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責任の取らせ方

 「歩」

 「何だ、杏子?」


 薄暗いホテル最上階。

 幻想的な夜景が見える静かな店内で、歩とオレのデートは続いていた。


 「歩には、何かやりたい事でもあるの?」


 オレは、ふと気になった事を窓際の席に向かい合う様に座っている歩に尋ねていた。

 理由は無い、優奈の話しを聞いたからだろうか?

 なんとなく、コイツの灯火が気になってしまっていた。


 「……私の生きる目的か?」

 「そうだよ、変態的に仕事熱心なのも、何か理由が有ってだろ?」


 オレの意地の悪いヤブから棒のような質問に、歩はイケメンに似合わないように目を泳がせ、一瞬言葉を詰まらせる。

 これは今考えているんだろう。

 ――見れば判る。


 「――黙秘する……」

 

 やはり……。

 オレが思ったように、彼から、予想通りぶっきらぼうな答えが返ってきた。

 コイツは秘密主義らしく、自分のことはアンマリ喋らないからな……――まあ、今に始まった事じゃ無いから良いけどね。


 「――どうせ出世くらいだろ? 

 あれだけ調べるのにも熱心だからな、ホント歩の勤勉さに頭が下がるよ」


 シラーとした目で歩を見ていると、横から子供のような高い声がした。

 

 「まあまあ、お嬢さんに教えてあげても良いじゃないですか?

 

 おれが振り向くと、いつの間にか其処に居たのは、茶髪でスーツ姿の笑みを浮かべる痩身の男。

 年の頃は、小梨とほぼ同じ位、20前半だろうか?

 顔のつくりは悪くないが、糸目で吊り目、まるで狐のような男。

 ……そして何より、左手の黒い指貫手袋がひっかかる男だった。

 しかし、こんな場所まで手袋を外さないって、ドンだけ無作法なんだよ……、それかその下に何か隠したい何かがあるか。

 ――多分後者だな……。


 「あんな立派な答え、隠すものでも無いでっしょ?」


 歩から北村と呼ばれた男は、漫才でもするような軽い口調で小梨に気安く語りかけるが、彼を見る小梨の視線は、恐ろしいほど冷たい視線になる。

 丁度、最初オレとあった頃のような、人間を全否定するような雰囲気だった。


 「――北村……何の用だ?」


 「小梨さん、そんな怖い顔をしないでくださいよ、

 ――見かけたので、ただの挨拶ですよ」


 北村はそう言うと、歩の鋭い視線をすげなくかわし、腕を組みながら楽しそうに更に続けた。


 「小梨さん……この前、酒の席で溢してたじゃないですか、

 ――『私の目的は、ある犯罪者をこの手で殺す事だ』って」


 歩は彼の言葉を聞いた瞬間、表情が変わる。

 彼は顔をしかめ、複雑な表情を浮かべながら、重い口調で語り始めた。

 

 「――ああ、確かに言った。

 ある男をこの手で始末する事が、今、私の生きる目的だからな……」


 歩の口から始めて聞いた気がする。

 ――『ある男を始末する』と。

 それが歩の目的、そして……その相手と言うのは……。

 

 嫌な予感がオレの脳裏をよぎり、顔が強張り、背中に冷たいものが走り抜ける。

 自分でも脈が速くなるのがわかる。

 ……これはヤバイ、と本能が叫んでいた。


 「……だが、殺すだけが方法ではない」


 小梨はそう言うと、フッと表情をゆるめ、

 

 「――始末するなら、殺さなくても幾らでも手段はある。

 死んでしまっては、償わせる事も出来ないからな……――だが、どういう形であれ、何時までかかろうと、必ずヤツには償わせるつもりだ」

 

 小梨はちらりオレを見た後、遠い視線でゆうなたちを見つめながら、強くそう言い切った。

 これが、彼の本心だろう。 生かさず殺さず償わせる。

 ――でも、これが優しい判らないけど……コイツに殺される事は無さそうだ。

 そう思うと、オレは少しだけ安心して胸をなでおろした。  

 同時に、コイツが執念深くネコのように、獲物をいたぶる悪役令嬢性格なのも改めて判った。

 もっともそれは、今更だけどね。


 「少しがっかりだなぁ……、鬼と言われた貴方がそんな事を言うとはねぇ……」


 彼の言葉を聞いた瞬間、北村は肩をすくめて冷たい笑みを浮かべていた。

 冷酷とも言える表情で、糸目を更に細め歩を見下げる。

 ――まるで勝ち誇ったように。


 「昔の小梨さんは、もっと恐ろしかった。

 怒り、憎しみ、得体の知れない負のオーラの様な殺気を、何時もはなって居ましたからね。

 もっとも、自分が言えた義理じゃ無いですけど、――だから、いい友達になれそうだったんですけど……」


 「……黙れ……」

 

 歩は強くそれだけ言うと、三白眼になり押し黙る。

 だが、底知れない殺気を放っているのが雰囲気で判った。

 二人の張り詰めた異様な空気に、傍に居るオレまで息苦しくなる。


 「――冗談ですよ、小梨さん睨まないで下さい。

 しかし、あの一家微笑ましいものですね」


 北村は冗談交じりに、手を広げ、小梨の視線をさらり軽く流し話題を変えた。

 ……でも、目は笑っていないようだ。


 「母親に無邪気に甘える娘、可愛いものですね。

 アレが無償の愛という物でしょうか?」


 彼が優奈達の方を見ると、抑揚をつけず、棒読みした。

 まるで感情が篭らないボカロのように。

 彼の視線の先には、優衣が母親に甘え、そして、娘に優しい表情で微笑みかける優奈が居る。

 そしてその様子を穏やかな表情で見ている芋男。

 まるで、理想の家族を絵に描いたような幸せそうな光景だった。


 「『家族なんぞ、無理矢理繋がされた迷惑なあつまり』

 そう言っていた、お前がそんな物に興味が有るとは意外だな」


 北村の思いも寄らない言葉に小梨は目を細める。

 彼の始めてみる態度に、驚きを隠せないような表情だ。


 「暖かい家族……一応興味はありますよ。

 知的好奇心として――興味だけは……ね」


 北村はそう言うと、腕を組み、今まで浮かべていた笑みを止めた。

 そして、真顔で遠い過去を思い出すような表情を浮かべていた。

 

 「やはりか……北村、お前らしいな」


 「ふっ、小梨さん、――それはあなたも同じでしょ?」


 真顔な小梨の問いに、彰は口角を緩め、明らかに作り笑いと思えるように笑顔を作っていた。

 その瞬間、コイツはいけ好かない奴だと思った。

 その笑顔は何かを隠すものだと感じたからだ。――理由は無い、ただ本能的にコイツは何かを隠している。

 自分の勘がそう言っていた、ダークサイドに居た人間だから判る天性だ。

 ――コイツはオレと同類、闇の住人だ。

 

 ううん、違う。

 

 多分、コイツはオレよりずっと深い闇に居た、地獄の住人。

 人をムシケラ程度しか思わないような暗い焔を目に浮かべていた。

 ――コイツなら、法に触れないなら、何でもやるだろう。そんな感じの奴だ。

 違う、捕まらないなら、何しても良いという感じだろう。


 北村のヤバイ雰囲気に、思わず冷たいものが背中に走り抜ける。

 コイツはヤバイ、此処に居たらヤバイ、と脳内にサイレンが鳴り響く。

 思わず逃げたい衝動にかられる。


 「ママ~だっこ!!」


 そう思っていると、純粋無垢に甘えていたゆいがゆうなのリストバンドを引っ張っぱり、彼女の腕の刻印が一瞬露になる。

 だが、優奈は気が付かないようだった。

 事も無げに、バンドを元に戻してゆく。


 「生意気な――天使の分際で子供ガキかよ……」


 その瞬間、彼のゆうなを見る糸目が一瞬、邪悪に開く。

 その時、彼が無意識のように呟いた言葉がなぜか耳にさわった。

 そして、ほんの刹那、彼は彼女達を凝視していた。

 「……」

 (犯罪者の分際で暖かい家族か……、クソっ……幸せにさせるかよ)

  かれの冷酷な表情を一瞬みると、声なき声でコイツがぬかした気がする。

 

 「挨拶が後になってすいません。可愛いお嬢さん。

 私は北村(きたむら) (あきら)。 ――彼の同僚です」


 そう思っていると、奴は、柔和な顔に笑顔を浮かべ会釈してきた。

 それは、上から下まで視線で舐められるようない やらしい笑みだった。


「わ、私は荒川あらかわ杏子(きょうこ)です」


 オレは軽く会釈して返事を返す。

 ビビるのを悟られないように。


 「杏子さんか、……小梨さんにぴったりな可愛い娘ですね。

 ――嫉妬ちゃしそうだな」

 

 彰は冗談めいて口角をゆるめた。

 だが、オレはなぜか心臓を掴まれた感じがして、思わず震えが出てきた。

 判らないけど、動物的防衛本能だった。


 「ごめんなさい、ちょっと其処まで……」


 気が付けば、オレは彼に一礼すると思わず席を立ち、

 真っ青になって、スカートの裾をもって「まて、杏子」と言う歩の制止を振り切り早足で店を後にしていた。

 ――何故か判らない、ヤバイと本能が叫んでいた。


 ここに居たら……――確実に死ぬ、と。

長くなったので、一旦投稿です。

早いうちに残りを投稿します。


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