表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/115

異世界の掟

 エスコートされた店の中は異世界だった。

 其処に有ったのは窓際に設けられた席。

 落した照明の薄暗い店内の中、小さ目の丸いテーブルに歩とオレのが二人向かうように座り、窓からは外の絶景の夜景が良く見えている。 


 「すごい……」

 

 オレは余りの華麗さに思わず歓声を上げていた。

 視線を窓に向けると、ガラスに写るのはグラスに入ったキャンドルの淡いフォトンが、ミケランジェロの彫刻のように端正な顔立ちの小梨と、その正面を彩るスミレのような可憐な美少女の取り合わせを妖しくも美しく幻想的に照らし出している。

 そして、オレのつけた小ぶりなイヤリングが、蝋燭の淡い煌きを写している。


 極め付けがテーブルに活けられた小ぶりな真紅の薔薇。

 まるで此処にいる二人を祝福するように、ただ一輪だけ活けられている。

 それはまるで映画のワンシーンのようだった。

 きっと婚約破棄物の小説なら、紆余曲折の末、王子に告白されるクライマックスのシーンだろう。


 「――でも小梨、此れは流石に場違いじゃない?」


 オレは思わず顔を赤らめポツリと溢していた。

 ――きっと此処は結婚前のカップルがプロポーズに使って居そうなムード抜群の場所だもの。

 何が悲しくてコイツと来ないと行けないんだよ……。


 ――コイツはマサカ、オレにプロポーズ!?

 ……そして、そのままここのホテルに……。

 一瞬、とんでもない予感が頭を過り頭をブンブン左右にふる。

 ――そして自分の想像力を呪った。

 何か悲しくて、コイツにプロポーズされ、お持ち帰りされないと行けないんだ……。

 ――あったらオレは裸足で逃げ出すぞ。


 「杏子、今日は普通に扱ってやると言っただろ?

 これが私の普通だ」

 

 小梨はトンデモナクムード抜群の場所を真顔で『普通』と言い張る。

 これはどう考えても普通じゃ無いでしょ?

 絶対、何か有りそうな予感がする。

 でも、彼は今日に限ってどうしてこんな所までオレを引っ張り出したんだろ?

 彼は『此れも仕事の一つだ』と言うけど、前の悪魔祓いの一件も含めて、ほんの少しだけ引っかかる。

 仕事なら事務的にやれば良いのに、今日の歩は何故か優しい。

 ――まるでオレを自分の趣味につき合わせているように。


 「……此れが本当に普通……なの?」


 オレは微かな疑問が浮かび、ぽつりそう言うと、少しだけ首を傾げていた。

 ――歩の本当の目的って何なんだろ?

 

 「ああ、これが普通だ。

 私の普通の彼女として扱ってやると言っただろ?」


 小梨は整った顔をニヤリとしながらも即答する。

 たしかに彼女にも色々進展度があるからね。

 付き合い始めてからすぐから、結婚寸前のカップルまで。 これは相当進展したタイプと言う事か……。

 コイツに何となく、ごまかされた感もしないでもない。

 気が付けばオレは思わずジト目で小梨のイケメンの顔を見つめていた。


 「……まあ、たしかに彼女にも色々あるからなぁ……」

 「そう言う事だ。

 所で杏子、こんな場所は初めてか?」


 彼はオレの視線に気が付いたのか、表情をフッを緩め話題を変えて来た。

 なんかはぐらかされた気もしないでもないけど、正直に答えてみた。

 嘘ついてもどうなる物でも無いしね。


 「うん……、凄すぎてため息が出そうだよ。

 こんなに静かで、上品な人たちしか居ない場所は初めてだよ」


 本音だった。

 そう、こんな場所は始めてだったのだ。

 オレの何時もお袋と食べに行って居た場所は、此処とは全く違う世界。


 それはまさに戦場。

 親子行きつけの食い放題の安食堂は、壁は煤けあぶらにまみれ真っ黒け。

 マックロクロス○が大繁殖していた。

 そして、座れば「早く食い終われ」とギシギシ文句を言うイスに、これまた料理を載せれば「料理の盗り過ぎ」と揺れまくるガタが着たテーブル。


 ――そして此処に来る客と言うのは、其処に吊り合った様な人だった。


 その店に来るのは、よれよれの服を着た言葉使いが荒っぽい親子連れや、クタクタになった服の貧乏留学生、そしてイカにも偽ブランドと判るドハでな服を着た香水臭い水商売風の女性。

 ――社会の底辺のボトムズたちだ。

 そして、その亡者()達があさましくも出された料理に群がっていた。

 それは正にカオスの極みだ。

 

 その客を応対するのは、「ヒャッハー」と言いそうな私服にエプロンをつけた荒っぽい店員達だった。

 ――もっとも、彼らはモヒカンじゃなかったけど。


 その場所と比べれば、ここはまさに異世界。

 向こうが地獄ならこっちは天国位の差はあるかもしれない。

 余りの差に何ともいえないみじめな気持ちになる。

 これは地面に居るアリが空を飛ぶ鳥を見る気持ちだろうか?

 

 「料理も凄いんだね……」


 店の奥に視線を向けたオレはテーブルに並んでいる豪華な料理の数々に感嘆していた。。

 料理は洋食ではエビ等の前菜、チコリの等のサラダ、ペイザンヌスープ等の汁物、肉、野菜……そして マカロンや小ぶりのケーキなどデザートまで豪華さを競っている。 そして、和食では寿し、刺し身、テンプラ、果ては惣菜のようなサトイモの煮物まで。

 ――そして、圧巻なのが料理長と思わしきコックがライブキッチンでローストビーフを切り分けていた。

 こんなのは噂でしか見た事ない代物だ。


 「此れだけの品数、初めて見たよ」


 おれは想像以上の豪華絢爛に暫し目を見開き、呆然としてしまう。

 これは素直に凄いと言うしかない。

 ――異世界に並ぶ料理の何倍なんだろ?


 「此処の料理は其処までの物でもない」


 小梨は小さく笑うとサラリと流す。

 コイツは其処までの物でもないって言うけど、これ以上の物有るの?

 これが最上級じゃない?

 

 「そうなの? これでも凄く豪華なのに?」

 「ああ」


 小梨はそう言うと頬杖をつきながら優しい表情を浮かべ、これまた驚きを隠せないオレの顔を穴が開くほどじっと眺めていた。

 そして、オレの頭を猫の頭を撫でるように優しく触れてきた。


 コイツはオレのこの姿を見るのが目的か……。

 そう考えると。ほんの少しムッとしてしまう。

 ……自分はペットじゃない、と。


 「しかし、杏子に満足して貰えて何よりだ」


 思ったとおり、小梨はイケメンの面に笑顔を浮かべながら短くお抜かしになる。

 やはり、オレの満足そうな表情を見るのが目的だったらしい。

 ――しかし、何にしてもご馳走が食べれるというのは良い事だ。


 昔の偉い誰かが抜かしていた。

 「黒い猫でも、白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫だ」、

 そして美味しい物をくれる人はもっと良い人だと


 そう考えると、美味しい物を食べさせてくれる小梨は良い人だ。

 よし、そう思えばスマイルだ。

 ――食べに行こう!


 「さっそく取りに行かない?」

 「じゃあ、早速取りに行くか」

 「うん」


 笑顔で言う小梨にオレは満面の笑顔で返事を返す。

 ――しかし、こんなものは早いもの勝ちと相場は決まっている。


 新井家の家訓、先手必勝。

 遅くなれば、料理が無くなる!!

 特に肉は……。


 「特に肉だよ、肉。

 ――しかも牛!!」


 オレはそう考えた瞬間、席から素早く立ち上がっていた。

 こんな時は上品も何もない。

 ――本能最優先、色気より食い気。


 「なくなる前に確保しないと!」


 そして、恥ずかしげもなくスカートを捲り上げローストビーフへ猛ダッシュ……。


 「焦るな、はしたない……」

 

 ――できませんでした。

 気が付けば、小梨は呆れ顔でオレの服の後ろを猫つまみされ奪取は阻止されていた。


 「うにゃ?

 歩、早くしないと肉は無くなっちゃうよ?」


 ネコつまみされ、思わず猫の様に鳴いてみるオレ。

 ――この非常時に。


 「見苦しい、無くなりはしない」

 

 歩は亡者のように料理をむさぼろうとするオレを前にあきれ顔で抜かす。


 「そうなの?」

 「ああ――店の奥から、料理は幾らでも出てくる」


 オレは小梨に幾らでも出てくると言われ思わず聞き返す。

 信じられない凄い世界だ。

 俺の行っていた店は一瞬で、から揚げやら、ローストポークなんかの人気料理が消滅してたぞ。

 残るのは、不人気御三家である冷めたピザやら、冷めたパスタ、あとはご飯ものばっかり。


 まさに人間の欲を体現した世界になっていた。


 余りの違いを前に唖然とするオレを前に歩はさらに続ける。


 「それに、ビュッフェでは前菜からきっちりとってゆくものだ」

 「そうなんだ……」


 まさに初耳だった。

 歩に教えられて初めて知る、ビュッフェマナーの新事実。


 普段は食べれない肉を集中爆撃するするものだと思ってたよ。

 食われる前に食え。

 弱肉強食。

 ――もっとも、それをヤッタラ店から睨まれるんだけどね……。

キリが良いのでここで一旦投稿です。

のこりは早いうちに乗せます、こうご期待。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ