因果の鎖
オレは、歩でのとなりでカスミの話を聞いている。
彼女の話は、今まで聞いた範囲ではバットエンドではない。
大切なヒトをうしなった女性同士が、通信アプリで繋がり、仲良くなり、お互いの心のキズが癒された。
ハートフルストーリーだ。
ここで話が終われば、再生の物語とすら言える。 でも、この話の結末は、破滅の物語なのだ、とカスミが最初に表情でうったえていた。
途中でどれだけ良い流れになっても、最後は悲しい結末につながっているのだ、と。
カスミさんが悲しい結末と言い切るだけの、何かが……。
「あの人からメールが来て、私は大急ぎであの人、黒崎 詩織さんに会いに行ったの」
そうして、カスミはコップの水を少し口につけ、話を進めた。
――カスミとその女性、二人の運命の行く先を。
「コレがその時のメールよ」
カスミはそう言って、テーブルの上にスマホをそっと差し出した。
件名のいくつかには、短い言葉が並んでいた。
――「父を止めたい」「至急会いたい」「お願い、手を貸して」
どれも、追い詰められた人間の指先が絞り出したような文面だった。
文字の向こうに、切羽詰まった息づかいが感じられる気がした。
「だから、メールが来たのが夕方に近かったけど、大急ぎで彼女の所にむかったのよ」
カスミが後悔をにじませるように、静かに言った。
「さっきもその女どこかで見たことがあるとおもったけど、その女性は黒崎 詩織だよね?」
そのとき、少し離れた席から遥が口を開いた。
「遥は、やっぱりあの女性の事を知ってたのよね?」
カスミが表情を曇らせ、わずかに顔をそむける。
「うん。知ってる。 この仕事してたから、あの女性の事を知らない訳はないよ」
マユをひそめる遥の声が一瞬だけ沈み、そしていまいましいものを見るような視線でメールの文章に落とすと、吐き捨てるように言葉をつづけた。
「アイツたちのやってた事を助けた娘から聞いたけどヘドがでるね。その娘は……法には触れない程度に、彼女たちに残虐なことをしてるって震えながら言ってたよ。 あの人は天使の娘をグループで襲って手錠やロープで拘束し、その後成人コミックにあるようなハードSMみたいに徹底的にイジメる。そうガタガタ震えながら、古傷が痛むのかバストとデルタを押さえながら涙ながらにあの娘は話してたよ。
――もう、正義の実行も あそこまで行くとどっちが極悪人だか判ったモノじゃないよ」
遥はため息交じりに腕を組み直し、テーブルを指でコツコツつつきながら、無機質な視線をカスミに向けた。
「……」
カスミは遥の視線にたえ切れななかったのか、何も反論せずに涙ながらに静かにうつ向いて視線をそらす。
吐き捨てた遥の言葉には、そういう連中に対する冷めた嫌悪がありありと滲んでいた。
一方で、カスミの沈黙とその顔つきがすべてを物語っていた。
――『黒崎詩織』って女の本当の姿、そしてカスミがそこにどれだけ深く関わってるのか。その闇の深さが、嫌でも伝わってくるようだ。
同時に、オレの記憶にも、由紀からちょっとだけ聞いた――黒崎 詩織。その名前と、彼女が所属してたハンターグループのヤバさがよみがえってきた。
あいつらは、「正義の実行」なんて立派なことを言ってても、実際のところは、自分の感情と気分で罰を下してるような私人逮捕のようなヤバい連中だよ、――そんな話だった。
関わり合いにならない方がいい、由紀はそう言って居た。
オレも出来るだけ関わり合い会いになりたくない、そんな連中だ。
遥が言葉を区切った瞬間、部屋の空気がピタッと止まった。
その言葉が空気の底に沈むように、誰もすぐには口を開けなかった。
テーブルの上のスマホから流れる「父を止めたい」っていう切実なメッセージと、遥が口にした『詩織』の話――そのギャップがあまりにも重くて、胸の奥にズシンと響いた。
「……」
カスミは、自分の中の何かを抑えきれないように、ただ小さく肩を震わせていた。
その沈黙が、彼女が「詩織の悪行」を否定できないってことを、何よりも雄弁に物語っていた。
そしてその事実が、かつてほんの少しだけ信じていた“ハートフルストーリー”なんて幻想を、静かに粉々にしていった。
「最初はね、その女性――、詩織さん はただ父親を止めようとしていたの。娘を殺した男に復讐しようとする父をね。
最初は、ダダそれだけだったのよ」
カスミはゆっくりとスマホを閉じて、静かに息を吐いた。
それから、カスミと詩織、二人の運命のその先をしずかにかたりだす。
「……あのとき、詩織さんから送られてきた住所を頼りに、郊外のちょっと古い一軒家に向かったの。
玄関の前に立ったとき、胸の鼓動がすごくうるさくて……。
ノックしたら、すぐにドアが開いて、エプロン姿の 詩織さんが立ってたのよ。
“どうぞ”って微笑んで、あいさつもそこそこに私をリビングへ通して――
そして、まるでずっとその瞬間を待っていたみたいに、本題を話しはじめたの。」
カスミが続ける。
「詩織さんは、彼女のお父さんがこの画像を見て……もう犯人を殺すと言い出したって、震えながら言っていたわ」
カスミはそう言うと、震える指先で画面をタップする。
次の瞬間、スマホの中で、鮮明な動画が再生され始めた。
”
派手なピンクのウィッグを被った女性がソファの上で足を組んでいる。両頬の高い位置に太陽の形のメイクが光り、唇は蛍光グリーンのマットリップで彩られていた。ブラウスのボタンは無造作に二つしか留まっておらず、谷間には金色のチェーンネックレスが汗ばんだ肌に食い込んでいる。ミニスカートからは黒レースのショーツが見え隠れし、腰回りには銀色のゴツいベルトが巻かれていた。
『みんな〜!今日は特別な生配信だよ〜♡』
甲高い声がスピーカーから漏れた瞬間、画面の中では女性が肩を震わせて笑っている。
次の瞬間、手元のスマートフォンを操作しながらブラウスをゆっくり脱ぎ捨てると、薄桃色のシースルー素材のブラがあらわれた。
「今日も来てくれてありがと〜♡ じゃあ約束通り……」彼女が首を傾げると、長い付け睫毛が瞳を半分隠す。「みんなの大好きな**“生搾り”**見せちゃうね?」
コメント欄が一斉に熱狂する:
> 「キタ――(゜∀゜)――!!」「待ってましたw」「早く見せろよ!!」
「じゃあ、いっちゃうよ」
彼女はゆっくりと背中に手を回し、パチンとホックを外した。薄い桃色のブラジャーが滑るように肩から落ちていく。弾力のある乳房がぷるんっと揺れてあらわになると同時に、カメラのレンズが急接近して接写モードになる。
「きゃっ♡ 目線強すぎ!恥ずかしい〜!」
言いながらも自分で胸元を寄せる仕草が計算されている。乳輪は薄紅色で小さめ、頂上はまだ柔らかそうに突起していた。
「準備できたよ〜♪」
テーブルの上から白いカップ型の搾乳器を取り上げる。シリコン製のカバーを乳房に押し当てると「ポンッ」と吸盤のような音が響いた。
> 「音エロwww」「吸い付きやべぇ」「リアルすぎて鳥肌立った」
片方のカバーを固定した瞬間から微かな振動音が部屋に響き出す。マッサージ機能が働き始め、カップ内壁が微妙に収縮と拡大を繰り返しているようだった。
「んっ……」
彼女の眉間に軽く皺が寄る。もう片方の胸も同様に覆われる。「これがいいのぉ♡ ちょっとだけ……痛気持ちいい感じ?」
画面いっぱいに映る乳房と搾乳器の隙間から透明な液体が滲み始めた。最初はわずかだが次第に量が増していく。彼女は自分の指で乳輪周辺を揉み込むように刺激を加えていく。
「ほら見て! 出てきたよ……?」
カップ内部に溜まった母乳が水面のように揺れる。その液面に映るのは自分の顔だという事実に彼女はまた息を呑んだ。
「あ、やばぁ~感じて来ちゃったかも……」
突然、ミニスカートの裾が持ち上がる。太腿の付け根まで露わになった白いショーツには既に濃い染みができていた。膝を擦り合わせる姿がいやらしくカメラに捉えられている。
「ねぇ……どうしよ……こっちも濡れてきたかも……」
彼女は搾乳器に繋がれたままの右手を下腹部へ伸ばす。指先がクロッチ部分を撫でるだけで小さな水音がマイクに拾われた。
コメント欄の勢いは最高潮だ
> 「両方同時やれよ!」「搾りながらイけ!」「おっぱいミルクもっと!」
彼女は喘ぎながら搾乳器のダイヤルを調整した。吸引圧が上がり「ズプッ」と湿った音と共に新たな母乳が噴き出す。カップ内の液面が一気に高まった。
「やぁっ……こんなに出るなんて……」
羞恥に赤らむ頬とは裏腹に彼女の手はさらに大胆になる。左手で空いている乳房を直に揉みしだきながら右手の人差し指がショーツの脇から侵入していく。
画面が上下二分割され上段では乳房アップ、下段ではショーツ越しに蠢く指先がクローズアップされた。両方のカウンターが目まぐるしく数字を刻んでいく。
「イっちゃうかもぉ……!」
搾乳器がピーッと電子音を発すると同時に彼女の体が大きく仰け反った。乳房から噴射された母乳がカバー内壁に叩きつけられる光景はもはや牧場よりも官能的だった。
「あぁんっ! ミルクと一緒に……出ちゃったぁ!」
ショーツの中でも別の分泌物が溢れているのが見て取れた。布地がビチャビチャと光り、太腿の内側を滴り落ちている。
「ふぅぅ~~~」
最後の絶頂を迎えた瞬間、搾乳器が自動停止した。カップを外すと解放された乳房から最後の一滴がツーっと糸を引いて落下した。その跡をペロリと舐め取る舌の動きすらスロー再生される。
> 「伝説の回確定」「神配信ありがとう」「保存したぞ」
余韻に浸る彼女はまだ荒い呼吸でカメラを見据える。ウィッグが崩れ、素肌には薄っすら汗が浮かび、全身が快感の残滓で火照っていた。
「また……明日も来るよね?」
乳房についた白濁液を指ですくい上げてカメラに向ける。
「次は何しようか……な?」
その甘美な質問と共に画面は暗転した───。
””
「――天使の娘の搾乳動画か……」
動画をみたあゆむは、険しい表情のまま忌々しいモノを見るように吐き捨てると更に続けた。
「あの天使の女……笑ってやがる。
反省するどころか、その“自分が女性に変わり果てた姿”を武器にして見せびらかしてる。
ホルモン投与や特定の薬で乳腺を刺激し母乳をださせるなんて、痛みも恥も全部、ネタに変えてやがるな。 この天使は反省なんてこれっぽもしてしない……」
確かにそうだよね。
こんな卑猥な画像を取って、稼ぐために教育の名のもとに動画投稿サイトにUPしていう時点で反省の欠片もないと思われも仕方がないよな。
ソンナ画像をみせられたら、遺族からすれば、怒りとか悲しみなんてもう通り越してる。
何を言われても届かない現実を前に、ただ呆然と立ち尽くすしかない。
あいつが笑ってるのを見ても、もう涙も出ない、そんな感じなんだろうな。
そんな動画を見せられたら、彼女の父も「もう犯人を殺す」、と言い出すのも仕方がないよな……。
人間だもの。
「――でも、本当に詩織さんの父を激怒させたのはこの動画じゃないの」
カスミはそう言うと、動画が終わったあとに画面に並んだ関連動画のサムネを見つめた。
関連動画のサムネには、詩織じゃなく――彼女によく似た、もうひとりの少女が映っていた。
まだ中学くらいの少女が暗い部屋。天井からのLEDライトが照らすベッドの上で眠っている映像があった。
ねむっている。けれど、その寝顔はどこか壊れていた。
光の当たり方も、表情の奥も、何かが決定的に違っていた。
何かが、おかしかった。
「まさか……これ、彼女の妹……?」
「そうよ……この動画が決め手だった……」
カスミの震える手からスマホがするりと抜け落ちると、テーブルにコトンと落ちた。




