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夢の終わり

 優衣と優奈の二人を探し、深夜の街を彷徨っているオレと小梨。

 街を夜のとばりが包み込み、オレが良く知っている筈の街並みも何時もより不気味に見える。

 それは自分にとって魔界のように思えた。


 「あゆむ、こんな場所大丈夫なの?」


 そんな不気味な闇の衣が辺りを覆う薄暗い街並みの路地に、時折、生ぬるい風が吹き抜ける中、オレはあゆむの腕にぐっと抱きつき、きょろきょろ辺りを見回した。


 「――この雰囲気、確実にヤバいよ……」


 震えながら口を開く自分の目に映るのは、茶色の木造平屋の廃墟だらけの裏通り。

 赤く点滅する蛍光灯に照らされたスラムの様な街並みは、何時もより更に不気味に映っていた。

 そして、薄汚れたガラス窓には、可憐な栗毛の少女の自分が顔を引きつらせ、イケメンの腕に必死で抱きついてるのが見える。


 「お願いだから、一人にしないでよ」


 オレは泣きそうな声で、あゆむの顔をじっと見ながら、ぽつり呟いた。

 ――本心だった。


 ここは街の中心部のから少し離れ、昼間でも人通りが無く、再開発に引っかかっている空き家だらけの場所だ。

 夜だと更に不気味な場所で、夜な夜な刑事と凶悪犯が本物のケイドロをして、女性の悲鳴や すすり泣く声が聞こえそうな所。

 自分も良く知っているけど、色んな意味で恐ろしい場所だ。

 ――ヤバそうなので、以前の自分が昼間でも絶対に近寄りたくない場所だった、

 この非力な少女に変えられた今なら尚更だ。

 体中にカマボコを貼り付け、飢えたノラ猫の群れの中に入るような物だから。

 想像すらしたくない、恐ろしい光景だ。


 「大丈夫だ、杏子」


 LEDライト片手のあゆむは此方を一瞥し、イケメンの顔に真面目な表情を浮かべ短く言うと、

 「お前が、私の傍に居る限りは大丈夫だ……」

 と、言いながら例の道具(ピッキングツール)で、廃屋の玄関扉の錠を手慣れた様子で開け、中をライトで照らしてゆく。

 オレが安心なできるような根拠は無い……否。

 ――有った。

 タマに出会う胡散臭い男達も、小梨の鋭い視線で一瞥すると、ヤクザの大物のような威圧感に負けたのか、表情を変えて回れ右して逃げてゆくから。

 どちらが犯罪者か判らない様な状況だ。


 「じゃ、絶対に離れないからね」

 

 オレは恥ずかしそうにそう言うと、更にギュっと彼の腕にしがみ付き、体もあゆむに寄せていた。

 ――華奢な自分の体をよせると、悔しいけど大樹に身を寄せる様な安心感が伝わってくる。


 「ああ、それでいい」


 あゆむの方は、オレが震える体を寄せてる事に別に気にする気はなさそうだ。

 オレに一瞥もせず、真面目な表情ひとつ変えずに淡々と廃墟を探してゆく。

 ――だけど、この様子は傍から見たら、アツアツのカップルがいちゃつきながら、肝試しに来た様な感じだろう。

 やってるオレも、顔が赤くなるのが判る。

 ――しかし、ここは背に腹は代えられない、恥ずかしさより安全優先、命最優先だから。

 

 「……ここでも無いか」


 オレがしがみ付いたままの小梨は、家の中が空っぽの事を確認すると忌々しそうに、表情を歪めた。


 「あゆむ、此れで、一体何軒目なの?」

  

 オレは体を寄せたまま、思わず、こなしの顔をジト~っと見ながら呟いた。

 ――このやり取り、一体何回目だろう?

 ゆうなと、ゆい、二人を探す為に居そうな場所をアタリをつけ、探す事約半日。

 既に深夜はとうに過ぎ、もう少ししたら夜明けに成る位の時間だった。


 「何軒は問題ではない、見つかるまで探すまでだ」

 

 小梨は険しい表情に強い口調で言うと、駆け足で次の建物を探してゆく。

 自分たち二人は、既に、彼女(ゆうな)たちの居そうな場所は既に探し尽くしたかもしれない。

 それでも、未だに見つかって居ない。

 ――それは、つまり……。


 「あゆむ、確かにそれはそうだけどさ……」


 オレは表情を曇らせ言葉を濁した。

 ――何となく、自分の中に嫌な予感が沸き起こっていた。

 此処まで見つからないという事は、もう既に……。

 それは、あゆむも一緒だろう、自分の体に伝わる彼の鼓動が何時もより早く、腕が汗ばんでいるのが判ったから。


 「あゆむ、見て!」

 「何だ?」


 そんな中、オレが指さした方向には、遠くには、昨日の真っ白なホテルが小さく見え、山の稜線がうっすら明かりが見え始めていた。

 それは、夜明けの光だった。


 「――もう、こんな時間なのか……」


 あゆむは朝焼けを忌々しそうに見つめ、表情を忌々しそうに、グニャリ歪めた。

 それが、自分には何を意味してるのか分からないけど、彼にとって絶望的な何かが起きた事だけ察することは出来た。

 

 「……そろそろ更新の時間だ……」

 

 あゆむが、重苦しいトーンで一言いうと、昇り始めた朝日が、群青色の空にビルの谷間を走る緋色の帯を描き、美しいコントラストが浮かび上がる。

 人通りもまばらなスラム街の朝焼けの風景は朝もやと静寂に包まれ、自分達の重苦しい空気とは対照的に皮肉なほど美しかった。


 ――チンコン~♪


 教会の礼拝堂の様な静謐(せいひつ)の空気が満たす朝の街中。

 そんな重苦しい空気を打ち破る様な、ベルのような軽やかな更新を知らせる音が響く。

 

 「くそっ! くそっ クソッ!!」


 スマホを取り出し、画面を見た小梨の表情が変わった。

 険しい顔を青ざめ、肩を強張らせ、歯を食いしばっている。

 この更新が、何を意味するのか彼には良く判るのだろう

 表情から、怒りと憤りとやるせなさがマグマのように湧き出しているのが判る。


 「あゆむ?」


 オレは思わず、あゆむの手を振るわせるのスマホの画面を覗き込んだ。

 一体何が映っているんだ?、と、思いつつ。


 「画面見せて貰うよ」


 明るさに慣れない自分の目には、画面が明るすぎて良く見えないけど、

 ・・・祭り開催~と言うタイトル動画の画面に、


 「まってました」

 「88888」

 「ざまぁ~」

 「蠅 神!」

 「犯罪者マザー、ザマー。

  因果応報、自業自得~」


 とニ○ニコ動画のように、UP主をほめたたえるデロップが走り去ってゆくのだけが見えた。

 後ろには何かの動画が有るのが見えるけど、オレには、その時点で文字しか見ることが出来なかった。


 「一体何なの?」


 目が慣れ、よく画面が見えるようになった動画。


 「……」


 オレはその映像に言葉を失った。

 その画面に映っていたのは、目を覆いたくなるような光景。

 其処には蠅の仮面をつけた男が、暗い室内で床に横たわる銀髪の全裸の女性を楽しむように陵辱している。

 まるで、レイプものAV……、違う。

 もっと過激な光景で、まるで成人漫画の一場面のようだ。

 現実とは思えない光景、――でも、これは現実だ。

 

 「えっ、 ゆうな?」


 小梨はイケメンに似合わない凶悪な形相で画面を凝視する中、オレは思わず声を上げていた。

 ――その辱めを受ける女性は、口をテープで叫べない様に塞がれている、ゆうなだとすぐに判ったからだ。

 透き通るようなプラチナブロンドの長い髪、そして美の理想を体現したような整った顔、なにより、特徴的な虚ろな焔を秘めた赤い瞳だったからだ。


 「どうして!?」


 彼女は何故か、後手に縛られたまま抵抗する素振りは無いようだ。

 しかし、その理由はすぐに判った。

 画面の端の方に、その答えが映し出されていたから。

 ――鬼畜、悪鬼の所業としか言えない光景が。


 「ママ~~~、ママ~~!!」


 画面の中、少女の悲痛な悲鳴が窓の金網越しの室内にエコーする。

 その少女も、自分には優衣だとスグに判った、髪の色や顔立ちが母親そっくりだから。

 そして、彼女の後ろには、蠅の仮面をつけ、優衣の首元に鈍色に光る死神のナイフで狙いをつける、もう一人の人物。

 ゆうなが少しでも抵抗の素振りをみせれば、即座に幼い灯火は消え失せるのはオレでも容易に想像はついた。


 「ママ、助けて!!」

 「……」


 幼いながらに必死で金網を揺らすゆいに向かい、ゆうなは天使の様な優しい表情で微笑む。

 そして、次の瞬間には鋭い視線で、優衣に刃物をあてがう仮面の人物をにらみつけていた。

 視線で殺せるなら、殺せるほどの殺意の籠った視線だ。

 ――これは、娘と仮面の男達へのメッセージだろう。

 娘には、「私のことは心配しないで、きっと貴女だけは護ってあげるから」

 男達には、「……自分は好きにしなさい……でも、その代わり、娘には手を出さないで……」

 と、言う彼女の切なる思い。


 「……」


 二人に無言のメッセージを送ったゆうなは、仮面の男から顔を背け、目をギュッとつむった。

 涙が瞑った目から涙がポタポタとこぼれ落ち、床を濡らしてゆく。

 その非道の光景に、自分の頬に熱い物が流れるのが判った。


 「何を呆けている杏子っ!」


 余りの光景に、オレは呆然と画面を見て居たようだ。

 あゆむの怒号で一瞬にして、こっちの世界に引きもどしてくれたようだ。

 だけど、未だに自分の心臓がバクバク言って居るのが判る。


 「……」

 「この場所はどこか判るか?」

 

 小梨の問いに、オレは首を縦に振った。

 画面の場所は、自分が見慣れた場所だったからだ。

 オレは、余りの偶然に息を落ち着けるよう深呼吸一つして、あゆむに場所を伝えた。


 「ここは見たこと有る。

 画面の場所は……フェリミスの校内の美術室だと思う」

 「フェリミスの校内!?」

 「うん、間違いない。

 ――画面の端に映る壁の掲示物に見覚えがあるから」


 画面の場所は、フェリミスの校内の美術室。

 まさかの場所だった。

 ――廃屋、空き家を中心に探していた自分達の盲点になっていた場所だ。

 夜の校内は無人、広い敷地、さらに防音の効いた美術室なら少しくらい騒いでも見つからない。

 もしも見つかっていても、美術の一環、演劇の練習と思われるだろう。


 ――何より、勝手に入る訳には行かないから スルーして居た場所だ。


 街中の完全な死角だった。

 そして何より皮肉な事に、この近くだった。


 「行くぞ、杏子!」


 あゆむは何処かに連絡をしながら、オレの腕を持ち全力で走り出した。

 自分とあゆむの二人は教室へ向かってゆく。

 ――ただ、二人の生存を祈りながら。

 街には、嫌な生暖かい風が吹き始めていた。

キリが良いのでここで投稿です、残りは頑張って早目に書きます!


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