悪意の残滓
知らぬが仏。
という言葉がある。
これは真実を知らなければ、仏のような安らぎでいられるという事だ。
この格言が出来た当時、世の理不尽や真実の重さに耐えかねて、せめてお寺にある観世音菩薩のように心だけはおだやかでありたいと願っていた。
仏、というのは、つまり心のやすらぎを意味する。
どんな嫌なことも、本人がなにも知らなければマザーテレサのような聖人のようにふるまって居られる。
嫌な事は知るなの精神である。
嘘だ。
本当は、知ってても知らないことにしとこう。
イヤな事は忘れてやり過ごそうという、やり過ごしの精神。
これも、言うまでもなくウソだ。
やり過ごしたところで、ロクでもない事実は消えない。
ただ、後回しでツケを伸ばしてるだけから、穏やかにすごせようにないだろうから。
でも、知らないでいられる事の方が幸せな事がある。
それだけは真実だ。
どんな酷い事だけど、知らなければ平穏でいられる。
どんな非情な現実も知らなければ聖人でいられる。
どんなことがあっても知りたくもない、耳や目をふさいでも知りたくない、そんな非情な現実もこの世界にはあるのだから。
でも、そんなモノに限ってだまっていてくれない。
そんな非情な現実はイヤでも向こうからやってくるものだからね。
そして、今も……
””
オレとあゆむ、遥の目の前で、カスミの震える手からスマホがするりと抜け落ちた。
テーブルにコトンとスマホから落ちた瞬間、テーブルにおちたスマホの画面にサムネにあった動画が流れ始めた。
──息が止まるほど悍ましい映像が。
「今日はタンポン挿入の実演だよ~」
スマホから、放たれるあまったるいヒワイな声に、テーブルを囲む誰もが息をのむ。
画面越しに映る女性はカメラに向けてウィンクしながら言った。
「今回のモデルちゃんはちょっと年齢設定ギリギリなんだよね~♪でも可愛いでしょ?次はもっと面白いことするからチャンネル登録よろしくね♡」
女性がタンポンの包みを破く音がやけに耳障りだ。
「この子、生理来たばっかりなんだって〜まだ血も少ないから入れやすいよね」
画面が移動し、スマホの画面越しに映るのは、ベッドに横たわるのはローティンくらい少女。
粗い画質の暗い部屋。天井からのLEDライトが照らすベッドの上で、先ほど見た詩織さんソックリの少女が眠っていた。制服のシャツは強引に引き裂かれ、下着は床に放り捨てられている。
「この子はまだ14歳なんだよ~」
少女は14歳にしては華奢すぎる体つきだった。
眠っているはずなのに恐怖で強張った表情は幼さを際立たせている。
小柄な身体は鶏ガラのように骨ばっていて、成長途中の乳房はほとんど膨らみがない。
ブラもしていない発育途上の乳房の頂点に咲いた薄紅色の乳首は、まるで桜の蕾のように可憐だった。 アンダーの方もふくらみから白いショーツのしたに淡い陰毛が未成熟な恥丘を覆っているのが分かる。
そして、成長途上の華奢な肢体は不自然に弛緩しており、何かクスリの影響が明らかだった。
「さてと……お勉強タイムだよ♡」
犯人のギャル系女性がマイクを通した甘ったるい声が部屋中に反響する。
少女の呼吸は浅く速く、薬剤の残留で半覚醒状態にあることが明白だった。
「マズはヌギぬぎしましょ!」
スマホ越しに映る女性の爪には毒々しい青のジェルネイル。
少女の閉じた瞼には涙の痕が残っていた。 彼女の指が迷いなくショーツに伸びてゆき、布を乱暴に足元へずらし始める。──カメラは残酷なほど鮮明に少女の最も無防備な部分を捉え続けた。
「最近のコは早いけど、アソコはど~かな」
犯人のギャル系女性がカメラに向かって笑いかけながら、ショーツを脱がされ、未成熟な恥丘があらわになった眠ったまま少女の膝を掴む。
女性が笑いながら少女の膝を左右に広げると、未熟な割れ目が無防備に晒される。
「じゃあ始めるね~?みんな楽しみにしてたやつ!」
彼女の指が迷いなく伸びていく──スマホのカメラは残酷なほど鮮明に少女の最も無防備な部分を捉え続けた。
「ほらほら〜みんなの大好きな"未成熟マンコ"だよ〜♡」
まず中指と人差し指が秘裂を押し広げる。
未熟な襞は簡単に引き伸ばされ、内壁の淡い珊瑚色が露わになる。
「まずは外陰部チェック〜綺麗なピンク色だよ〜」
少女の体が微かに痙攣する。
睡眠薬の影響とはいえ、神経は働いていのか、下腹部がピクリと動いた。
カメラはこの一点にクローズアップし、視聴者コメントが炎上する――「処女膜は?」「狭すぎる」「壊れそう」。
「ほらほら~ここが入口☆、ついでにこの白いヒダが処女マク」女性が無造作に1本の指を突き入れる。少女の腰が弓なりに浮くが、すぐに重力に引き戻される。
「クスリがあまいのかな? あらら動いちゃってかわい~。ついでにコレがクリちゃん♪」
彼女の親指が少女のモンブランを押しつぶした瞬間、少女の喉から悲鳴のような呻きが漏れた。
「準備OK~♪タンポンちゃん登場~♡」
彼女が手にぶら下げた透明ケースに入った吸収体がカメラの前でひらひらと舞う。
女性がカメラに映る角度を調整している間、少女の体が微かに痙攣していた。
睡眠薬が効いているはずなのに……
「さぁ~て……いよいよ実践編スタート!みんな一緒に学ぼうね♡ えへっ☆緊張してる~?でも大丈夫!すぐ慣れるよ~♪」
彼女はいやらい笑みを浮かべ、
「みんな見逃さないでね?タンポンちゃんが入っていくところ♡」
女性が少女の秘所に指を滑らせる。
「まずは清潔確認☆ちょっと冷たくてごめんね~」
少女の全身がビクリと跳ねる。条件反射的な動きだ。
「わぁ☆敏感~♡でもタンポンちゃんと相性良さそう♪」
女性がカメラを近づける。
「見てみてみんな~この入り口の形が大事なんだよ!」
少女の体が再び微かに揺れた。
「あれ?もしかして目覚めちゃう?それはそれで興奮するけどねぇ……」
女性が笑顔でアプリケーターをつまんでカメラの前に晒す。
「じゃじゃーん☆タンポンちゃん~コレが入るんだよ♡」
ケースから引き抜かれた吸収体がLEDの明かりに輝く。
「これを入れるだけで女の子は自由になれる魔法のお道具だよ♡」
女性が吸収体を少女の秘所に押し当てた。
「ゆっくり~優しく~深呼吸~♪」
意識がない筈の少女の眉間に皺が寄る。
「おっと危ない危ない!深すぎると痛くなっちゃうから要注意~」
女性がイタズラっぽい表情で吸収体を唾液で湿らせ、ぬらりと光る先端が少女の亀裂に沿って擦られる。
「タンポンちゃんはね〜こうやって入口を見つけて……」
つぷっ。
鋭い水音と共に吸収体の先端が少女の膣口に侵入する。
「はい1センチ突破〜♡まだまだ奥まで入るよ〜」
少女の腹筋が波打つ。明らかに異物に対する拒否反応だ。
同時に女性は指でアプリケーターを圧迫する。その角度は明らかに意図的で、本来の挿入口よりも上方を狙っていた。
「あ~この角度の方が締まるかなぁ?」
女性の言葉に、コメント欄が爆発する――「痛そう!」「変態すぎる!」「血が出て欲しい」。
ゆっくりと押し込まれる過程で吸収体が粘膜をこする。
少女の背中がベッドから少し離れるが、チョーカーがクビをベットに固定しているためほとんど動けない。スグにベットに戻される。
タンポンが三センチほど埋没したところで女性が急に角度を変えた――尿道口に指先が接触するようにねじ込む。
「おっと失敗~♡」
女性が笑いながらさらに圧をかけ、アプリケーターの内筒を押し込むと尿道括約筋が反射的に収縮し、透明な液体が糸を引いて垂れる。
「あららおもらししちゃった☆」
女性の言葉に、嘲笑と共にコメント欄は「きたねぇ~」「しょんべん少女」賞賛で溢れ、女性の指とタンポンの表面がわずかに濡れた。
「汚いモノかけるな、つーの……。 カスが……」
ここで事件が起きる。
突然女性がウザそうにアプリケーターを半分抜き、再度力任せに叩き込んだのだ。
亀頭部が粘膜を抉る衝撃で少女の体が魚のように跳ね上がる。
「ひゃんっ」
という短い悲鳴が初めて彼女の唇から零れ、結合部から鮮やかな血潮が滲み出す。
少女の秘所にカメラが近づく。
「ちょっと傷つけちゃったかもぉ☆ やり直しするね」
女性の声は明らかに興奮していた。
血で濡れたタンポンを乱暴に引きずり出すと、今度は2回りは大きいタンポンをバッグから取り出し、ツバをペッとはきかけると、少女の血のにじむ秘所へグイっと差し込んだ。
――だ液を含んだ部分を子宮側へ向けて。
乱暴に挿入され、粘膜組織がひどく摩擦され、内部から蜜液と血液が混ざったものが泡状になって溢れる。
「女の子カラダって案外ジョウブだから、この位じゃ平気なの」
女性は、少女の膝がガクガク震えているが、女性は無視して最奥へ押し込んだ。
「はい完成~♡簡単でしょ?ほら見ろ〜全部入った♡見てよみんな〜こんな小さい穴に大人サイズのタンポンがスポッとね」
女性が少女の太腿を掴んでカメラに向かってM字開脚させると、少女の秘所にヒモが飲み込まれているのがみえる。
「ちなみにタンポンちゃんの使用期限は6時間だから気をつけて☆」
女性がカメラに向かって微笑む。
「でも抜く時も丁寧にね♡これから抜くところも見たい人〜? おぉ〜コメント欄の盛り上がりハンパないね! じゃいくね~」
女性がヒモに指を引っ掛ける。
「せーの……三・二・一……ポロン!」
勢いよく引き抜かれたタンポンに少量の血が滲んでいた。
「あ〜これ経血?それとも初めての経験で泣いてるのかなぁ?」
女性が満足そうに血のにじむ真っ赤な吸収体を振り回す。
「お待たせ~♡メインイベントはやっぱりコレよね!」
女性が両脚をM字に固定し、少女の膝裏を肘で押さえつける。秘裂が最大限に露出し、内腔の壁面までがカメラに晒された。
通常なら薄暗いピンクの粘膜は激しい摩擦で充血し、無数の微細な血管が浮き出ている。
「綺麗な色してるよね~。次回はバイブ編だよ〜みんな期待しててね〜♡」
全てが終わった後も少女はベッドに横たわったまま動かない。
まるで魂が抜け落ちたかのような虚ろな表情の少女の 四肢は力なく投げ出され、瞳は虚ろに宙を見つめているが、少女の口元がかすかに動き何かを言おうとしてるのが分かった。
耳を澄ませて聞けば、
「……お…ねえちゃん……たすけて……く…るし…」
という、ライブ配信してる女性とは違う声色で消え入りそうな願いをうったえているのがわかった。
だが、女性は何も無かったように満足げに髪を整えながら締めの言葉を述べる。
「みなさんお疲れさま~♡今日の授業はどうでしたか?」
女性はカメラに向かって手を振りながら続ける。
「タンポンの正しい使い方しっかり理解できたかな? もし将来使う時はぜひ思い出してくださいね♪」
彼女が少女の腹部を軽く叩くと、
【神回確定】
【永久保存版】
【この子専用アカウント作りました】
【ヤバすぎw ロリ最高】
【タンポンの抜け方勉強になりましたありがとうございますw】
【次回も楽しみにしてます!】
【ガチ処女確定じゃん。売ったらいくらになるかな?】
拍手喝采のコメントと、少なくない額のスーパーサンクス(投げ銭)が投稿動画に投げられてゆく。
画面の隅に表示された再生回数と、コメント欄の卑劣な書き込みが、これが単なるタンポンの使用法を教える教育的な動画ではなく、性犯罪の証拠であることを雄弁に物語っていた。
これは教育目的とうたった明らかに……性犯罪者の配信だと。
”
「……」
「………」
オレとあゆむと遥の3人はあまりに現実離れしたスマホに映る光景に、理解がおいつかず表情をかためたまま画面をジッと凝視していた。
カスミさんはタダうつむいたまま、一言も話そうとしない。
オレのアタマに何の情報は入って来ない。
再度流されているスマホの画像はただの空虚なデジタルデーターとなって浮かび上がっている。
――終わりなき非道の走馬灯。
いつの間にかオレの頬にも温かいものが流れ出していた。
その無限と思われる非道を止めたのは遥だった。
「いつまでも見て居たら、この娘がかわいそうだよ……」
遥は、そう言いながらスマホの画面を閉じながら更に言葉をつづけた。
「これはAIを使って合成された画像。アタシみたいに見る人が見ればすぐに判るよ。配信女性の周りが荒いもの。
――配信者の女性は、後で合成したものだね」
「じゃあ、あのベットにいた少女は?」
オレの問いに遥は伏し目がちで、ポツリと答える。
「あの画面の少女だけは合成じゃない。 つまり、あのベットの上で合ったことは全て現実の犯罪だよ」
それってつまり……。
「………そういう事か……。ソコまでやるかクズめ……」
オレの考えがまとまる前に、あゆむは不機嫌ありありの唸るような声をだし、この画像の真の邪悪さを語りだした。
「遥、あの画像は、犯人の男があの少女をレイプしている最中に撮影したものだな? 後で少女を脅迫していうなりにさせたり、自分が見て楽しむためにな……。 だが、少女はその行為の最中に命を奪われてしまった」
「歩、その通りだよ」
遥は、いまいましそうに頷くと、さらに言葉をつづけた。
「犯人の男は逮捕される前に、ヤバいと思ってその画像を何処かに保管しておいた。 そして天使の刑を受け女性のカラダになった後に、撮っておいたレイプ画像を加工して、画像に映る男の自分の姿をAIで天使になった女性の姿に差し替えて作ったってことだよ」
つまり、犯人である男は、自身が犯した性犯罪の証拠画像から、自分自身の姿だけをAIで作り替えた「女性の姿」に差し替えたということだ。
そして、その合成された動画を、まるでその女性自身が配信したかのように装ってインターネットに流した。
自分の再生回数を稼ぐために……。
遥さんが、忌々しそうに、事態の全貌を言葉にした。
その声には、怒りというよりも、人間の邪悪さに対する深い軽蔑がにじんでいた。
「……ひどすぎるよ……」
此処まで聞いてやっと、オレも理解が追いついて来た。
つまり、コレって……は詩織さんの妹が命を奪われる時に取られていた画像だ。
それを、あゆむが言うように、画像の人物をAIで入れ替えたものだ。
つまりこれは、その犯人がこの少女を乱暴した際に取った画像を今の姿に変え、タンポン挿入の実演という教育的動画の名のもとに流している。
そして再生回数を稼ぎ、収入を……。
オレは何も映っていないスマホをジッとみつめた。
何も映っていないけど、その画面越しに伝わる底知れない人間の悪意に嫌気がさしてくる。
その動画を、詩織の父親は見てしまったのだ。
その血の涙を流した父がどう思うかはわかり切って居る。
愛娘がレイプして殺された後でも、こうやって延々とさらし者にされて尊厳が奪われて続けているなら、どんな手を使ってもソレを止めたいと思うのは当然だろう。
それが倫理的に許されない手段だとしても、だ。
「天使を殺したくなっても不思議じゃない……か……」
あゆむが無意識のようにポツリ呟くと、オレの泣きそうな視線と遥の冷たい視線がカレに集中する。
「……あゆむ……」
「………」
あゆむはオレと遥の視線に耐えかねたのか頬をポリポリかきかなら、恥ずかしそうにさらに言葉をつづけた。
「きょうこ、遥、二人とも勘違いするな。 一般論としては、被害者遺族がその天使に殺意が湧いても不思議じゃない。 そう言って居るんだ」
あゆむはそう言うと、カスミの方をジッと見て、
「――むしろ、詩織のように止めようという方が少数派だろう。 つまり最初は彼女も普通の人以上に倫理にあふれていたのだろうな」
「――そうよ、詩織さんは本当はあんな人じゃないの……。家族思いの優しい人なの」
カスミはそう短く言うと、彼女と詩織の二人のつづきの物語を語り始めた。




