帰ってきた日常
オレはあの後、学び舎に何とか復学できていた。
暫くの間、無断欠席をしていたので、オカルトマニアの色物教師……、
――もとい、クラス担任から無断欠席の件で多少お小言は頂いたけど、無事クラスに戻れる流れとなった。
どうやら、自分が天使で有ることは、彼女も知らされて居ないようだ。
もしくは、知っていても知らないふりをしているのか……。
彼女は、ゆうなの件も、今回オレと話す際、あえて話題に触れないようにして居たようだし、きっと知らないフリをしてるのだろうな……。
――どちらにせよ、普通の娘と同じように接して貰えるのは助かる。
戻った初日の朝は、クラスメイトからの多少の視線を感じたものの、スグに感じなくなった。
――きっと、ゆうなの一件にショックをうけて、オレ以外にも暫く休んだ娘も居たのかもしれない。
あんな物を見せられれば、仕方が無いけどね。
そんな訳で、オレが戻ってきたクラスは全く変わっていなかった。
イロモノだけの先生達の授業が終わり、放課後になると、由紀たちはキャピキャピ騒ぎ、松本さんは相変わらず、机に伏して山のように寝ている。
そして、ノアも、オレの秘密を知るまえと何も変わらず接してくれている。
今、オレは日が傾きかけた放課後の教室の窓際で、じっとアリスの席を見つめている。
其処にあるのは、事件なんて何もなかったような、平穏が戻ってきた放課後。
――アリスの席はからっぽのままで。
彼女が居た事すら、幻のようだった。
「荒川さん、どうしたの?」
教室の窓際で佇むオレに、笑顔で話しかけてきたのは、北島とかいう栗毛の娘。
いつもキャピルンなグループをつくり、数人集まって大騒ぎしている娘だ、自分には彼女の、あのノリと、あのミーハーな会話内容にはついていけそうにないから、オレから話しかけることはない。
けれど、今日に限って、彼女から話しかけてきた。
どうしたんだろ?
「――アリスさんの事を少しね……、
あの人が居なくなっても、クラスの中は何も変わらないな、
――そう思ってね」
オレは少し表情を曇らせ、含みを持たせながら返事を返す。
――それは、オレの本心だった。
天使一人が居なくなるって、そんな物なの?
彼女は確かに、この場所に居たのに……。
「ん~。 あの人は天使だったのでしょ?
――つまり、殺される為に生かされる訳で、来るべき時が来ただけじゃ無いかな?」
北島は、表情を変えずに、何処かで聞いたセリフをあっけらかんと言い放ち、
「それに、誰が居なくなっても、何も変わらないと思うよ、それがそれが人間だから。
――いちいち気にしていたら、やり切れない」、と彼女は真顔で締めくくった。
「……そう言うもの?」
オレは、彼女の余りにクールな態度に思わずムスリと、表情を歪めていた。
彼女の言うことは、確かに間違っていない。
けれど、自分にはそう割り切る事は出来なかった。
――明日は我が身、かもしれない訳だし……。
「そう言うもの、人は人、自分は自分だからね」
北島は、真顔のままそう言うと、軽く首を傾げ、
「荒川さん、気にしすぎて雰囲気変わってない?」、と尋ねてきた。
「変わった?」
「うん、落ち着いたと言うか、雰囲気が大人びた感じがする。
――もしかして、彼氏と何かあった?」
北島はいたずらっぽく尋ねるけど、こっちは実際、何かあったどころじゃ無いんだけどね。
短期間にアレだけの事を経験したら、そりゃ変わるよ……。
「ちょっとね……」
オレはあった事を正直に話すわけにもいかず、表情を歪めながら言葉を濁した。
――まさか、オレが天使で、しかもあゆむとあんな関係になってるとは、言えるはずもない。
「――ふ~ん……」
北島は、小悪魔のような笑顔を浮かべそう言うと、
「荒川さん、こんな時は、町でパーっと騒いで気分転換でもしない?
――何時も暗い顔してると、貴女のかわいい顔も台無しよ。 暗い顔していると、うちの委員長みたいに魅力半減よ」
と、彼女は笑顔を貼り付け、恐ろしいことを言い放った。
――いろんな意味で……。
「た、たしかに気分転換は必要だよね」
オレはひきった笑顔で返事を返す。
怖いけど、彼女の言うことは的を得ている。
――ノアも磨けば光り輝くのに、いつも暗い顔をしているから損してるからねぇ……。
「そうと決まれば、早速町に遊びにでも行かない?」
彼女は笑みを浮かべ、小走りで教室のドアに向かうと、「早く早く」、とオレを手招きしてきた。
オレは、彼女の強引な押しに、少し呆れつつも、「じゃ 行こうか」、と笑顔で返事を返す。
――考えれば、これは女を磨く一環としては、自分にとってはチャンスだろう。
このままじゃ、自分を磨くチャンスはなかなか来ないわけだしね。
そうなると、何時までたってもあゆむと釣り合うようになれないから。
そう思いつつ、彼女と二人、町へ繰り出してゆく。
切りが良いのでここで投稿。
早いうちに続きを載せます。