邂逅そして
薄暗いホテル最上階の店内。
歩とオレは窓際の席に向かい合う様に座っている。
そして、キャンドルの淡い光がイケメンの小梨と、可憐な美少女のオレの取り合わせを二人を優しく照らし出していた。
「杏子」
「小梨、そんな真顔でどうしたの?」
そんなムード抜群の中、小梨は突然真顔で話しかけてきた。
――頬杖をつきながら、オレの顔を穴が開くほどガン見しつつ。
「今なら、お前の言って居た事が判らなくも無いな」
「ん?」
オレは彼が言う事が何の事か判らず、肉を咥えたままキョトンとする。
――自分は、何か言っていたっけ?
一体何だろ?
気が付けば、歩は優しい視線で此方を見つめながら、口角を緩めていた。
「やはりな……。
――余りの可愛さに誘われて、本能的に動くと言うアレだ」
「むぐむぐ……(ん???)」
コイツは唐突に何言ってんだ?
たしかにオレはさっき言ったかもだけど……、今は関係ないでしょ?
一体何かと、思わずオレは首をコクリと傾ける。
「杏子、私はお前が欲しい」
「!?」
小梨は真顔でエライ事をお抜かしになった。
オレは彼のとんでもない言葉に、思わず肉を半分加えたままフリーズする。
「もぐもぐもぐ……(な、突然……?)」
目を見開き、驚きを隠せないオレを前に、歩は表情を緩め優しい口調で続けた。
「許されるなら、可愛いお前を力ずくでも私のモノにしたい……」
「むぐむぐむぐ(お前は、女には不自由しなさそうだけどな……、オレじゃなくて別の娘にしたら?
幾らでも良い女いるでしょ?)」
小梨は遠い目をしながら、むぐむぐ言うオレの頭を優しく撫でてきた。
「幾らでも、『先輩、付き合ってください』と言って、言い寄ってくる娘は居た」
「むぐ(だよなぁ)」
オレは思わずウンウンと頷く。
そりゃそうだよなぁ、イケメンだしね。
――性格は悪いけど。
「だが、私がその娘に『私も本気で好きだ』と言うと、向こうにドン引きされてしまってな……」
「もぐむぐもぐ……(そう言う物か?)」
「ああ、何時も――その繰り返しだった。
10から上は数えてないがな……」
歩はそう言うと、イケメンなツラに自虐的な笑みを浮かべる。
まあ、コイツに釣り合うだけの娘じゃないと、身を引いちゃうのかもしれないな。
この性格とルックスに釣り合うのは、あの娘(亜由美)位かもしれないけどね。
「だが、お前は今まで何人も付き合って来た娘達と違う物を感じるからな」
歩はそう言うと、真面目な表情でこちらを見つめていた。
その視線に思わずオレは動きを止める。
――そりゃそうだよ、自分は元は男だよ。
普通の娘と違って当然、違わなかったからオカシイよ。
それに自分は何時か殺される運命の天使なんだし……。
歩はオレが欲しいって言うけど、それは――出来ない、許されない事だよ。
「その無防備であどけない仕草、まるで無邪気な子供の様だ」
「ん?」
笑顔を浮かべる彼の言葉に思わず窓に映る自分の姿を見つめた。
其処には美少女にあるまじき姿で、険の無い子供の様に無邪気に肉を咥えるオレの姿が見える。
――まあ、あどけない姿だよな……。
「――出来るなら、この天使を腕の中に抱いて持ち帰りたい……」
「えっ!?」
歩はポツリ、端正な顔に憂いを帯びた表情で呟いた。
そんな顔にあるまじき、凄まじい事を。
彼が何を考えてるかは判らない、けど、その先の言葉は出る事は無かった。
――それは、きっと歩が自分で決めている何かと違う。
だから言えない、言う事が出来ない、そんな表情だった。
「心配するな、震えるお前をどうもしない」
「ありがとう……小梨」
寂しい表情を浮かべる小梨が言う様に、オレの体は気が付かないうちに小さく震えだしていた。
――お持ち帰りされる覚悟なんて、有る訳無いから……。
何時かその時が来るとしてもね。
でも、彼のその気持ちが嬉しくて、気が付けばおれいの言葉を口走っていた。
「お前の礼なぞいらない。
今日はお前を普通に扱ってやると言っただろ……小梨ではなく歩と呼ぶだけでいい」
小梨はトーンを落とし、視線をオレから外すと、何時もの様なクールな真顔で続けた。
「私も公私混同をしない分別はある」
「公私混同ねぇ」
オレは思わず目を細め、整った顔にシラァ~とした表情を浮かべる。
――さんざん悪役令嬢の様に自己中の様な事をして、絶対公私混同してそうなコイツが、
今更、どの口がおホザキになられるのかと。
もっとも、今に始まった事じゃ無いから気にもしないけど。
「――毎朝、台所に来てオレの朝ごはんを強奪も仕事なのぉ?」
「むっ……」
しまったという表情を浮かべ、視線を泳がせる歩。
やっぱりアレは趣味だったのか……、と思っていると、
「そうだ、ソコの裁量は私に任されている。
――何か問題でもあるのか?」
「えっ」
小梨は真顔で腕を組み、開き直りなおりやがった……。
その発言に思わずおれは固まる。
この場面で開き直るか、普通?
そう思っていると、歩はニヤリとしてさらに続けた。
「私は観察者だからな、ソコは私の胸一つだ」
「なっ!」
「文句があるなら、朝飯代わりにお前を食べても良いんだぞ?」
開き直り――否っ!
居直ってオレを食べても良いとかと言いやがった。
……くぅ、それを言われると先が出てこない。
「……仕事でいいです……」
オレは負けたと思い、しぶ~い顔をした。
歩はその顔をみてニヤリとしながら、更に一言。
「――冗談だ。
くっくっくっ……」
さらりと流す小梨。
おい、こっちはシャレにならないのに!
今朝のことがあるから……。
「私も他の天使居る前では、言わない位の分別はある」
歩はそう言うと目で合図を送る。
「誰かいるの?」
おれが向いた先にいたのは、純白のマーメイドライン ロング パーティードレスを着た虚ろな表情をした銀髪、紅眼の美少女。
其処に居たのは、クラスメイトの有住優奈だった。
長くなるので此処で一旦投稿。
早いうちに残りを投稿します。