあの時の思い出したくないオゾマシイ記憶を思い出し、顔を赤らめながら少し表情を歪めていた。
普通、男のあゆむがそんな事をするか? と思いつつ。
「ふ~ん……」
そんな中、由紀はオレの顔をみて可愛い顔に小悪魔のように笑みをうかべ、「でも」、と短く言葉を区切り、
「――荒川さんは、本当はあの人につけてもらって嬉しかったんじゃないの?」
「えっ?」
オレは思わず、彼女のツッコミに思わず表情をかためる。
――絶対にそんなのじゃないと思いつつ。
「その表情みたら、誰でもわかりますよ。
本当に嫌なら、暴れてつけさせないってことも出来たはずでしょ?」
「……そう言えばそうだけどさ……」
由紀はそう言うけどさ、アイツ相手に抵抗なんて……。
――……考えたら、出来たかもしれない……。
あの時、あゆむはオレをバスルームのシャワーで洗い、例のものを手慣れた様子で付けやがった。
もし、オレがイヤなら嫌と言えば、きっとやめてくれたかもしれない……、――けれど、ただ黙ってアイツのされるがままになっていた。
本当にイヤなら、彼女の言うように抵抗できたはずだから。
――それを自分でもしなかったと言うのは……。
「……」
自分でも気が付かなかったけれど、あゆむにして欲しかったのかもしれない……。
――考えたら、アイツに甘えず、自分でコッソリやることも出来たのに……。
「杏子さんて分かりやすいですよね、あの人の事が好きなのが良くわかります」
「えっ?
――オレとあゆむは、そんなのじゃ無いから……」
オレは彼との関係を首を左右に振って否定するが、オレの表情を見た由紀は、
「ウソはだめですよ、耳まで真っ赤ですから」と笑みをうかべながら、更に言葉を継いだ。
「荒川さんが、あの人の事が好きなのを誰が見ても良くわかりますよ。
それに、あの人と相思相愛みたいな感じで、昔を忘れてその体に適応できるなんて凄い才能ですよ」、と可愛い顔に笑みをはりつけて締めくくった。
「才能ぉ?」
由紀にそう言われ、思わずクビをかしげる。
これが普通の天使じゃないのかな?
――ゆうなに至っては、子供まで居た訳だしね。
そもそも普通の天使ってどんなの感じだろ?
「あっ!」
そんな事を思っていると、いきなりの胸の刺激に思わず甘い声を吐く。
気がつけば、由紀が笑顔を浮かべながらオレのバストを正面から揉みやがっていた。
「何を?」
オレは、顔をしかめながら本能的に腕を縮め、胸を隠すしぐさをしていた。
――コイツは油断も隙もあったものじゃない……。
「自分でもその才能に気が付かないようだから、思わずイタズラして分からせてあげただけですよ」
由紀は真顔でそう抜かすが、コイツは酔っ払いの変態オヤジと同じでタダ胸を触りたいだけだろ……。
「――それだけのタメに人をオモチャにするなよ……。
で、結局、何がオレの才能なの?」
でも、一応、聞くだけ聞いておくか……。
聞くだけならタダだし、聞かなきゃバストを揉まれ損だしね。
「まだ気が付かないんですか?」
由紀は、半ばあきれ顔でそう言うと、指をふりながら、さらに言葉を継いだ。
「あなたは自分でもまだ気が付けないようですけど、自然とそんな可愛い反応をできるなんて、
普通の女性より女の子っぽいレアな才能ですよ。
そして、その体に其処まで馴染めるなんて、めったにない事なんですよ」
「そうなの?」
彼女から、改めて聞く天使の新事実。
――全員、自分のような感じだと思っていたよ。
「ボクも普通の天使を何人か見たけど、みんな前の体だった時の本能が抜けきれて居なかったですから。
――自分の場合でも、前の体の時のクセで、この体になってからも あたらしく付き合ってる娘が居る訳だしね」
「つきあってる娘がいるの?」
悪気もなく笑顔を浮かべながら平然と抜かすコイツの爆弾発言に、オレは思わず目を見開く。
――この期に及んでまだそんな余裕があるか? と思いつつ。
「恋愛も自由なら、楽しまないとね。
テヘペロッ!」
彼女は、可愛い顔に舌をだして笑ってごまかしやがった。
――これは確実に後から身に着けた、アザトイ女の武器だな。
今になって冷静に見ると、良くわかる。
「そういう問題じゃないだろ……」
オレは顔をしかめながら一言そう言うと、ため息ひとつはいた。
――自分達は罪人だよ、しかも極刑だよ。 反省はど~なった?
彼女の余りの罪悪感の無さに、思わず、「ハンターさ~ん 此処に反省のかけらも見せない天使が居ますよ~」、と言いたくなってきた。
もっとも、其れを言うと自爆になるから言えないけど……。
「そういう問題です。
――何せ人生は一度きりですから、楽しまないと損です」
彼女は、そうきっぱり言い切りやがった。
どうやら、コイツには反省の文字という物はないようだ。
オレたちは、あの娘たちの命奪ってるから、楽しむとかそんな事言っていい訳は無いんだよ?
「お前は、「楽しまないと損」とかいうけどさ、オレたちの立場判ってるの?」
「立場ですか?」
オレの問いに、由紀は意味が分からないのか、あごに手を当てながらクビをこくんと傾ける。
「そうだよ、オレらはあの娘たちの命奪ってるんだよ。
死んだあの娘たちは、もう恋愛とか楽しみたくても出来ないんだよ?
自分らは、お前みたいに、無責任な事を言ってよい訳は無いんだぜ」
オレは思わず口に出したのは、本心だった。
自分がレイプして死に追いやった、悪役令嬢(木戸 亜由美)も、本当ならもっと色々と楽しみたかっただろうから。
たま……、否。
何時もオレの夢に出てきて色々言ってくるし、昨夜なんかは「素敵なカレと一緒に料理作りたかったのになぁ……」、と、彼女には似合わないジト目でいってた。
こっちはその度に、罪の意識にムネが圧し潰れそうになってくると言うのに、コイツのあけっけらかんとした態度は幾らなんでも無いだろ?
反省や贖罪の二文字は何処へ行ったんだ?
「――あなたはそうかも知れないけど、ボクをアナタやアリスさんと一緒にしないで下さい」
オレに言葉に、由紀は急に真顔になって、自分は違うとお抜かしになりやがった。
この期に及んでマダそんな事を言えるとは、コイツはどんな神経をしてるんだ?
コイツのあまりのふてぶしさに、オレの顔が引きつるのがわかる。
「お前も天使だろ? オレとお前の何が違うんだ?」
天使にされていると言う事は、レイプ殺人と言う凶悪犯罪を犯したと言う事だから。
天使であるコイツも同じ罪を犯しているはずだ。
「あなたはレイプ殺人を犯したと、自覚して居るんですよね?」
オレの問いに、由紀は今までに無い強い視線でオレを見つめ、たずね返してきた。
「……そうだよ……」
オレは顔をしかめ、ポツリ返事を返した。
思い出したく無いけど、アノ娘をゆきずりでレイプし、彼女を死に追いやったのは事実だから。
「だったら、そっちが天使にされているのは自業自得、
ハンターにレイプされて殺されても、それは悪因悪果、因果応報でしょ?」
「……」
彼女にはっきり言われて思わず閉口する。
由紀が言うように、確かにそうだけどさ……、もう少し別の言い方も有るんじゃない?
そんな事を思っていると、彼女はまっすぐな視線でオレを見ながら、
「でも、ボクはあなたとは違います。――自分は濡れ衣(無実)です」
と、口調で迷いなく締めくくっていた。