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 薄暗いホテルの店内。

 歩の視線の先に居たのは、銀髪痩身の美女、優奈(ゆうな)だった。

 そして、彼女の隣に居るのは、年のころ20代後半のさえない男。

 男の印象は、中肉中背でニキビ跡だらけ、男爵イモにクリクリとした目を着ければそんな風になるのだろうか?

 見た目、野球で捕手でもやってそうなイメージだ、彼のあだ名はドカ○ンと呼ばれて居たに違いない。 

 優奈は、そんな芋の様な青年のたどたどしいエスコートで店の中を歩いている。


優奈(ゆうな)の隣に居る男は山田、私の同僚だ」


 歩はそう言うと、イケメンにお似合いなクールな表情のまま彼に向かい軽く会釈する。

 ――だが、向こうは余裕が無いのか此方の事に気が付かないようだ。

 山田は全く余裕の無い、一昔前のロボット様なカチコチの表情、動作で優奈の手を引いていた。

 こんな場所は、苦手が良く判る。

 ――それか、余りのゆうなの美形に気後れしてるか……。 

 アイツのスケベそうなツラから行くと、多分そっちだな。


 「……へぇ……アイツがねぇ……」

 

 オレは、余りの不釣合いな光景に思わず目を細め、呆れ顔でため息を吐いた。

 幾らなんでも、アレは無いだろ、と思いつつ。

 

 「――しかし、あの二人は凄まじい光景だよな」

 

 一言で言うと、プラチナブロンドの美女の優奈と、ブサメン男のありえない組み合わせ。

 ――どう考えても、割れ鍋に有名ブランドの鍋の蓋のような不釣合いな光景だった。

 ぱっと見たら、デート商法の真っ最中かもしれない。

 詐欺の美人局をする優奈にカモの山田、どう考えてもその方が確実にシックリくる。

 しかし、彼女は嘘偽りの無い、心からの穏やかな笑顔を浮かべている。

 ――それは、彼女の始めてみる表情だった。


 「優奈はアイツに連れられて、チョクチョクこの場所に来ているそうだ」

 「へぇ、プロポーズか何か?」

 「そう言う噂だ。

 ――だが、今回もあの様子じゃ不発に終わりそうだがな……」


 歩はニヤリと表情を緩めると、(山田)に向かい軽く頑張れと言う感じでガッツポーズをした。

 ――だが、向こう(山田)は余裕が無いらしく、全く此方の事に気が付かない。

 山田は初めてのお見合いの時の様に、顔を真っ赤にして優奈の顔を見つめている。

 当の優奈の方は優しい表情を浮かべたまま、沈黙を守っていた。


 「……こりゃダメだね」

 

 オレはニッチもサッチも行きそうにない光景に思わず呟く。

 最後の一押し、ソコはアイツが頑張らないと先には進まない。

 あの様子じゃ二人は全く進まないのは自分でも判る。

 でも、あんな優しい表情の優奈は初めて見たかもしれない。


 「だろうな、奴は押しが足らない。

 彼女も告白されるのを期待しているのが判らないのか?

 ――まあ、あれがアイツの良さかも知れないがな」


 小梨は目を細め、サラリと毒を吐きながら更に続けた。


 「しかし、優衣も一緒だと、ほほ笑ましい物だな。」

 「優衣ちゃんが何処に?」

 「あそこだ」


 歩は目でオレに合図を送る。

 彼の視線の先には、優奈の足元には先日の銀髪の幼女(優衣)が居た。

 彼女は黄色いワンピース着て、優奈の足元をちょこちょこ歩き回って、時折『ママ、ママ』と言いながら彼女のドレスの裾を引っ張っている。

 時折、幼女に微笑みかける銀髪の優奈。

 たしかに、歩が言う様に微笑ましい光景だった。


 しかし、同時に浮かんで来る素朴な疑問、いったいあの子は誰の子供なんだろ?

 ――まさか、優奈の子供って事は無いだろうし……。

 彼女の子供としたら、幾らなんでも若すぎるよ。


 「あの娘は優奈とよく似てるけど、あの子は優奈の妹なの?」

 「違う、天使(エンジェル)には妹は居ない。

 あの娘は優奈の娘だ」


ふと気になった事を小梨に尋ねると、彼は目を細めトンデモナイ事をサラリとほざかれた。

 ――優衣が彼女の子供だと。


 「マジかよ~~~!!」

 

 トンデモナイ事実に思わずオレは固まりそうになる。

 アレは幾らなんでも、若すぎるでしょ?

 優奈は見た目、自分とあんまり変わらないのに。


 「――あの娘に子供なんて居たんだな……」

 「オカシイか?

 彼女は天使になっても、持ち前の頭のよさと警戒心の強さで生き延びて数年らしい、不思議では無いだろう?」


 歩は彼女に子供が居る事に当然の事の様に、表情一つ変えず続けた。

 そう言われると、確かに不思議ではないけど……。


 「そうなると、彼女は見た目よりずっと年上なの?」


 オレは思わず歩に尋ねてみた。

 見た目が若く見える人も居るからねぇ……。

 多分そうだ、あの賢者のような落ち着いた雰囲気は子供のものじゃないし。

 ――もっとも、自分達天使は中身と肉体年齢は結構差があるんだけどね。

 

 「彼女の肉体年齢は、……確か今は17歳相当の筈だ」

 「じゅ、17……」


 歩の返事に、オレは思わず声を詰まらせる。

 さすがにそれは予想外だった、最初に聞いた自分の16歳と殆ど変わらない。

 多分、彼女は20は軽く超えてると思ったのに……。

 ――じゃあ、優衣は何歳……。


 「じゃあ、子供は?」

 「アイツの話では、まだ4歳の筈だが」

 「おぃ…」


 オレは彼の凄まじい答えに、目を見開いたまま思わずフリーズしそうになる。

 ――4歳だと!?

 

 「杏子、そんなに驚く事でも無いだろう?」

 

 絶句して次の言葉が出そうに無い自分にむかい、サラリと答える小梨。

 此れを驚かないでか……。


 「だって、優奈の年齢であんな大きな子供が居るんだよ……」


 彼女の年であの子供が居る。

 脳内でパチパチとソロバンをはじいてみた。

 ――17-4=……。

 ――計算するまでも無く、確実にヤバイ年齢だ。

 つまり、彼が最初の()()()()年齢を考えると、道徳が裸足でドカドカ逃げ出し、倫理が音を立てて崩壊し、常識が完全にひっくり返る感じがする。

 中身から考えたらセーフだろうけど、見た目は確実に児ポ法に掛かってるよ。


 「普通、アレはアウトと言うんじゃない?」


 オレは凄まじい光景に思わず表情をゆがめた。

 今更ながら、小梨の昨夜の件にしろ、こいつ等は倫理やら道徳が大崩壊してやがる。

 ――もっとも、レイプ犯で天使にされた自分が言えた義理じゃないけど。


 「あの芋凄まじいロリ、いや此れはべドだよな……。

 ――あの男は権力をかさにきて、嫌がる彼女を無理矢理押し倒したんだろ。

 どうせ、お前も同類だよなぁ」

 「な……」


 オレのジトッと歩を見つめ放たれる言葉に、彼はイケメンな顔も台無しにして思わず固まる。

 ――やはり、アイツと似たもの同士、同じ穴のムジナだな。


 オレの脳内イメージに、


 「いや、ヤメテ そんなの無理。

  怖いよぉ~~!」


 とベットの上で銀髪を振り乱し、涙を浮かべる華奢な体の幼い優奈に向かい、


 「はぁはぁ……、お嬢ちゃん。 し、死にたくないなら、オレのペットになりな。

 お前の生殺与奪はオレの思うままだ」

 「はい……」


 そういいながら、涙を浮かべる幼女の服を、むりやり脱がさせる芋の姿が浮かんできた。

 ――鬼畜だな。

 一瞬、脳内に浮かんできた児童ポルノのような非道なイメージに、思わず表情を歪め、義憤がめらめらと湧き出しそうになる。

 ――この(変態)を除かねばならぬ、と。


 「天使には人権は無いから法は犯してないけど、普通なら児ポ法にかかってるよ。

 そう考えると、あの芋男は鬼畜、正に人間のクズ確定だな。

 これぞ正しく、野放しにして置いたらヤバイ人間だろ?」


 「強姦魔の貴様が言うな」


 毒舌を吐くオレに向かい、小梨は表情を歪め、真顔でモットモな意見を抜かした。

 言われてみれば確かにそうだけど。

 

 「アイツもゆうなが天使で有ることは知っているが、ムリヤリではない」

 「本当ぉ?」

 「本当だ。 あれは彼女が強く望んだ事らしい、『貴女の子供を産ませて欲しい』と」

 「絶対にあやしいなぁ……」


 オレは目を細め、即答する。

 ――確実にウサン臭ぇ。

 「本人が強く望んだ事」って手垢が付くくらい、使い古された常套句だよな。

 追い込んで選択肢を無くし、本人に決めさせる。

 ――特攻の出撃と同じで、よく有るパターンだよ。

 そう思ってると、小梨は更に真顔で続けた。


 「山田と優奈は雪山で二人して遭難して、その時に深い絆が出来たそうだ」

 「へぇ……。 

 その時に、()()()を共にした繋がりが出来たと言う訳ねぇ……」


 オレはやっぱりと思い、目を細める。

 

 「――やはり、確信犯だよな。

 ワザと遭難して、逃げ場の無い密室の中で既成事実を。

 まったくもっての外道だな」


 アイツは鬼畜確定。

 少女の敵。

 セーラー服を着た連中に、お仕置きしてもらわないと。


 「杏子ちゃん、それは違うわよ。

 あの人はそんな人じゃないわ」


 とそこに、ムッとした表情の優奈も腕を組みながら、会話に加わってきた。

 いつの間にか、近くに来ていたらしい。

 

 「私があの人にお願いしたのよ、……無理を言ってね」

 「優奈が?」


 含みのある表情で真相を話す優奈。

 オレは予想外の真相に驚きを隠せなかった。

 彼女から改めて聞く事実。

 マサカ、本当に彼女からお願いしたとは予想外だったよ。


 と、思っていると、彼女は整った顔に遠い目をしながら続けた。


 「そうよ、転落した車内からあの人は命がけで私を抱きかかえ、雪山の中、麓まで降りてきたの。

 ――本当はあの人……」

 

 気が付けば、優奈は整った顔に寂しそうな表情を浮かべながら更に続ける。

 

 「……でも、あの人に命を助けられたのよ。

 あの人の手に有る傷はその時のものよ」

 「あの男がねぇ……」


 彼女に言われ、彼の手をよく見ると、彼女の言うように、たしかにザックリ縫われた痛々しい傷があった。

 確かに、オレが思うように下世話な関係じゃなかったみたいだな。

 ほんの少し反省。


「その後、私の方から、あの人にお願いしたのよ」

 でも、最初は何度も断わられたわ」


 優奈は、少し恥ずかしそうに語る。

 ――そりゃそうだ。

 ローティーンの娘にせがまれたら、普通は断るよな。

 炉裏じゃない限り。

 そう考えると見た目と違って、あの芋男は意外とマトモなのかもしれない。

 ――性癖の限りでは。 他は知らないけど。


 「ママ~、だっこ~」


 そう思っていると足元にいつの間にか、銀髪の幼女が居た。

 ゆうなの裾を引っ張っぱる、あどけない表情の銀髪の幼女(優衣)

 この子も母親を追って、いつの間にか近くまで来ていたみたいだ。


 「はいはい、すぐにしてあげるわね」


 ゆうなは優衣を優しく抱きかかえ、彼女に微笑みかける。

 それはマリア様の様な優しい笑顔だった。


 「この娘が今私が生きる意味よ。

 ゆいを護るためなら、何も怖くは無いわ」


 気が付けば、ゆうなは優衣を澄んだ、そして力強い瞳で見つめていた。

 以前、屋上でみせた表情だ。


 「何も怖くないの?」

 「そうよ、何も怖くないわ。

 たとえ私が殺されても、この子が助かるなら本望よ」


 優奈は澄んだ瞳で迷いなく言い切った。

 ――自分よりこの子の命が大事だと。

 彼女の凄い覚悟に、オレは次の言葉が出なかった。

 ……自分にはそんな物は思いつかないな……。


 「――じゃ、お二人を邪魔したら悪いから、私は失礼するわね」


 彼女は優衣を抱きしめ、天使のような優しい、けれど何かを護ろうとする力強い笑顔を浮かべてながら、芋の方へ戻っていった。


 でも、それは奇妙な光景だった。

 優奈が天使という存在じゃなければ、仲睦まじい一家の幸せ一杯の光景だろう。

 けど、彼女は天使、何時か殺される存在。

 この幸せは、何かの拍子に直ぐに壊れてしまう儚い幻の光景だ。


 「何を見ているんだ?」


  ぼ~っと彼女達を見ていたら、歩が話しかけてきた。


 「幸せそうな表情だとおもってね。

 ――何時か殺される天使でもあんな表情浮かべれるんだね」


 優奈の表情は不思議だった。

 明日の自分の命さえ判らない天使という存在。

 なにの、あの人はどうしてあんな穏やかな表情を浮かべれるんだろうと。

 ――少なくとも、オレには絶対に無理だ。

 出来るだけ考えないようにしているけど、自分の最後を考えると、想像するだけで寒気がする。

 

 「確かに、幸せそうな表情だな。

 だが、彼女も以前は今と全く違ったそうだ」

 「違った?」

 「ああ、一言で言えば醒めていた。

 自分を含め、命がある人間を人間と思わず、物として見るような、事件を起こしたときのままの性格だったらしい」


 「へぇ……」


 「そして、何かあればスグに死のうとしていたそうだ、

 私も聞いた話だが、あの娘を何度、蘇生させたか判らないらしい――復讐者に殺させる為にな」


 目を細めポツリ呟く小梨の言葉に、優奈と出合った屋上での光景が浮かんできた。

 彼女に見せられた、切り裂かれた手首の傷。

 考えたら、確かにそうだ、誰かにムリヤリ犯されて死ぬくらいなら、自分から死を選んでもおかしくない。

 ――もっとも、自分には勇気が無くて無理だけどね。


 真顔の歩はトーンを落とし、更に続けた。


 「しかし、あの子(ゆい)が出来て彼女は変わったそうだ、

 ――心のやすらぎを得たようだ」


 「やすらぎ?」

 「ああ、あの子が生まれ彼女は強くなった。 

 二度と自分で命を断とうとしなくなったそうだ、」

 「へぇ?」

 「護るもの、信じられるものが有るから、人は強くなれるのかもしれないな」


 小梨の言葉に優奈の表情を改めて見かえした。

 彼女は天使のような優しい、けれど何かを護ろうとする力強い笑顔を浮かべている。


 「優奈はあの娘が居るから、強く生きていられるんだよな」

 「ああ、今の彼女の生きる意味だろうな」


 優奈の表情を見てやっと判ったかもしれない。

 彼女の言っていた灯火の意味。

 それは、あの子だったんだ。


 いつの間にか、オレはボンヤリと優奈と山田と優衣達3人の姿を見つめていた。

 ……自分の灯火は、まだ判らない。

 其れは、いつか見つかる日が来るんだろうか?

 

 ――歩とオレ、優奈と山田、二組のホテルの中でのデートは続いていた。


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