男なのに
今、由紀のマンションのリビングは凄い光景になっている。
家主の由紀は真っ白なブラとショーツと言う下着姿で、オレの目の前で呆然と立ち尽くし、無言のまま自分のショーツを赤く濡らしている。
一方のオレは、ブラウスがはだけた制服で顔をこわばらせながら、由紀の今風のカワイイ顔を固めている姿をみつめながら、同じく無言で立ち尽くしていた。
「……」
あゆむは二人の光景に流石に言葉が出ないのか、イケメンに半ば呆れ顔を張りつけ、スーツ姿で腕を組みながら、オレと由紀の天使二人を交互に見ている。
見た目は、若妻のオレが親友の由紀があゆむを寝取った現場に押しかけ、
「由紀、これはどういう事なの?」、と、詰め寄っている修羅場のような光景だろう。
もちろん、これは寝取られ現場ではない。
オレが由紀に酔いつぶされ、彼女に押し倒され、寸前であゆむが乱入して、その挙句、彼女の正体が天使と言う事が判り、マサカの事態に3人とも何も言葉が出ないだけだった。
――空気が固まった状態とはこの事だろう。
「助かった~」
そんな固まった場を壊したのは、表情を緩めた由紀の一言だった。
ブラとショーツだけの彼女は、ぺたんと女の子すわりで座り込みながら今風の整った顔の表情を緩め、「ふぅ」と、ブラの上から胸をなでおろし、安堵の声をあげながら、更に言葉を継いだ。
「驚かせないでくださいよぉ。
―― 一瞬、殺されるか、最低でもレイプされると覚悟しちゃいましたよ」
「……」
由紀は、さっきまでの動揺はどこへやら、何時ものように明るくなり、笑顔を浮かべる。
その変貌ぶりに こっちは言葉がでなかった。
「……」
「……」
思わず、オレとあゆむは思わず顔を見合わせながら、うなずいた。
――ソコマデ変われるか普通?、思いつつ。
そんな事を思ってると、彼女はこちらを気にしたのか、表情を少し歪めながら、更に言葉を継いだ。
「今まで全く気がつかなかったけど、杏子さんは天使だったんですね。
――だったら、最初からそう言って下さいよぉ、ぼくも最初からアタックしないか、それか強引に押し倒したのに……」
「……あははは」
「……」
全く悪びれる事も無く、笑顔を浮かべ、ゆびをふりながらあっけらかんと言う由紀に、オレは顔をひくつかせながらも、思わず笑い出す。
あゆむもミケランジェロの彫刻のようなツラに似合わないような、苦笑いをかみころしていた。
――笑うしかない、とはこんな事を言うんだろうなぁ……。
たとえるなら、泥棒に入った先で先客の盗人が居た状況だと思う。
ばったり鉢合わせた際、相手の姿を見て、「泥棒が居る!」
と、ののしる状況だろうか?
彼女の盗人猛々しいを地で行く光景に、オレは毒気を抜かれ、ため息を吐きながら続けた。
「お前も懲りないよなぁ……」
レイプしたから、こんな体にさせられてる訳で。
天使になっても、未だに女性を押し倒そうとするなんて、学習効果と言うものを教えてやりたいよ。
と言うか、違反行為に近くない?
そんな事を思っていると、由紀はまったく悪びれる事も無く、
「恋愛も自由なんですよ、両者合意が有れば問題ないですから」、と笑顔を浮かべながら締めくくった。
「そういうものか?」
オレは思わず、かおをひきつらせた。
絶対違う気がする、そんな事は聞いてない――はず。
「そんなものですよ、考えたら負けです」
由紀は、いたずらっぽい笑顔を浮かべながら、
「アリスさんには子供まで居たようだし、ソコのさじ加減は自由みたいですよぉ」
彼女はごまかすように、そう言うけど、オレが何時同意したっけ?
――確実に同意していない筈。
「オレが、何時同意したっけ?」
「あはは、そう言えば酔いつぶれてたからマダでしたよね……。 てへっ」
オレがクビをかしげながら、思わずツッコミを入れると、由紀は照れ隠しに、いたずらっぽく舌を出してゴマかしやがった。
――確信犯だな、コイツは。
「あゆむ、いいの?」
「構わない。
本来ならグレーだが、彼女のやろうとすることは最初から不能犯だ。
――未遂なら、なかった事として水に流せない事も無い、私もそこまで暇ではないからな」
あゆむは二人のやり取りが、何かのツボにはまったのか、クスクス笑いを押し殺しながら、腕を組みながら答えやがった。
――どうやら、コイツはほかの天使には、結構アバウトらしい。
まあ、そこがあゆむらしいのだけど。
「ごめんちゃい。 今後は気を付けます」
由紀は、舌を出しながら短くそう言うと、オレの方を向き、真紅に染まったショーツの股間を指差した。
「でもさ、由紀。
――コレってどうするの?」
「其れは……」
オレは彼女の言葉に、表情を歪め、思わず言葉を濁す。
そんなもの、自分も2回目はマダな訳だし、正直な所どうしていいのやら。
そんな事を思っていると、
「どいつもコイツも、仕方が無い奴らだ」
あゆむは短くそう言うと、固まっていた由紀をみて、「どうやら初めてのようだな」、と、小さく表情をゆがめ、めんどくさそうにチっと舌打ちすると、イケメンの顔の表情一つ変えず、持ち歩いていたポーチの中から、テッシュの小袋のようなものを取り出した。
「あゆむ、ちょっと、それは何!?」
思わずオレは顔をひきつらせ、小袋を指差しながら声をあげる。
由紀はそれが何か判らないようで、首をこくんと傾げるが、オレは其れが何か判っていた、
――それはお菓子じゃない、例のモノだ。 あゆむに最初つけられたから良く知っている。
コイツは、男なのに何時も持って歩いていたのかよ……。
どういう神経してるんだろ。
「コイツはタンポンだ、貴様も見た事があるだろう」
あゆむは表情を変えず、問いに平然と答える。
――タンポン……、ナプキンよりなお悪いよ。
でも、聞いてるのは其処じゃない、何故あゆむが それを持ってて、それを使って何をするつもりなんだろ?
――まさか、彼が、この娘につけさせる落ちはないだろうけどねぇ……。
コイツならオレへの前科があるし、一応念押しで聞いとくか……。
「それは分かるけど、それを使って、何をするつもりなの?
――その前に、どうして男のあゆむがそんな物を持ってるんだよ?」
オレの表情を歪めながらの矢継ぎ早の質問に、
「昔の抜けないクセでな……」、と言うと、あゆむはイケメンの顔をすこし表情を曇らせ、
「昔、何度か練習もしたが、結局、自分自身には必要な事が無かったけれどな……」
と、あゆむは寂しそうな表情を浮かべながら締めくくった。
「話したくない昔の事ってあるよね」
オレは、タンポンをみたあゆむの表情をみて、なんとなく判った。
これはきっと彼の苦い過去にかかわることなんだろう。
生理用のタンポンは、吸水性が良いから傭兵が銃創出血した時、使うとか昔きいたことがあった。
きっとあゆむは、傭兵として地獄のような戦場をくぐりぬけ、そこを生き延びたのだろう。
その時のクセで、何時敵に襲われてケガをしても良いように血止めとしてアレを持っているのかもしれない。
この前の、ゆうなの一件の手際のよさもそう考えると、納得できる。
――きっとそうに違いない。
おもわず、納得してしまう。
「そんなところだ、詳細は黙秘するがな」
あゆむは苦笑いを浮かべ、そう言うと、
「……この際、仕方が無い。
私が、この娘にコイツをつけさせる」、と短くぬかしやがった。
――オレは、あゆむのまさかの答えに、思わず目を見開いて固まっていた。
ありえないだろ? と思いつつ。
ショーツを赤く濡らした由紀もオレと同じだろう、目を見開いて半ば混乱状態で、
「えっ えっ!? あなたが?」
と、震えながらあゆむに向かい、クビをさゆうにふっていた。
――そりゃ、そうなるよな……。
男が最初の彼女に、そんなものを挿れようとすれば……。
「怖がらなくてもいい。
タンポンも上手く挿れれば、痛くない」
あゆむはそう言うと、北島に歩み寄り、震える彼女の腕をもち、保健の先生のように彼女をどこかに連れて行こうとしていた。
いくら何でも、それはマズいでしょ……。
「あゆむは、この娘にも、つけてあげるつもりなの?」
オレがシラーとして、目を細めながら尋ねると、小梨は、平然と、
「ああ、こんな事はタマにあったからな。
頼まれて何回か挿れてやった事があったから、手馴れたものだ」、と短く答えた。
「……」
彼の答えに、オレは思わず絶句する。
由紀も目を見開いて固まっていた。
オイ……。
何度も、今みたいな事をやってるだと!?
つまり、何人もの女性がコイツの毒牙にかかっていると…。
鬼畜だな……。
「――そんな事はぼくが許さないからね。
例のモノなら、自分も持ってるし」
オレは、そう言うとシラーとした視線で見ながら、由紀をひったくった。
男のあゆむが、アレが来た年頃の娘に例のモノを付けさせようとするなんて、流石に無いよな……
――しかも、タンポンだよ。せめてナプキンにしろよな……。
毎度の事は言え、あいつは倫理や道徳がねじれてるよ。
それに、男のアイツに、天使とはいえ、別の娘に手を出させたくないしね。
そんな事を思いつつ、由紀と二人、奥の風呂場らしきところに向かってゆく。
遅くなってすいません、頑張って続きを書きます!
こうご期待!