目撃
あれから数時間。
ショッピングモールであそびまくったオレと北島の二人は、近場のカフェバーにいた。
「北島~、ちょっと遊び過ぎじゃない?」
「荒川さん、何いってるの? これからが本番じゃない?」
ぐったりモードのオレは制服のまま、イスにだら~んと腰かけながら、飲み物片手にだらしない声を上げると、テーブル超しの彼女は何時ものきゃぴるんなハイテンションで胸元でこぶしを握りながら笑顔を浮かべ、夜はマダマダこれからが本番と言い始めやがった。
「荒川さんが良かったら、こっちはオールナイトもイケるよ」
北島はハイテンションでそういうけど、オレたちは、小一時間はショッピングモールにある衣料品量販店で下着などのウインドーショッピングをした挙句、一時間以上VRのゲーセンで遊びまわったんだけど……。
おかげで、こっちはもうクタクタのぼろぼろ、何となくメンタル、フィジカルともに限界に近い感じがする。
マンガで言うと目がバツになってる状態だろう。
「徹夜で遊ぶっていうけどさ、お前、本気で言ってないか?」
「そりゃ、もちろん本気ですよ~」
オレが試しに聞いてみたら、彼女は笑顔で返事を返す。
――でも、目がマジだ……。
彼女の表情からすると本気でオールナイトで遊び倒すつもりらしい、この娘の遊びにかけるガッツは、感心するしか無かった。
――もっとも、昔も自分も夜通し遊ぶドラ息子だったから、人の事は言えないけどね。
「でも、もうこんな時間なんだ」
オレがふと外に目をやると、店の外は完全に日が沈み、街灯の明かりが、親子ずれや、リーマンとかでまだ人通りの多いショッピングモール内の通路を照らしていた。
こんな時間まで外に居るのは、久々だな……。
何時もは、あゆむが学校まで来て、彼のマンションに連行されるんだけど、今日に限って来ないってどうしたんだろ?
そんな事を思っていると、「荒川さん、見てみて」、と言う北島の声がした。
「一体なに……」
オレは、だらしくなく返事をする。
疲れてる時に何だよ……、こんな時はだいたい下らない事しかな無いんだよね。
――かわいいネコがいたり、イケメンが居たりとか、オレには興味のないばっかりだから。
見るのも面倒だなぁ……。
そんな事を思っていると、由紀は窓の外を小さく指さしながら言葉を継いだ。
「あの人って、荒川さんと何時も居る人じゃない?」
「!!!」
北島のことばにおもわず目を見開き、飲んでいたキャラメルマキアートを噴きそうになる。
同時、脳内に、(げぇ~小梨!!)と言う言葉が響きわたった。
イメージで言うと、三国志の孔明のわなにハマって大慌てする敵の姿が近いだろう。
――まさか、遊びまくったのが彼にバレて、此処まで探しに来ているの!? あとがマジでヤバい、シャレにならない事になってる!!
「一体どこだよ……」
そんな事を思いつつ、窓ガラス越しに、こわごわ彼女の指の方向を見ると……。
「……」
オレは目の前の光景に表情を曇らせ、次の言葉がでなくなっていた。
そこに居たのは、彼女が言うように スーツ姿で、スラっと街灯の下にたたずむ小梨の姿。
――だけど、居るのは彼一人じゃななかった。
彼の隣にたたずみながら、封筒片手にあゆむと談笑して居るのは、漆黒のスーツに身を包み、ロングの銀髪、世の中の美を理想にしたような顔の女性。
瞳の色は紫水晶のような澄んだ紫で、感じとしては、有名な小説のハーフエルフのヒロインと呼ばれそうな雰囲気だから、彼女の事はすぐに分かった。
――先日、家に小梨と一緒に家に来たフェイトだ。
「どうして、あの二人がこんな時間に?」
オレはぽつりつぶやくと、二人の恋人のような仲の良い雰囲気に、やり切れない気持ちになっていた。
――同時に、血の気が引いてゆく感覚も。
考えたら、自分は天使。
つまり元は男だ。
元男と知って受け入れてくれる人が多いとは思わない。
昔のオレでも、付き合って婚約までしていた娘が、私は実は男の娘なんです。と、相手から告白された日には、即座に婚約破棄して夜逃げるだろうし。
あゆむは、オレの事を全てを知っている。
――オレが元男の事や、彼の元の恋人、木戸亜由美をレイプして死に追いやったことまで。
なのに、何も知らないフリをして、オレを自分の恋人のように接してくれている。
けれど、あゆむも、オレみたいに天使じゃない、普通の娘が同時に居たら、普通の娘が良いに決まっている。
自分でもそうするだろうから。
――ううん、むしろフェイトさんのような美しい人なら、オレが普通の娘でもフラれるかもしれない……。
「荒川さん、真っ青だけど大丈夫?」
「大丈夫、だよ」
オレは声を震わせながら、返事を返していた。
今の表情は、きっと北島が言うように、真っ青でひどい顔をしているのだろう。
でも、仕方が無い。
――あゆむに捨てられる事は、ロストエンジェルにされられると言うことだから。
「荒川さん、その顔色それは全然大丈夫じゃないですよ」
北島は、少し表情をゆがめながら小梨をみて、
「浮気するような彼氏なんて、こっちから振ったら良いんですよ」、と締めくくった。
北島はそう言うけど、オレは無言でしょんぼりしながら静かに頭を左右に振った。
そんな事は出来ない、出来るはずもない、と思いつつ。
「ふーん……、――そうなんだ……」
気が付けば、北島は、じと~とした目でオレを見ていた。
――なんとなく、体中にからみつくような視線だった。
「こんな時は、カルアミルクとか飲んで、パーっと騒げば気分も晴れるよ」
「……そう言うもの……?」
「そう言うもの、カルアミルク二人分、スペシャルでお願いね~」
北島はオレの気持ちを知ってか知らずか、笑顔で飲み物を注文をしてきた。
同時、店の中から「はあぁ~い」と間延びした声が聞こえてくる。
どうやら、オレもカルアミルクを飲む事になりそうだ。
――しかし、カルアミルク、って何者だ!?
残りは早いうちに出します。